好きと言えたらそれでよかった 無愛想幼馴染×不良 |
「タカオミ、怪我した」 俺がそう言うと、決まってそいつはひどく不愉快そうな顔をする。 ただでさえ冷え切った瞳がさらに傷だらけの俺を見て、歪む。 口の端は切れて血を零し、頬も膨れている俺の顔。 きている服も土埃で汚れてる。 服の中は打撲とかで赤くなってると思う。とにかく、色々ボロボロ。 「…はあ…」 返事の代わりにそいつは盛大に溜息をついた。けれど玄関の扉をさらに開けて、俺を中に入るように促す。 「えへへ、ありがと」 俺は慣れた足取りで玄関で靴を脱ぎさっさと二階へ上がった。今は昼の3時。孝臣しかこの家にいない。 「なんでいつも俺のとこくんだよ」 「だって将来医者になるんだろ〜?だったら孝臣のとこでいいやって思って」 「馬鹿か、なんでそうなんの。全然関係ないから」 完全に呆れ返ってる。 なんでー?なんか馬鹿なこと言ってる?俺よくわかんないんだけど。 孝臣は俺の幼馴染だというのに頭がいい。高校も別々。だけどたまにこうして、怪我を治して貰うために会いに来る。 首を傾げる俺に孝臣はTシャツと短パンを投げつけてきた。汚いからこれに着がえろと。 言われた通りに制服を脱いで出された服に着替える。うわ、つかこの制服タバコ臭。匂い移ってやがる。 「上脱ぎっぱでいい?湿布貼ってほしい。買ってきたから」 今はまだ赤くなってるだけだけどあとで気持ち悪い色になると思う。今日は割りと強めに蹴られてしまった。いてー。 黙ったままの孝臣を見上げると不満そうな顔をしていた。『自分でやれよ』の顔だ。 「ねえ〜おねがぁい」 「うぜえ。シナ作んな」 冷てえ。 そういうやつだけど。 孝臣の反応にケラケラ笑ってしまう。でも笑うといろんなところが痛くなるから上手に笑えない。 「つかなんだよこの髪。」 消毒液とか準備をしながら聞かれたのは俺の髪の色。ブリーチガンガンかけて金髪。でも今ちょっと黒髪も出てきてプリンになってる。 「似合うっしょ?」 「前の方がいい」 「え゛っ」 はっきり言われたことにショックを受ける。前ふっつーの茶髪。友達には金髪イイねって言われたのに! 「じゃ、じゃあ…戻そっかなぁ〜…?」 「…なんで」 なんでって! お前が今言ったからなのに! とは言えないので唇を尖らせる。 「なんでも。茶髪に戻す」 「黒髪にはもう戻さねえの?」 「くっ…くろ…?」 黒髪とか何年前の話だ 中2の時はすでに茶髪だったからな… ちなみに孝臣は黒髪。 俺とは違って傷んでないから綺麗な髪をしている。 黒髪がこんなにも似合う人を知ってるから俺が黒髪なんて烏滸がましくてできない。俺には安っぽい金髪がお似合いだ。 とか思ってたら孝臣が俺の目の前に座った。突然目の前に広がった端整な顔に喉が引き攣る。長い睫毛、通った鼻筋、切れ長の冷たい目。 嫉妬してしまうぐらい顔が良い。 本当にずるいよな 「いてっ」 「我慢しろ」 「んん…」 消毒液を含んだコットンが傷口に触れて痛みが走った。我慢しろと言われたからなるべく我慢する。目をギュッと閉じて、自分の手の甲を抓る。…なんか、注射を耐える子供みたいだな。でも地味に痛い 「傷増やしてどうすんだよ」 孝臣の落ち着いた声。 目を瞑ってるから余計にストンと身体の底に落ちる。 「え?」 「手。抓るな。」 「でも、いてーんだもん」 「殴られるのは平気なくせに」 …平気では、ねーけど… その時はアドレナ?なんとか?が出てるからあんまり痛くない。興奮がさめると、鈍い痛みが出てくる 「俺の腕握れ」 「へ」 「いいから」 孝臣の手が俺の手に触れたから、パッと目を開いた。孝臣の顔が数cmのところにある。 