死ぬ前にたべて

性描写注意

僕は変態なんだと思う。そう思ったのはある人を好きになってから。
変態っていうのは普通の状態ではなく異常、または病的な状態のこと。つまり今みたいなこと。うん、あってる。

そして僕は自分が変態であることを死ぬほど後悔していた

ドアの前には僕の憧れの人、的場くんが立っている。綺麗な顔の的場くんは、作り物のような素敵な目をまん丸にしていて僕を見ていた。

ちなみにここは教室で、今は体育の授業前。誰もいないはずだった。

だから、僕は的場くんのシャツに顔を埋めていたわけで。


そんな僕を発見してしまったから、的場くんはこんな表情を。


「…い、まいくん…?」


沈黙が続く中、的場くんが掠れた声で僕の名前を呼んだ

憧れの的場くんに名前を呼ばれた嬉しさとか、幸せとか、そんなことよりも死にたいという思いの方が圧倒的に勝る


「それ、俺の机…だよね?」

「あっ、えっと、その、」

「手に持ってるの、もしかして俺のシャツ?」


的場くんは少し動揺しているようで、僕が持っているシャツを指差しながら少しずつ僕に近づいてきた。どうやったって言い逃れができない。しかも咄嗟に言い訳を考える程の脳も持ち合わせていない

僕はただただ震えながら、「ごめんなさい」と泣きながら首を横に振る


「ご、ごめんなさい、ぼく、ぼく」


僕は愚かだった。
誰もいないと思って、憧れの的場くんのシャツの匂いを嗅ぐなんて。馬鹿なことをした。

的場くんは王子様みたいな人だった。
いつも爽やかで、笑顔を絶えず浮かべてて、こんな僕にもとっても優しい。女の子からは持ちろん男の子にも人気な素敵な人。

だから、つい、欲が出た
的場くんの匂いを、直接知ってみたかったから。


「今井くん?泣いてるの?」


いつの間にか的場くんは僕の近くに来ていたらしい。視界が涙で歪んで下を向いていたから気づかなかった

頬を触れられて、ビクッと体が跳ねる。僕は殴られるのかもしれないと思った。気持ちが悪い、死ねよホモと言われてもおかしくない。

的場くんは優しいから、そんなこと言わないかもしれないけれど


「ひっ、く、ぅ、ご、ごめんなさい、きもちわるいことして、ごめんなさい」


ボロボロ涙を流しながら僕は的場くんに謝った。嫌わないで、とも言いたかったけれどそもそも仲が良いわけでもないし好かれていたわけでもない。僕のことなんて眼中になかったのだからこんなこと言っても無意味だと思った


「泣かないでよ、今井くん…俺は怒ってないよ」

「っう、うっ、」


的場くんはこんな変態にも優しかった。
優しく俺の頬を両手で挟み込んで上を向かされる。背の高い的場くん。ボヤけてるけれど、すぐ近くに的場くんの格好良い顔があって余計に胸が痛くなった。


「どうしてこんなことしたの?」


まるで子供を宥めるような優しい声。
親指で器用に僕の涙を拭いながら、僕の変態行為について質問をしている

でも本当のこと言ったら絶対引かれてしまうと思って余計に涙が出た。嘘をつくのも嫌だけれど本当の事を言ってこれ以上気持ちが悪がられるのは嫌だった


「今井くん?」

「ど、どんな香水使ってるのか、知りたくて」


僕は自分の保身を選んだ。
だって、嫌われたくない
もう嫌われてるだろうけど

初めて2人きりで話せたのが今日だなんて

もう死んじゃおうかな本当に。


「香水?」


的場くんは少し驚いたような、的が外れたような声色で僕に聞き返した
いつも隣を通った時良い匂いがするから。最後に聞いておきたい。


「ごめんね、俺香水使ってないよ」

「えっ、で、でも」

「良い匂いする?あはは、ありがとう。汗かいたときパウダースプレー使ってるからそれかな」


的場くんは自分の袖に顔を当てて確認した。自分ではわからないのか、首を傾げる彼。うそ、こんな良い匂いしてるのに。


「なんだ、てっきり俺の事好きだからなのかなって思ったんだけど」

「えっ」

「違うの?」


僕はその言葉に呆然とする

う、

うそ
うそうそうそ。

ばれてるなんてそんな


的場くんは微笑みながら慌てる僕の目をじっと見た。溶けそうになるくらいの熱い視線。彼はどこまで、知っているのだろう。

ああ、おしまいだ、この気持ちを知られてしまったら。
もう二度と僕はこの人の近くを通ることが出来ない。


「今井くん?」


黙った僕に的場くんは優しく声をかけてくれた。カタカタ震えている僕の身体を引き寄せる彼

腰に、的場くんの手が置かれた
怯えるべきなのか喜ぶべきなのかわからなくなる


「本当のことを教えてくれたら良いことしてあげるよ」

「ほ、本当のこと…?」

「うん。本当のこと」


気のせいか、的場くんの声がやたら甘くなった。しかも顔が近い。腰を抑えてない方の手が僕の顔に触れて親指で唇をなぞっている

なんというか、非常に性的な手つきだった。僕の中の何かを駆り立てるような手つき。甘美で厭らしい。僕はどうしていいかわからなくなる


「本当は、どうして俺のシャツの匂いをかいでたの?」


耳元で、甘く、的場くんが囁いた
唇と吐息が直に耳に当たってびくびくと身体を震える。

ああ、だめだ
今ので何も考えられなくなった

本当のことを言ったら的場くんは良いことしてくれるって言った。良いことって?大体、頭の良い的場君のことだ。もう俺の考えなんて読めてしまってるに決まってる


「ほ、ほんとうは…」


的場君の匂いと体温、そして吐息に今にも倒れそうになりながら答える。優しい的場君はそんな僕に「うん」と相槌を打ってくれている


「的場君の、匂いを、かぎたくて、」

「どうして?」

「す、きだから…ずっと、すきで、どうしようもなくて、」


的場くんの予想は見事的中していた
僕は的場くんがずっと好きだった。でもそれこそ王子様と貧民くらいの差があるから話しかける勇気もないし、ただひたすら見ていただけだったけれど、好きだった。


