上々なので愛します!
美形×酔っ払い平凡






「なんっっっっでまた、フラれるかなあ〜〜!!!」


とあるどこにでもある居酒屋チェーンにて。俺は魂の叫びを丸々っと声に出していた。

ドンッと、ほぼ空に近いジョッキを机に打ち付けながら項垂れる。なんかもう、だめだ、とにかくなんかもうだめだ。

女にフラれて、もう、

なにもかもだめ。


「酔ってんね」


煩い俺と違って、穏やかに笑いながらグラスを口につける目の前の男。全体的に雰囲気が柔らかいこの男は滅茶苦茶女にモテる顔をしている。し、実際モテる。

男からしてみたら憎たらしい話だが、如何せん、性格まで良いので縁を切ることが出来ないでいる。

イケメンなのにノリいいし。
かなりの回数で奢ってくれるし。
普通に良いやつ。

だから俺はそれに甘えてベロベロになる。


「も〜俺のなにがだめなの〜〜?結婚しようねって言ってたじゃ〜〜んなにがだめなの〜〜」


数時間前まで彼女だったはずの元カノの言葉を思い出しながら嘆く。

3ヶ月前まではラブラブだった筈なのに。お互いもう良い歳だから結婚を前提にお付き合いしてる感じだったのに。なにこれ。なんで。


「別れる前なんて言われたと思う?『女々しい』、だって〜〜!!俺のどこが女々しいの〜〜?」

「そういうとこかなあ」


俺の嘆きにサラッとツッコむ柊。ムッとしながら顔をあげると爽やか満点の笑顔でこちらを見下ろしてる。うっざ


「ああっ!?そゆとこってどこが!」

「現在進行形でだっつの。ほら、もっと飲みなよお兄さん。その女の事は忘れよ」

「あ、どもども」


さっきからこれの繰り返しな気がする。

とは思うが、やはりアルコールは思考を麻痺させてくれるから傷心中の俺にとっては至高のお薬だ。ビール何杯目かわかんないけど。


「つか、おれたちもう27だよ〜。あれ?28だっけ、まあいいけど、ここからまた女探すのだるすぎない?」

「そうね」

「柊は?おまえ今彼女いたっけ」


やべえ、どうだったかな。
基本こいつの周りって女いるイメージだからいつもいるものだと思ってたけど。なんてったってモテ男ですから。


「彼女はいないな」


首を傾けながら含みのある言葉で笑う柊。…彼女は、ね。セフレがいっぱいいんのかな?やだあ。下品


「要らない子でいいから紹介してよお」


顔がいいやつはいいなあ。
なにも頑張らなくても女が寄ってくる。

お裾分けくらいなんてことないだろうに、柊は「だめー」と拒否った


「お前女出来ると俺と会わなくなるじゃん。俺はいつもおまえ優先なのに」

「そんなことないれす〜。時々会ってましたあ」


って言っても確かに会うの1ヶ月ぶりくらいか。彼女と毎日一緒いるから、柊とはちょっと会う機会が少なくなる

でもよくない別に?
柊だって女と遊んでんだし。


「俺やだもん、彼女できないまま歳とって独り身になるの」


三十路前には結婚したいから次がラストチャンスだ。だからできるだけ早く恋人が欲しい。

うえーん、と泣き真似をする俺にため息をつく柊。なんだか憂い顔をして俺を見てる。突然のイケメンの憂い顔。

どうした!!


「どんな女がいいんだっけ」

「んぇ?」

「タイプ」


柊はそう言って俺にまたビールを注いできた。こいつもしかして俺を潰す気なんじゃねーかと思う。

けど飲んじゃうよね〜


「えーっとぉ、顔はちゅうのじょういじょうで、優しくてえ、ごはんおいしくてえ、エッチな子」


最後が特にマストかなあ〜
えへっ、と笑うと柊も笑った


「1人いる。オススメ」

「えっ、うそ!」

「それにプラス、顔は上の上」

「えぇっ!」

「しかもすっごく、えっちうまいよ。」

「えぇっ〜〜〜〜!」


ときめいてしまいながら柊の話にめろめろになる。誰だかわかんないけど、すごく好物件。顔がめっちゃいい上にエッチも上手いだと?やばい、聞いてるだけでむらむらする


「だ、だれ?だれだれ?」


身を乗り出して柊に聞く。
むしろなぜ今まで紹介してくれなかった?

目を輝かせる俺に、にこりと笑いかける柊

そして、


「目の前にいる」


と言った。



・・・。

・・・・・・・?