一瞬、目があったけれどすぐに孝臣は俺の手に視線を落とした。 俺の手を孝臣の腕へと誘導され、ギュ、と僅かに握る。シャツのとこだけ。孝臣が痛くないように。 孝臣もまた、俺に気遣っているようだった。 いつも無愛想な態度をしているというのに、手つきはひどく優しく繊細。そして手際もいい。 時々傷に染みて顔を顰めると、必ず一旦手を止めてくれる。 俺はこの時間がどうしようもないくらい好き。孝臣のこの指先も、そばで聴こえてくる孝臣の呼吸も、少し走り気味の自分の鼓動も。 「身体は」 その言葉に意識が戻る。 顔の治療が終わって、孝臣が少し離れた。 「ここ…と、ここ」 「ここ?」 「ンッ…うん…」 ヒタ、と冷たい孝臣の指先。消毒液がついてるからだろう。俺はその温度差に、上擦った声が漏れた。 孝臣は俺の今の声が聞こえなかったのか、それとも聞こえてないふりをしてるのかわからない。 俺の傷をジッと見て、傷の外側をそっとなぞっていった 俺はその様子を、今度は目を開けたまま観察する。 孝臣は慣れた手つきで、湿布を剥がし俺が指定したところに湿布を貼る。冷たい。俺はまた声を漏らす。 気づけば孝臣の指先のせいで、じんわりと、全身に熱が溜まっていた 孝臣 たかおみ たかおみ 「おい」 孝臣が苛立ちを露わにした。 理由は俺が孝臣のうなじに触れたから。 温かくて、指心地のいい肌 俺はそこから指を滑らせ、首筋をなぞり、喉仏に触れる。 熱い首筋。 俺は孝臣の腕の中に割り込むようにして体を捩込む。両手で孝臣のシャツの中に手を入れると、孝臣の肩がピク、と跳ねた。 無駄な脂肪はなく、かといって筋肉がすごくあるわけでもない。引き締まっているお腹。薄い肌。 「澪、やめろ」 俺は孝臣の声を無視して、お腹側から徐々に上へと手を這わせる。孝臣の身体。孝臣の匂いがする。 「いいじゃん。今日も俺が女側でいいからさ」 孝臣の耳に唇をつけながら甘く囁いた。 なるべく孝臣がその気になるように。 「孝臣に触られるとムラムラするだもん」 孝臣が俺の体に優しく触れるから。 俺に、普段くれない優しさをくれるから。 だから俺はその優しさが欲しくて、わざと殴られる。 孝臣だけがいる日曜日の午後に。 俺が孝臣のベルトに手をかけ、胸に手を這わせた時、孝臣が俺の腕を乱暴に掴んだ。そのまま孝臣のベッドに押し倒されて俺を見下ろす 孝臣の端整な顔が歪んでる。 俺に欲情してくれてる 「なんでお前ってこうなの」 孝臣は吐き捨てるように呟いた こうなのってどのこと聞いてんの。 お前の前に現れる時怪我ばかりしてること? それともその治療のあとお前に抱かれること? 俺は孝臣の質問には答えずに笑うだけ。吐息交じりの笑い声。 だって。 けがをしないとお前に会いに来る口実が見当たらないから。 だから俺は今こうなってる。 たぶん、もっと上手に、お前と近付ける方法があるはずなんだけどな 俺ってどうしてこうも馬鹿なんだろう - - - - - - - - - - あとがき 澪からしたら孝臣は、色んな面で差がある遠い存在の幼馴染で、共通点も何もないからどうやって会いに行けばいいかわからない存在。とにかく恋しい。 孝臣からしたら澪は、たまにしか会いに来ないのにいつも誰かに殴られてる上、抱いてとせがんでくるどうしようもない存在。でも見捨てられないのは、愛があるから。(情じゃない) さらに後書きを加えると、 どうして煙草を吸わない澪からタバコの匂いがするのかとか、 どうして喧嘩をしてるくせに手の甲は怪我してないのかとか、 どうしてセックスする時、すんなり挿入出来ちゃうのかとか、 孝臣からしたら不愉快な事しかない。 |