07
「もう、紫乃さん!どうして窓から!」
初めてではないけど!
窓を急いであけて、紫乃さんに手を差し伸べる。
今履いてる靴どう見ても上履きだよね
「…中に入れなさそうだったから…。」
俺の手を借りて窓枠をまたぐ紫乃さん。
静かで優しい声色からして、温厚な人だというのが見て取れる。ただ、少し変わっているんだけど。かなりのマイペースさん。
あー…生徒会室の前が人でごったがえしてるってことね…。
遠慮して窓から来たと・・・。いや、アホか!そんなの掻い潜ってきなさいよ!
「あっ!涼、そこに雑巾あるからそれで紫乃先輩の上履き拭かせて!」
「えっ、あ、そうだよね。紫乃さんちょっと窓枠に足掛けたまま待っててください」
「ありがと」
紫乃さんの足拭き専用の雑巾を持ってきて、軽く水で濡らしにいく
その間ジッと待ってる紫乃さんとその様子を写メる有岡さん。
なんか、こういうことしてると、俺って意外としっかり者なんだなって思う。つか三年がダメすぎるんだけど。まあ、俺一応お兄ちゃんだしなぁ、しっかり者なんだろうなあ、ウヘヘ。
「…また紫乃は窓から入ったのか」
そんな時、呆れた声が聞こえてきた。今いる三人とは違う声。
む、この声は…。
後ろを振り向くと、超が付くほどイケメンな男が立っていた。紫乃さんが遠慮するほどの人だかりを掻い潜ってきたわけか。まあ、俺でもそうすると思うけど。
「お疲れ様です会長」
真澄が頭をさげた。有岡さんも「やっほー」と手を振っている。
生徒の頂点、我らがリーダー生徒会長。
こいつは、いつみてもドン引きする程完璧な顔している。ミルクティー色の髪に複数のピアス、生まれてきた次元一個間違えたんじゃねえの?って聞きたくなるほどの美貌。
完璧なのは顔だけじゃなく、スタイルも頭も運動能力もずば抜けてるから恐ろしいと思う。どんなに大変なことでもこいつにしてみれば4割くらいの力でこなせてしまうから、いつもどこかつまらなそうにしてる。
ん…?
つか、ピアス・・・?
チャラチャラついてる高そうなピアスを見て、思い浮かぶのは昨日の侑君の姿
ハッ、まさか、侑君・・・!
こいつにそそのかされて・・・!?
「おいこら千歳ェ!!!お前か侑くんに変な入れ知恵をしたのはぁアア!!!」
チトセというのは会長の下の名前。
突然俺が大きな声を上げたから、みんなギョッとしたようだった。
名前を呼ばれた張本人は何のリアクションもせず、こちらに視線を寄越すだけ。
しかし、俺にネクタイを引っ張られたところで眉を寄せた
「なんだよ」
「なんだよじゃねえよ!!そのピアス!おまえ侑君にピアス奨めただろ!!」
「涼ぉ〜、なにぃ?何にキレてんのお前ぇ」
「弟関係ですよ。涼が噛みつくときは大抵侑介関係です」
「あー。」
外野うるさいな!
「侑介が何。」
「ゆ、侑介って気軽に呼ぶなぁ!!侑君がなあ!昨日突然ピアス開けたんだよ!!お前だろ!原因!!」
俺の言葉に余計に千歳が怪訝そうな顔を浮かべた。
何言ってんだこいつ、と目が語ってる
クッ…むかつくぜその顔!
黙ってるだけなのにやたらキラキラしてるからな!!
「あいつピアス開けたのか一丁前に」
「お前も開けてんだろうか!つか話逸らすな!」
「・・・俺はなんもしてねーよ、あと敬語」
「あ゛いてっ」
で、デコピン・・・っ!
千歳にデコピンされた!
デコピンをして満足したらしい千歳が俺をほっときソファに座りこむ。
対してあまりの痛さに悶絶する俺
こいつの指、鉄でできてんじゃねーの!?
「そうだよ、涼。いくら幼馴染でも一応年上なんだから敬語は遣わないと。」
「だってぇ…侑くんがぁ…!ピアス・・・!」
「完璧冤罪だろそれ。付き合わされる会長の身にもなりなって」
どんだけピアス根に持ってるの、と怒られた。
歳は離れてるものの、侑君とも幼馴染である千歳がてっきり唆したのかと思ったんだけどな…。それ以外考えられなかったんだけど。それじゃあ他に一体だれが・・・!
「痛ぇよ、馬鹿!」
捨て台詞のように会長にそう吐き捨て真澄の胸の中に逃げ込む。
はいはい、と俺のおでこを優しく撫でる真澄。
畜生、一歳年取ってるだけで偉そうにしやがって・・・!
いつか覚えてろよ・・・!
「つかいつまで紫乃はそこいんだよ」
窓の方を見ながら千歳が軽く笑った。
その言葉にハッとすると、窓枠に腰かけてまだ降りれてない紫乃さんが。
上靴を脱いで入ればいいものの、律儀な紫乃さんはずっと待機していたらしい。
真面目か。
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bkm