短編 | ナノ


心くすぐる、薄荷、くろすぐり


さて、お昼だ。今日は人気のお洒落カフェでランチを食べる、そう決めていた。そのためにも午前中は頑張ったし、もうお腹もペコペコ。カバンからお財布とスマホを取り出し、早速お昼休憩へ。

エレベーターを降りエントランスまで来ると、見慣れた赤い髪が目に入る。何がきっかけか忘れたけど、私を見つけると声を掛けてくれるレノ。話しかけられるたび、私の心は飛び跳ねる。好き、なんだよなぁ。

でもレノは私が特別なわけではない。だって、色んな人に同じように話しかけてるから。レノが話しかける大勢の中のひとり。それでもいいんだけどね。そもそも釣り合うとも思えないから。自分でこんな事考えると、ちょっと、切ないけど。

「よぉナマエ、これから飯か?」
「うん、あのカフェ行ってこようと思って」
「あー、この前話してたとこか。俺も腹減ってんだけど、ご一緒してもいいか、と」

まさか、レノからそんなお誘いされるなんて!

「もちろん! 一緒に行こ!」

声が弾みすぎてる気がする。喜びが隠しきれない。あからさまな好意は出したくないんだけど、つい、ね。

***

「ん〜〜〜。美味しかった〜〜〜!」
「だな、これは流行るわ」

カフェのランチは最高だった。こういったお洒落カフェは量が物足りないところも多い中、このお店はボリュームたっぷり! でもお野菜も多くてヘルシー。今日頂いたのは、一番人気のオーガニックランチ。ワンプレートに盛り付けられたサラダ、玄米のおにぎり、グリルチキン、とても美味しくてペロリと平らげてしまった。食後にはいい香りのカシス酢ソーダ、とまぁ体に良さそうなものばかり。

レノはというと、こちらも人気の高いパスタを注文していた。気怠げにくるくるっとフォークでパスタを巻いてる姿を見てきゅん、とするんだから、まあまあの末期だって自覚はある。

やっぱりきちんとご飯を食べると元気が出るな。「ふっ」とレノの笑い声が聞こえて顔を上げる。しまった。せっかくレノとランチ来てるのにご飯に夢中になりすぎた。

「えらく美味しそうに食べるんだな、ナマエ」
「だって本当に美味しかったんだもん……」

ちょっと恥ずかしくなってムっとしながらレノを見ると、なんだかムズムズしてしまうくらい柔らかな笑顔。初めてみるその顔、好き、だな。

「さ。そろそろ行くか」
「わ! もうこんな時間!」

楽しい時間はあっと言う間。休憩終了まであとちょっとしかない。リップ塗り直してからお会計しよっと……て、あれ? いつもポケットに入れてるリップがない。甘い香りのするお気に入り、どこいったんだろ。

「どうした? なんか探しもん?」
「いや、リップ忘れちゃったみたいで。私、ご飯の後、唇乾燥しやすいから塗っておきたかったんだけどね」

デスクに置いてきちゃったかな、戻ったら塗り直そうと思った時、ふむ、と何かを考えている様子のレノが、じっ、と視線を合わせてきた。な、なに、ドキドキするから、やめてほしい。

すると、自分のポケットからリップクリームを取り出し、ぽてっとした唇に塗り出した。この間、視線は絡んだまま。んまんま、と、リップクリームをなじませた唇は濡れたようなツヤがあって、色っぽい。見てはいけないものを見てしまったような背徳感。

リップクリームを持っていない方の手が伸びてきて私の顎をつかむ。いわゆる、顎クイ。え、と思ったら、先程までレノの唇に触れていたリップクリームが、今度は私の唇に触れる。優しく左右に往復して。言葉も出ず、されるがままの私は、きっと真っ赤。

「仕方ねぇから、ナマエにリップのおすそ分けしてやるぞ、と」
「……っ!」

な、なんて男だ。こんなことされたら、もっともっと意識してしまうじゃない。

「あ。唇から直接おすそ分けの方が良かったか?」

ニヤリとしながら、唇をペロッとする赤い舌に見惚れてしまう。メントール入りだったのか、スースーする唇がじんじんと熱くなった。

prev / next

[ back to top ]


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -