短編 | ナノ


未来の可能性


「ペアリングもらったの」


お昼休み、嬉しそうに話す同僚ちゃんの顔が忘れられない。幸せがあふれてて、こちらまでニコニコしちゃうような。ふと、自分の手を見る。そこにアクセサリーはない。そういえば、レノとお揃いのアクセサリーって、持ってないな。彼自身、ピアスひとつしかしてないし、それもルードさんとお揃いっぽくて。こっそりルードさんに、嫉妬したのはここだけの話。

私も欲しいな。会えない時間多いから、何かひとつでも繋がるものがあったら、いいんだけどな。

「どーした?」

お風呂からあがったレノが、頭をワシワシと拭きながら声をかける。

「んー、レノはさ、ペアリングとか興味ある?」
「あ? んー、あんまりだな、と」

……。
そんな気はしてた。邪魔くさいって思ってそう、だもん。


「ペアリングがどーしたんだよ、欲しいのか?」
「う、ううん。今日同僚ちゃんがもらったって話してて、それで」
「ふーん」


ペアリング欲しいなんて、思ったことは忘れよう。私が欲しがっても、相手が必要ないって思ったなら、無理強いはできないし。

「……んな悲しそうな顔すんなよ、と」

冷蔵庫からビールを取り出したレノが隣に座る。その顔は少し気まずそう。

「まあ、興味ねぇっつったら、ちょっと違うんだけどよ」

そう言うと、私の方へ向き直し、今度は珍しく真面目な顔。

「仕事柄、ナマエに繋がるもん、持ってたくねーんだよ。何があるかわかんねーし、もし巻き込む事になったらって思うとな」

俺の唯一の弱みだもんなー、と、優しく話す彼。そうか、彼なりに私をこうやって守ってくれてるんだ。それなのに、変な事言っちゃったな。

「ありがと。ごめんね、変な事言っちゃって」

彼の心を知れて胸の奥がほんのり暖かくなる、と同時に、やっぱり危険な仕事、なんだよなぁと不安もよぎる。

「お。爪、新しい色?」

レノはよく気がつく男だ。ネイルの色なんて、男性からしたら区別すら付かなさそうなのに。

「うん、可愛い?」
「ああ、似合ってるぞ、と。それ、マニキュア?」
「そうだよー」

これ、とマニキュアのボトルを見せる。サロンに行くのが面倒な時はセルフにするからマニキュアもついつい集まってしまう。そのボトルをじっと見つめ、何か考えてるみたい。そんなに気に入った?

「なぁ、それ、俺の小指だけ塗ってくんね?」
「え? いいけど、なんで」

この色、好きなのかな。レノにお似合いの色だもんね。だって、レノっぽいって思って買ったんだもん。恥ずかしいから、言わないけど。

「それ塗ってたら、俺とナマエの赤い糸みたいじゃね?」

屈託のない笑顔でそんなこと言うもんだから、びっくりしちゃった。あかい、いと。

「ペアリングはまだ無理だけど、これなら、な」

ほれ、と私に左手を差し出してくる。その手をそっと握り、小指の爪にだけ赤を乗せる。やっぱりとても似合う。

「剥がれたらまた塗ってくれよ、と」

赤い糸が切れたら困るからな、と笑う彼の優しさに触れて、さっきまでのざわざわが全て消えた。

「本物は、もう少し待っとけよ」

いつかの未来を期待、してしまった。それまでは、運命が途切れないように私が赤で繋いでいこっと。

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