透明傘 | ナノ
2



「双葉、一人部屋欲しかったりするか?」

「は?」


いつも通りの夜の時間
リビングでテレビを見ていたら、湊さんが突然そんな事を聞いてきた。

俺の後ろで突っ立っている湊さん

ひとり部屋?
あんまりいい気分のしないその言葉に眉が寄るのがわかる

一人部屋…って、普通の一人部屋の事だよな。


「…どうしたの急に」


その上自分でもわかってしまうくらい不機嫌な声が漏れる。


「いや、なんとなく。」


なんとなく…ね。
湊さんのその言葉に、今日ずっとソワソワしていた理由に気づく。今もすげえ不自然。


「俺は今のままで十分だけど。」


俺としては一人部屋なんか必要ない。
勉強だってリビングの机でできるし。

寝るとこあればそれで十分。


「もしかして、湊さん寝るの窮屈だったりする?」


最近、暑い日続いてるし。
俺と一緒に寝るの、いい加減嫌なのかな。

湊さんがそう思ってるなら俺は退くしかあるまい。
そう思ったら無性に胸辺りが重くなるのを感じた。
…なんだこれ。


「いや、俺は全然窮屈じゃねえよ」

「じゃあなんで急に?」


湊さんのその否定もなんだか気を遣ってるようにしか聞こえない。
声は真剣そのものなのだけれど。

……なんか、イライラする。


「むしろ双葉はいやじゃねえの。」

「別に嫌じゃねえよ。」


むしろどうして突然そんな事を気にするんだ。
今までそんな素振り少しも見せなかった癖に。


「俺と一緒じゃ暑苦しいだろ。…………今日の朝だって」


今日の朝?

なんだか拗ねてるような口振りの湊さんに疑問を抱く
というか、声が完全にすねてる。


「確かに暑いけど、嫌では…………あ、」


暑苦しい、という言葉にふと今朝のことを思い出した。
……もしかして、この話題の原因今日の朝 平手打ちか?

本当にうっすらだけど、「近い」つって思いっきり平手打ちした気がする
まさかこれを気にして…

いろんな事に気付いて、一気に後悔の念と安堵感が押し寄せる
なんだよ…俺が原因なんじゃん…

とりあえず、朝の自分を殴りたい衝動にかられた


「全然嫌じゃないよ。」


誤解を招かないようにはっきりと伝える
もしかしたら原因が違うかもしれないが、あの拗ねた声といい、たぶんこれであっているはず。


「……ほんとに?」

「うん。」


湊さんの確認の言葉に、湊さんを見上げながら頷く
すると目が合い、安心したように微笑まれた。

…なんだこの不意打ち笑顔


「…ほんとに?うざいと思わない?」

「うん。」

「ほんと「……しつこいな!俺は一人部屋の方が嫌だ!!!」


もう一度聞いてこようとした湊さんに声を張る


「「………。」」


シーンとなるリビング
…しまった勢い余って恥ずかしいことを言ってしまった。


「いや、今のは言い過ぎたかもしれない。とにかく、俺の事は、気にしないで。」

「そうか。」


俺の言い訳を軽く流す湊さん
見上げてみると、案の定ニヤニヤ笑ってうざったい顔になっていた

……恥ずかしい……


「なら良かった。」


そう本当に安堵したような声色で俺の隣に腰かける湊さん
これで一安心だぜ、とか言ってテレビのチャンネルを変え始めた

切り替えはえーな。


「………もしかしてさ。」

「んー?」

「朝の平手、気にしてたの?」

「まあな。」

「………。」


ニヤ、と笑う湊さん
こりゃあ大分気にしてたんだな。


「まじでうざがられてショックだった。」

「ごめん、なんか。」

「ん。」


俺の謝罪の言葉にへらへら笑う湊さん
素直に謝る俺が珍しいのか、なんだか嬉しそう。


「もしさっきの質問に双葉がうんって言ったらどうしようかと。」

「それはないよ。」

「いや、おまえももう高2だし、わかんねーじゃん。普通は嫌がるだろ。」


……そういうもんなのか。
俺は別に湊さんと寝るのなら気にしないけどな。


「ふーん」と軽く相づちを打つとやっぱり嬉しそうに微笑む湊さん
こりゃあきっと親バカなんだな。


そして、


「………あとで扇風機出そうな。」


そう言って俺の頭を撫でた。


(…………この行為はうざったいと思う。)


prev mokuji next
bkm