「ん?」

「だから俺だって。なに、だめ?」


柊の発言に目が点になる

いや、
いやいや。

いや〜〜〜


「だめっつーか、柊、おとこだし…本気で言ってる?酔いやばい?」

「お前よりは酔ってないよ。男とか別にどうでも良くない?性格の相性ばっちりだし俺顔もいいだろ」


そ、そうだけど、つか自分で顔良いとか言うなぶち殺すぞ。

あと性別って一番大事だかんな。


「しゅうが女だったらなあ、付き合う通り越して結婚してるけどぉ〜きっと美人だろうし」

「俺は三希が男でも余裕で結婚できるんだけど」

「ゴブォッ」

「うわ、きたな」


柊の発言に噎せた。
とんでもないことをサラッと言われて動揺しないわけがない

まじで?
まじで言ってんの?


「お、おと、男同士は結婚できないよ」

「それはどうにかする」


大体結婚できなくても死ぬわけじゃないし。と続ける柊

え、えぇ〜〜っっ
そこは『冗談だからマジリプすんなよ〜』って笑えよ〜!!

それとも俺酔いすぎた?
幻聴だろこれ

じゃないとありえないよなあ、あの柊が俺と結婚がどうとかって、

ねえ?


「三希、どうする?」

「え」

「女やめて俺にするよね?」


いつものイケメンスマイルを俺に浴びせる柊。しかもこの、イエスしか認めない感じの圧が凄い。え、本当に、冗談じゃないの?

俺はなんて返答すればいいかわからず、ちらっと柊を見ては机を見るの繰り返しをする

でも確かに、柊は今まで出会った人間の中で一番顔が良い。性格も合うし、料理も上手い。しかも給料もいい。

あれ?
割とめっちゃいいのでは?


「割とめっちゃいいでしょ」


俺の思ってることを柊がいいあてる。
俺はそれに頷く。
割とめっちゃいい。


「三希は、俺の顔好き?」

「まあ…すき。目とか綺麗だし、睫毛長いし…」

「性格は?」

「申し分ないくらいすき」

「じゃあ、性別以外だったら他に何が駄目なの?」


いや、男っていう点が一番問題なんだよね。どうした柊。頭のネジ取れてんのか?

でも、もし性別という壁が邪魔をしなければ、柊という人間は俺にとってかんぺき…な、気が。


いや。
待てよ。


「一つだけある!」

「なに」

わかりやすく不機嫌な顔するなよ。


「セックス」

「・・・ああ、それか」


むっ、なんだその超くだらないみたいな顔は!
馬鹿みたいなこと言ってると思われるかもしれないけれど俺にとったらめっちゃ大事!

大体男同士のセックスって尻に突っ込むんだろ?グロ。いくら柊がセックスうまくたって男同士になれば話は別だ


「んじゃあ今日さっそく試そ」

「え?」

「良かったら俺を恋人にしてね。」


そう言って俺の手を握る柊
スルリと、細めの指を俺の指一つ一つに絡めてきた

熱い、柊の指。


「・・・」


まじで?



「あ、あのぉ〜…しゅうく、」

「何か問題?」


慌てる俺に、柊は首を傾げた。
あたかも「なにもおかしくないよね」と言われているかのような雰囲気。

たぶん、問題だらけだと思うんだけど。俺が変なのか?いや変じゃないよな?

だって、男同士で、

しかも俺ら、8年近く友達だったのに、そんな、やれるもんなの?

俺はしゅうと違って顔がいいわけでもないし、柊はどうして俺と恋人になりたいんだ?柊なら良い女いっぱい寄ってくるだろ。


つか、柊って、
つまり、

俺のこと好きなの?


そう思った瞬間、グワワと突然身体が熱くなった。主に顔。あつい。お湯を頭から被ったみたいだ。

おまけに、血流が良くなったせいかなんなのか、世界がぐるぐる回り始めた

視界が歪む。


やば


「…三希」

「っは、ぅ…」

「寝落ちする前に俺の家行くよ」


酔いが急激に回って、頭がグラグラ揺れながら机にもたれる俺。
その耳元で、柊は囁いた。

俺と違って全く酔ってない柊
俺の背中を撫でて「ほら」と促す。

柊の家。
ここから徒歩5、6分のところ。


「う、う………」

「このまま帰るのもきついでしょ?俺の家までタクシー使うから」


柊は俺の扱いをわかっている。8年近く一緒にいるのだから。
俺が甘い蜜に弱いことをよく知ってる。

しかも微笑みまで甘ったるい。
いやなやつめ。


ここで、『うん』と言ったら、このまま柊とヤる事になる。

おまけに俺をベロベロに酔わせて反抗できない状態にするという、計画的犯行に持ち込まれてるわけで。本当に嫌な奴だ。良い奴ってのは撤回だな。

だから、まんまとその誘いに乗るのも癪だから俺は首を横に振った。

本当にしょうもない抵抗だけど。


「………にして」

「え?」

「おんぶ」


こいつの家までは上り坂。
男をおんぶで運ぶのは割ときつい。
たぶん明日筋肉痛になるレベル。

だというのに、そう呟いた俺に柊は満足げに笑った


「なんならお姫様抱っこしてあげようか」