部屋でのんびりと読書をしていたら慌てたノック音が鳴り響いた

アレクが返事を返すと城の従者が息を切らしていて。


「セイラ殿下、ユウリ殿下がお見えになりました」

「ユウリが?なぜ」


その言葉に困惑しながら隣で花を手入れしていた執事を見上げる。

しかしアレクも困ったように


「ユウリ様の事ですから・・・」

と言った。


確かにあの子のことだ、前もって告げてから来ることはないだろう

それでも、城下街まで迎えに行ったというのに…


しかしすでに来てしまったのなら仕方ない
ため息をつきながら「今行く」と従者に伝えた


ユウリとは俺の異母弟で、最後に会ったのは…1年前…になるのか
あの時あいつは17で、俺は22

異母兄弟でも、あいつは俺にやたら懐いていた。
歳もそこまで離れてないことが大きいのかもしれないが



慌てて着替えを執事に頼み、靴を履きかえる
髪も特に問題はなさそうだ


「どうだ?アレク」

全身鏡で服装の確認をしながら執事を振り返る じっと俺の全身を眺めた後うなづいた

「とてもお似合いですよ」

「そうか」


最後にジャケットを羽織り、もう一度鏡を見た。

…問題はないか。
鏡越しにアレクと目があったが、優しく微笑まれた。その優雅さに一瞬ドキリとしたが視線をズラす。


アレクと並ぶと俺の顔がひどく仏頂面に見えるな。

顔の筋肉が死んでるみたいだ。




ーーー・・・




「ユウリ」




外にでて、今ちょうど馬を下りた弟に声をかけた
俺の声に顔をあげる金髪の青年

・・・また、背伸びたな、と思いながら「久しぶり」と挨拶をした



「兄さん…久しぶり」


俺の顔をみて安心したように駆け寄ってきたユウリ。

一通り俺の姿を眺めた後、俺の頬にキスを落としてきた。…これはユウリ的には挨拶の一種だけれど普通はしない。
相変わらずユウリは大人びている。俺より5歳下と思えないほどだ


「馬に乗って都から来たのか?」

「んー?まあ…休み休みね。」

「危ないだろ」

「だって兄さん、全く帰って来てくれないんだもの。…大丈夫俺には剣の腕も従者も十分ある」


そう言って微笑んだユウリに苦笑が漏れた
確かにユウリは武の才能もあるし大丈夫か…いやでもそういう話で片付けちゃってもいいものなのか


「これ、途中で咲いていたんだ。兄さんに」


そう言って渡されたのは白いバラ
青いリボンが巻いてあり、驚きながらもそっと受け取る …6本も…


「あ、ありがとう…嬉しいよ」

「兄さんの庭にはたくさんの薔薇があるけど…俺の気持ち」

ユウリの気持ち。白のバラは確か…尊敬とか純潔とかだったか…純潔なんて俺からかけ離れた言葉だ

ユウリがもう一度俺の頬にキスをしてきそうになって「もう、いいだろ」と遠慮しておく。薔薇までくれてアレクもユウリの従者もリアクションに困ってるじゃないか

特にアレクなんて笑顔を向けながらも、なんだかいつもと雰囲気が違う。
まあ主人が弟にキスされてる姿何て見たくないだろうが…。

その存在にユウリも気づいて「あれ」と言葉を発した


「お前、まだ兄さんの執事をやってたの」

「はい、恐れ多くも…」


アレクは俺が都にいるときも、執事長の補佐として俺を世話してくれていた。

だから、ユウリもアレクの事を充分知っている。


「へえ」

「俺がお願いしたんだから。」


俺の言葉にユウリがアレクを一瞥する
ユウリはなぜか昔からこの執事を毛嫌いしてる。優秀なのに。

なんだか、空気がギスギスしてきたのでとりあえずユウリを中に招き入れた

扉を開けるとなんだか照れた様子のメイドたち

ユウリが来ると俺の城のメイド達が浮足立つから大変だ



「でも今日は天気が良くて良かった。兄さんと外で散歩できる」

「あー…ユウリ好きだもんな…外」

「あっ、やっぱチェスでもする?」

「いや、せっかくだし歩くよ。いろんな話を聞かせてくれ」


俺の返事にアレクが目を見開いた
そりゃあそうだ、あの俺がアウトドア発言をしたから


「セイラ様、昨日の体調不良をお忘れですか」

「……ああ、そうだった」


アレクに軽く叱られ、昨日の事を思い出す
俺昨日体調崩したんだ…

さっきの驚いた顔は、俺が体調を気にせず外で遊ぼうとしたからか。


「え、そうなの?じゃあ休んでないと」

「べつに平気だけど…」

「だめ、寝室いこう?」


ユウリに手を取られて複雑な気分で足を進める。 なんだこのエスコートされている感じは。 まるで俺が女のようではないか 花まで持ってきやがって。


「相変わらず兄さんが綺麗でびっくりした」


微笑みながらユウリが俺にそう告げる
…それは、素直に喜んでいいものなのか


「ソフィーナにそっくり」

「…そうか…」


ソフィーナとは母の名前だ
美しい人だった。子供の目から見ても。
当に亡くなってしまったが、ユウリが最後にあったのは5歳くらいだと言うのによく覚えてるもんだな


「お前は…王に似てきてる」

「喜んでいいかわからないね」

「はは」


もちろん褒め言葉だ
けれどケイト様の血も入ってるからかやはりユウリの方がいい男な気がする

ケイト様は、ユウリのお母さまでもあり兄様たちのお母さまでもある。
正式な王妃。俺の母とは違う。
けれど、側室の子の俺にもわが子のように接してくれる優しい寛大なお方。

俺は恵まれていると思う。
ここまで育てて頂けたのだから。




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