短編 | ナノ


××号室で


楽しいBBQももうおしまい。解散間際、レノから「××号室で待ってる」と耳打ちされた。ホテルの部屋を取ってるなんて、用意周到過ぎると思いません?

イリーナには用事あるから先に帰ってと告げ、荷物を持ってレノが待つ部屋へ向かう。まだシャワーも浴びてない、水着のまま。だって、可愛いって言ってくれたから。幸い、プール付きのホテルということもあり水着でロビーを歩く客も多く目立つことはない。

エレベーターに乗り、目的の部屋を目指す。心臓が今すぐにでも破裂してしまいそうなくらい早鐘を鳴らしている。

部屋にたどり着いたのに、呼び鈴を押すのを躊躇ってしまう。ここに、レノがいる。さっきの続き、するの? 夕焼け色の頬はきっと、そういうこと、なんだよね?

意を決して呼び鈴を押すと、ガチャと開かれる扉。内側からレノが顔を出す。レノもまだ着替えてない。

「なぁ、ここ来たって事はよ。わかってんの?」

少しだけ気まずそうに話すレノ。大丈夫、きっと、同じ。

「うん、わかってるよ」

そう言って部屋の中へと入る。ドアが閉まった瞬間、体を押されて背中がドアに張り付く。顔の横にはレノの腕。

「本当にわかってんだな、と」

顔と顔の距離を縮めてくる、待って、そんな、いきなり。咄嗟にレノの唇を両手で押さえてしまった。

「……この手、どけろよ」

ふるふる、と首を振る。レノが話すと手のひらに唇が動くのが触れて熱を持つ。

「指、なしの続き、しねぇの?」

明らかに拗ねた顔をしてるけど、肝心な、大事な事聞いてない。

「ねぇ、なんで、キス、したいの……」

しっかりアイスグリーンの瞳を覗きながら問うと、ぽかん、とした表情。えぇ……、ぽかんとしたいの、私の方じゃない?

「あ、悪りぃ、色々すっ飛ばしたな、と」

レノの唇を押さえている私の両手を優しく掴むとゆっくり1本1本指を絡められる。まるで大切な物を扱うように優しく。

「ナマエの事が好きだ。だからキスしたい」

よか、った。気持ち、同じだった。安心したら体の緊張がほぐれてきた。

ホッとしている私を見てレノも安心したのか、ちょっと強張っていた顔が緩んでる。私の手をドアに貼り付け、だんだん顔が近づいてくる。鼻と鼻が触れ合い、吐息が唇にかかる。あとわずか1cm。

「お前は、どうなんだよ」

答えなんてわかりきってる、そんな確信めいた表情で聞いてくるなんて意地悪。でもレノだって言葉が欲しいんだよね。

「私も、好き」

好きの「き」は、ほとんどレノに飲み込まれてしまった。目を瞑るタイミングくらい、掴ませてほしい。目を伏せたレノは驚くほど美しくて、私はしばらく目を閉じられないでいた。

レノが薄く目を開くと、超至近距離で視線が絡む。唇を付けたまま、「閉じないの、ずるくね?」と笑うからくすぐったい。

くすぐったくて私も笑ったら、その隙間からにゅるりと舌が入り込む。目を見つめたまま、口内を暴れる。目を閉じてするキスよりもいやらしく感じて、顔に熱が集まってくる。

「ふ……、んぅ、……はぁ」

歯列をなぞり、舌の裏や上顎を擦られると、息が上がって鼻から抜けていく。目を閉じようとすると、柔く舌を噛まれ咎められる。

どのくらいキス、してるんだろう。雰囲気に酔いしれボーッとしてしまう。背中、ドアに預けられて良かった。力が入らない。

ようやく離れた唇同士を繋ぐ銀色がキラリと光って途切れた。はぁ、と息を吐く。貼り付けられた手が片方だけ解放され、レノの手が私の唇をなぞる。

「やっとキスできた。ずっとこの唇に触れたかった」

愛おしい物を見つめる、そんな眼差しにそわそわとしてしまう。こんなに愛情深い人だったなんて。私だって、ずっと、触れたかった。

「ね、レノ。もういっかい……」

僅かに目を見開いてから、ぐっと細まるアイスグリーン。

「いっかいでいいのかよ」
「ううん、いっぱいしたい」

そう答えると、嬉しそうに「俺も」と言って、また唇が重なった。


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