誤算、伝染中 | ナノ
17

侑くんが俺を好きだと言った。
しかも恋愛的な意味で。

冗談を言うような子ではないのを知っているから、俺はそれを真に受けてるし、
むしろそれが冗談であればと望んでもいる

あのキスも、あの告白も、優しい笑顔も全部嘘であればと。


俺は臆病者だ。

冷たいベッドに頭まで潜りながらそう思う

彼の思いを尊重するわけでもなく、かといって弟が離れてしまうのが怖くてはっきりとした拒絶もしない。やんわりと、間違ってると伝えただけ。
俺と違って彼は全てを受け入れ覚悟しているというのに。

音のない寝室
そのせいで、自分の心音が煩くて余計に頭が覚醒していく
不安が増幅していく。


今何時なんだろう
侑くんはもう寝たのかな
俺はいつになれば寝れるんだろう。
俺は明日から侑くんにどんな態度をとればいいの?


焦りと不安が俺を押し潰して、このままずっと明日がこなければいいのにと願った。





まあ、明日が来ないなんてこと、
あり得ないんだけど。




「…あ、起きた」


目を開けたら、俺の大好きな顔が俺を見下ろしていた。
俺のベッドに腰掛けて、俺の枕元に手を置いている。悠然としているこげ茶の瞳。

俺より暗いグレージュ色の前髪が、重力に負けてさらりと揺れた


「え゛っっ!???」


ゆ、
ゆ、

侑くん!!?


昨日の今日でまさかの展開にビビって声を張り上げる

なんでここに、

というか、今は、朝?
俺いつの間に寝てたの?

何が起きてるの??


「っ、う、あ、っえ」

「驚きすぎだろ」


言葉が突っかかって全然喋れない俺に侑くんが小さく笑った
その笑顔に俺はまた頭が真っ白になりそうになる
真っ白、というより、真っ赤かな

なんか色々爆発しそう。

だって、昨日、あんなことがあって、
俺侑くんにどんな顔をすればいいんだって寝れなくなるほど悩んだのに!


そんな俺の心情を読み取ったのか、

「爆発してるな」

と侑くんが言ってきて口から心臓が出そうになった


「えっ!??な、なに、が」

「髪の毛」

「あ、髪の毛、」


髪の毛か…
てっきり俺の頭の中かと
そんなことまでお見通しになっちゃったのかと

ふと、後頭部に手を当ててみる。
…なんかモサモサしてる


「ずいぶん寝てたな。もう午後だぞ」

「え…何時…?」

「2時」

「えっ!!」


2時!?
時計を探すけどこの部屋に掛け時計がないから窓を見る
言われてみると確かに外めっちゃ眩しい!!
時間をすごく無駄にした気が…
あと侑くんに寝起きの情けない姿を見られたのがつらい

色々ショックで一度起こした体が前に倒れる。
侑くんが部屋に入ってきたことも、全然気づかなかったし


「あの、侑くん、もしかして起こしに来てくれたの?」


そりゃあ14時まで寝てたら嫌でも起こしにも来ちゃうよね
例え昨日あんなことがあってどんなに気まずくても。

侑くんをチラリと見上げると侑くんは俺を見ながら「…まあ、それもある。」と言った

それ も ?

侑くんの含みある言葉に首を傾げるが、侑くんはこれ以上答える気がないらしく、ベッドから立ち上がった


「さっさと起きて飯食え。あいつはいねえから」

「あ、う、うん」

「バスケすんだろ?」


バスケ。
昨日暇だからやろうって言ったやつ。

侑くん、昨日言ったこと覚えててくれたんだ


「する!」


急いで準備をしようと布団を剥いだ
侑くんはもうTシャツにスウェットを履いてて準備が出来てるらしい
朝起きれたってことは、俺と違ってちゃんと寝れたってことなのかな


「先に外いるわ」

「すぐ行くから!」

「ゆっくりでいい」


慌てんなよ、と俺に注意してから侑くんは部屋を出て行った
俺は鞄から取り出していた歯磨きセットをポトリと落とす

な、なんか、
…優しくない?

いや、侑くんは優しいんだけど、いつもはもっとツンツンしてるというか、俺を置いてどっかいっちゃう事がしょっちゅうだから、なんか…

慌てんなよ、とか、
初めて言われた気がする

動揺する俺と違って落ち着いていた侑くん
表情もどこか柔らかかった。

しかも侑くんから朝、声を掛けてくれた
侑くんが俺をバスケに誘ってくれた

昨日の夜のせいか、
自惚れちゃいそうになる






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bkm