短編 | ナノ


モブ太郎に助演男優賞を


会いたいな。会えないの、わかってるけど。こんな気持ちになるのはあの男のせいだ。名前なんて覚えてやらない。仮に、モブ太郎、としよう。

そう、七夕である本日、ロマンティックな言い伝えのある日。そんな日でも、彼には会えない。なぜなら、彼は仕事だから。それはいい、割り切ってるから。それなのにあのモブ太郎のせいで……。

あいつが、今日、私に告白なんてするから。しかも、告白のセリフ、「僕なら毎日一緒にいれます」ってなに。私が一緒にいたいのはアンタじゃない、レノだ。レノがどれだけ忙しく仕事をこなしているかアンタは知らないだろうけど、レノを悪くいうような告白に心惹かれる訳が無い。はぁ? なんでそんな事言うの? 地獄に落ちろ。言いたい放題に怒った気がする。なんて断ったかすら覚えてやしない。

あまりにイライラしてしまって私は帰宅途中で買ったお酒を飲む。今日は飲むと決めた! ストロングだ! モブ太郎のせいで、蓋をしていた気持ちがあふれそうだから! 会いたい! そりゃ会いたいよ! 毎日!

会いたい気持ちに蓋をしていたのに寂しくなってしまった。こんな気持ちになったのはモブ太郎のせいだ。こうなったら、七夕のお願いはモブ太郎にどうかタークスの粛正が下りますように、だ。

ぐでんぐでんになるまで飲んで、飲んで、飲んで。文字通り浴びるようにお酒を飲んだ。もうだめ、ねむぅい。机に突っ伏していざ夢の中、というところで、ガチャ、って聞こえた気がする。なんで、なんのおと、かくにんも、めんどくさぁい。

「おーい、寝てんのか。ぅえ!? 酒くせぇ、何してんだよ、と」

一番聞きたい声が降ってきた。眠気と戦いながら顔を上げると、そこには大好きな、大好きなレノの顔。

「レノだぁ〜〜……」
「なに、泣いてんだよ」

呆れたように笑いながら、私の隣に座って頭を撫でてくれる。なんで、いるの。

「あ? 急いで仕事終わらせてきたんだよ。誰かさんが、知らん男に告白されたって聞いたからな、と」

……なんで、そんなこと知ってるの。

「タークスの情報網なめんなよ」

タークスこっわ。てゆうか、レノ、エスパー? 私の聞きたいこと全部答えてくるなぁ。

「ナマエ、口から全部出てるぞ、と」

どんだけ酒飲んでんだよ、と、レノが笑ったところで、フラフラになりながらも、レノにくっついてみる。会えると思ってなかったから、涙が止まらなくなっちゃった。

「あの男に言われたこと、気にしてたんだろ? ナマエ、かわいーなぁ。そんなに俺が好きか、そんなに会いたかったのかよ、と」

絶対ニヤニヤしてる。でもそんな意地悪な言葉とは裏腹に優しく、そっと、壊れ物でも扱うように、私をぎゅっと抱き締める。

「な、毎日会えるって約束はしてやれねぇけど、代わりのもん、いるか?」

代わり、なんだろう。こくん、と頷くと、スーツのポケットから何かを取り出す。

「これ、やるよ。これがあれば今よりは会えるんじゃね?」

渡されたのは見覚えのあるカードキー。これは、レノの家の、やつだ。

「一緒に住もうぜ。で、俺が帰ってくんの、待ってろよ」

胸がぎゅうってなって、涙がより一層止まらなくて、もうボロボロ。

「返事は?」

もちろん、イエス。明日にでも引き払う連絡しないと。こくこくと頷くと、「はは、顔ぐしゃぐしゃじゃねーか」って笑いながらキスされた。だいすき! 「酒くせぇ」ってまた笑われたけど。

私の七夕はまさかまさかの大逆転ホームラン。願い事は、仕方ないから取り下げてあげよう。その代わりにもらったカードキーを大切に大切に撫でてみる。それを見てたレノが、おまえ、怒ると怖いのな、なんて言ってたけど聞こえないフリしとこ。

次の日、モブ太郎は何故かボロボロだった。なんでかな。まさか、七夕のお願い、叶っちゃった?

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