短編 | ナノ


うらないのこうかはばつぐんだ!


「……最悪」

本日の相方が呟いた。まったくもってまるっと同意だ。時計は0時を少し超えたところを指し示している。

今日の任務は反神羅狩り。…だったが、あいつら逃げ足早すぎだぞ、と。想定よりも時間かかるわ、人数多くて骨は折れるわ、踏んだり蹴ったり。

やっと終わったと思ったところ、なんと不運なことか突然の土砂降り。バケツをひっくり返した、なんて甘い。プールの水が頭上から降ってくる、そんな雨。泣きっ面に蜂、ってやつ?
最悪。この言葉に尽きる。

「なぁ、俺ん家ちけーから寄ってけ。流石に帰れないだろ、と」
「………何もしないでよ」
「するか、同僚は何かと面倒だからな」

そこまで警戒しなくてもいーんじゃね。もうひとつ任務でもこなすかの様な緊張っぷりに腹が立つ。そんなに俺と何かあるの嫌なのかよ。

打ち付ける雨がより強くなってきたから、家路を急ぐ。ようやくたどり着いた頃には全身びしょ濡れ、こりゃパンツまでやられてんな。

カードキーを取り出し玄関を開ける。普段から寝に帰る位しか使っていない部屋だ、大して汚れてねぇだろ。

「ちょっと待ってろよ、と」

ビショビショのまま部屋に入るのは憚られたが、さすがにこいつの前で服を脱ぐわけにもいかない。洗面所の棚からバスタオルを数枚取り出して、玄関に戻る。

「ほれ、これ使え」
「ありがとう…」

バスタオルを渡すと、胸元でぎゅっと握りしめる。まだ警戒してんのかよ。……面倒くせぇな。

「玄関入って右行ったら風呂あるから入れ。んで、ベッドルームのクローゼットに服あるから適当に着ろ。女もんなんてねぇから、好きに使えよ、と」

それだけ言って、俺は再び外へ。

「え、待って。どこ、行くの?」

不安げに瞳を揺らす、なんて、そんな顔もできんだな。初めて見る表情だ。

「俺いると安心して風呂入れねーだろ。だからコンビニ行ってくる。飯もねぇしな。適当に何か買ってくるぞ、と」

返事も聞かず、傘だけ掴んで部屋を出る。

はぁ〜〜〜〜……。なんだよこれ、めちゃくちゃきついぞ、と。好きな女が部屋にいるって、そわそわすんな。でも、ナマエは俺に興味無さそうだし、手も出せない。我慢、できっかな。

家から五分のコンビニに辿り着き、そこでツォンさんに直帰の連絡を入れてないことに気付く。やべ、すっかり忘れてた。ポケットに入っていたスマホを取り出し操作、呼び出し音がなり2コール目で繋がる。相変わらず出るのがはえーな。

「お疲れ様です、と。任務完了、雨が酷すぎるから直帰しましたよ」
「わかった、報告書は明日提出しろ」

あーい、我ながら間の抜けた返事だなと思いながら電話を切る。このプール雨にも負けない神羅製スマホ、さすがだな。

さて、どうすっかな。女の風呂って、まあまあ時間かかるよな。もう少し時間を潰すべきか。

しまい損ねたスマホで、なんとなく情報サイトを開く。ちょっとした暇つぶしにはなるだろ。適当にスクロールしてると、ふと目に入ったのは今日の占いというタイトル。日付けも更新されちゃんと今日の占いになっている。どれどれ。

"意中の人と大接近。その人の持ち物を身につけると恋が叶うかも"

なんだよそれ。意中の相手の持ち物を身につけるって、それはもう叶う直前じゃね?

あいつの持ち物なんて持ってねぇぞ、と……。なんて。何考えてんだか。アホらし。そろそろ買い物して帰るか。

***

玄関を開け、「ただいま」と声をかける。返事はない。風呂はもう上がってるっぽいから、リビングか?玄関先に置いておいたバスタオルを被りながら向かう。

薄く開いたリビングのドアからチラリと見えた室内に思いっきり二度見した。
え。
なに、してんの、あいつ。

こっそり伺うと、俺のシャツを着て、さらにスーツのジャケットを羽織って座っているあいつの姿。体格差もあってかダボダボ。ぎゅっと自分を抱きしめるようにして、うっとりとした顔をしてる。くんくん、とジャケットの匂いまで嗅いで、「レノの匂いだ」嬉しそうに呟いて。

おいおいおいおい、なんだその可愛い行動。俺になんて全く興味無さそうな素振りしてたのに。動揺した俺は手に持っていたコンビニ袋を落としてしまう。

がしゃり。

あいつの顔が弾けるようにこちらを向く。

「え!あ、レノ、お、おかえり!あ、あの、これ、えっと、その…」

バッと立ち上がり、明らかに動揺してしどろもどろになってる。その顔は茹でダコみたいに真っ赤。……それって、期待してもいいんだよな、と。

スーツが濡れてることすら、今はどうでもいい。部屋に入り、ナマエの体を思いっきり抱き寄せる。

「なぁ、何してたんだよ、と」
「うぅ…レノ、あの…」

腰に手を回したまま顔だけ離すと、真っ赤な顔が目の前に。

「ナマエ、俺のこと嫌いなんだと思ってたぞ、と」
「あの、えっと…嫌い、なんかじゃ、…」

恥ずかしいのか、瞳には薄く涙の膜が張ってる。こいつの涙だったら、甘そうだな、なんて余計なことが脳裏に浮かぶ。

「あの、ね、占い、見たの」
「占い?」

まさか。

「"意中の人と大接近。その人の持ち物を身につけると恋が叶うかも"って書いてあって、それで、つい…」

叶って欲しくてジャケットまで着ちゃった、と小さな小さな声が尻すぼみになっていく。やべぇ、超可愛い。俺への態度やさっきまでの緊張は嫌いだから、ではないことに安堵して。

ほぼ無意識で、可愛いことを紡ぐ唇を塞いでしまった。気持ちを込めて、伝わるように。ふに、と当てるだけの優しいキスを何度か繰り返す。最初は固まっていたのに、だんだん力が抜けたのか俺のびしょ濡れのシャツを掴んでる。

「はぁ…」

唇を離すと、より一層真っ赤な顔。

「なぁ、俺にもなんかくれよ」
「え?」
「占い、一緒だぞ、と」

俺の言いたい事が伝わったのか、驚いていた表情が、花が綻ぶような笑顔に変わる。

アホらし、なんて思って悪かったな。占いの効果は抜群だぞ、と。

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