「好きだから俺の匂いかぎたかったの?」


馬鹿な事をしたと思う、本当に。
僕は涙をぬぐいながらその質問に頷く。


「好きっていうのは俺にキスされたいとかそういう方の好き?」


キッ…!?
突然出てきた過激な発言に過剰反応しながらコクコクと必死に頭を縦に振った。

馬鹿正直に答えてしまった
でもどうせ引かれてるんだからもう今更感はある。


「…俺とえっちなこと想像したりした?」

「へ?」


そう言いながら、腰にあったはずの手がスルリと体操服の中に入ってきた

生暖かい的場君の手
その指先がスルスルと上に上がっていく


「ひっ」


僕はビックリして背中が反った
的場君の体に盛大に胸をぶつけてしまう


「あっ、ご、ごめ、っ?、??」


何が何だかわからなくなった
えっと、最後に的場君、なんて聞いてきたっけ?というかこの手は?なんで僕の脇腹触ってるの


「的場君…?」


わけがわからなくて涙目になりながら的場君を見上げた
すぐ目の前で僕の顔をじっと見てたらしい的場君。しかもどこか息が荒い


「可愛い今井くん」


的場くんはそう言って、僕にキスをしてきた。唇に、的場くんの柔らかい唇。それに僕は余計にパニックになる

えっ、え、これ、え
キス?


キス、してるの?


「ぷはっ、ま、とばくンン」


息をしようと離れたら頭を抑えられてまた唇が重なった
しかも今度は舌が僕の口の中に入ってきている

くっ、くるしい…!


「舌、出して。鼻で呼吸して」


苦しがってる俺に気づいた的場くんが僕にそう言ってきた。僕はとにかく言われるがままのことをする

べ、べろ、だせばいいの…?
言われた通りにすると、的場くんがヌルリと僕の舌に的場くんの舌を絡ませてきた

瞬間、なんとも言えない気持ちよさが身体を襲う


「はぅ、ん…ぅ」


なにこれ
なんか身体、の中、が、

その焦れったいような気持ちよさに縋りようにして的場くんの服を握る

僕、本当に今、的場くんとキスをしてるの?
信じられない

目を開けて確認しようとしたら的場くんの唇が離れた


「今井くんキス初めて?」


僕とは違って息一つ乱してない的場くん。足すらカクカクしてる僕を支えてくれながら聞いてきた


「は、はじめて…」

「本当?うれしいな」


嬉しい?
その間違ってる言葉に首を傾げる
嬉しい、って、使い方間違ってるんじゃ…?


「ねえ今井くん」

「ンっ、ぁ、な…に?」

「もう一つ今井くんの初めて貰ってもいい?」


的場くんがまた僕の服の中に手を入れてきた
けれど今度は脇腹なんかよりももっとずっと上。胸の突起があるところ

そこを的場くんの指がかすめて変な声が漏れる


「は、初めてって…?」


僕の質問に的場くんは微笑むだけ。
代わりに左胸の突起をくりくりと弄られ、変な気分になる

なんか、むずむず…する…


「んっ、ま、まとばくん…っなんでそんなとこいじるの」

「今井くん乳首も感じちゃうんだ、可愛い、本当に可愛い」

「あっ、や、ぁ…!」


ギュッと摘まれた
少し痛めなそれに身体がビクッと跳ねる

や、やだ、
さっきから変な声、出るし、

これ以上触られたら僕っ…!

慌てて的場君から離れようと腰を引く。
けれど、的場君はそれに阻むようにして僕の股下に足を差し込んできた。

そして、ふふ、と小さく笑う。


「勃ってるね、今井くん」

「っ、う、ンン、ご、ごめんなさっ」


僕の下半身は明らかに反応していた。

やだ、もう、こんな
自分の痴態に堪らなく恥ずかしくなる


「ト、トイレ行くから、離してっ…!」


これ以上的場くんに失望されたくなかった。
僕は必死に的場くんの腕から逃れようと身体を捻る。けれど、体格差がありすぎる僕は、ただもだもだするだけで的場君から離れることはできなかった。


「じゃあ俺も行く」

「えっ、ど、どうして」

「俺が今井くんをこうさせちゃったから。責任とるよ」


的場くんはどこまでも優しい人だった
唖然とする僕の腕を引いて、さっそくトイレへと向かう的場くん。教室から出る前にバッグから何かを取り出しているようだった

僕は、腕を引いてくれるその後ろ姿にときめく一方で、トイレの個室に2人で入った時我に返る


「えっ、責任とるってどういうこと?」


僕を閉じた便座の上に座らせてくれた的場くん
また僕にキスをしようとしていたところで、僕に質問されて寸でのところで止まる。

か、かお、ちか…!


「そのままの意味だよ、今井君」

「んんっ…!」


僕の理解は追いつかないまま、的場君は僕の口を封じた。
しっとりした唇が僕の唇を包み込んでまたあの温かい舌が僕の口の中に入ってくる

そのままの意味って
この状態で責任取るって、その、僕が勃ってることの、責任とるってことだよね?
そ、そんなのって、だって…

僕の頭の中がおかしくなってるのかな。