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!侑介視点!
自分でも馬鹿だな、と思った。
実の父親に嫉妬するなんて。
無理矢理俺の隣に座らせられた涼はオロオロしながら俺を何度も盗み見してくる。
俺はそれに気づかない振りをして、窓枠に肘をつきながら外の景色を眺めた。
…涼を突き放そうとしてる癖に、結局俺がそれを出来ないでいる。
俺が涼を振り回して、その度涼を傷つけている。
涼が俺から離れられない事を、知っているくせに。
「俺全然面白くねーんだけど」
親父が運転席に乗り込みながらそう言ってきた。
助手席には、松谷。拗ねた顔をしてる親父に申し訳なさそうに肩身を狭くしている。
内心ざまあみろ、と思った。
親父は気持ち悪いぐらい涼を溺愛してる。まるで箱入り娘のように。
変な女が寄り付かねーように男子校いれたみたいだけど、逆に失敗だったんじゃねえかって俺は思う。まあ、仕事の関係とかもあってこの男子校にいれたのかもしれないが。
「侑介でしゃばってくんなよー、涼が可愛いからっておまえさあ。」
「・・・。」
「無視かよ。ねえ涼ひどくない侑介〜いつからこんなツンツンするような子になったの〜?」
・・・うぜえ。
いつから、ってそもそもお前ほとんど家にいなかっただろうが。
何を偉そうに父親面してんだか。
「お父さん、今日はいつまで家にいれるの?明日の朝までいる?」
涼が運転席のシートに腕を回しながらたずねる。期待で弾んでいる声。
…この男に期待なんてしない方がいいのに、と内心思う。
そして親父は案の定、渋った声をあげた。
「ん〜…。一緒に居たいのは山々なんだけど、夕食食べて荷物取りに戻ったら、また移動なんだ。ごめんね涼。」
「…わかったぁ…お父さん忙しいもんね、」
ほらみろ。
そう思いながらチラリと涼の様子を探ってみる。
さっきまであんなにニコニコしていたのに、今では寂しそうな笑顔になっている。
…本当、見てられない。どうしてこの男をそこまで慕っているのか。夕食ごときに、そんな浮かれて。
「…そういやあの女来るの。」
夕食の事を考えていたら、ふとある人物が思い浮かんだ。
一応血は繋がってるし戸籍上家族ではあるが、家族とは思いたくない相手。
すると、ルームミラー越しに親父と目が合った。
鋭い目つき。
俺にキレてるつもりなのか。
「'あの女'なんて誰の事言ってんだお前。」
「一人しかいねーだろ。」
「…口に気を付けろ、お前の母親だぞ。逆に聞くけど家族で食事なのになんで母さんがいないと思うんだ?」
つーことは、食事にいるわけね。
親父の淡々とした口調に嫌気がさした。
あんなのが俺の母親だなんて本当に気持ちが悪い。
「侑くん…」
遠慮がちに俺の名前を呼ぶ涼。その声につられて涼を見てみると困ったような表情を浮かべて俺を見ている。
…涼の言いたいことは、口に出されなくてもわかる。
『お母さんをそんな風に呼んじゃだめだよ』だ。
その顔を見て、ため息が漏れた。
俺はこの男も、あの女も嫌いだ。
だからこそ涼がこの男をこんなにも慕ってるのが理解できないし、あの女にも控えめなところが何故なのかわからない。
あの女に関しては、何度殺意が湧いたことか。
過去を思い出すだけで苛立ちが増す。
そしてあの女に愛情なんてないくせに、どうしてこの男はあの女から離れないのか。
本当に、意味がわからない。
ーーー・・・
30分が経った頃だろうか、気づいたら涼は寝ていた。
俺に寄りかかりながら静かに寝ている涼。
それに気づいた親父が「可愛いなあ涼」とまたあのデレデレした気持ち悪い顔を浮かべた。
「昨日俺と会うのが楽しみすぎて寝れなかったとかそういうやつかなぁ〜」
「知らねえ。」
そんな気がするけど。
車が揺れる度にゆらゆら揺れる涼の頭。
寝辛いだろうと思って、涼の身体をずらして俺の膝を貸してやった。
…爆睡してるし。
寝顔があまりにも無防備でふと笑みが漏れる。微かに開いてる唇。
アホ面。
「侑介は本当俺の事が嫌いだよなぁ」
「まあな。」
「即答すんなよ。」
正直に答えただけだけど。
膝にのっている涼の頭をそっと指で撫でながら思う。
「元はと言えば全部お前が元凶だからな。あの女がああなのも、あの女のせいで涼がひどい目に遭ってるのも」
「・・・。」
俺の言葉に、親父は黙った。
どんなに涼に優しくしていても、この男はあの女よりタチが悪い。
本当なら涼はあの女がいるあの家になんか帰りたくないだろう。
車を待っている間も「俺髪長すぎないよね」だの言って自分の見た目を馬鹿みたいに心配していた。それでも帰るのはこいつのため。
俺と顔が似ていないことがコンプレックスになってる涼。兄弟みんな顔が似るわけではないのに、俺との違いをやたら恐れる。
だからこそ俺の顔が好きだと何度も何度も言ってきていた。
父親にも母親にも似ている俺の顔が羨ましいと。
…涼は、家族の誰とも違う顔をしているから。
背丈も、好みも。
「涼はお前の元浮気相手にさぞ、そっくりなんだろうな。」
この丸くてアーモンド型の大きな目も、薄茶色の瞳も、ふっくらとした血色の良い唇も、それらが涼の綺麗な顔立ちを形成させているけれど、俺らとは違う。
皮肉をたっぷり込めながら、親父を鼻で笑ってやった。
きっと、涼の母親は別格に美しい女性だったに違いない。
そして、この顔があの女の嫉妬を誘う。
この男は、涼を不幸にした原因。
けれど、涼にとっては、大事な父親。
「お前の代わりに、あの女から罵倒され続ける涼をお前、知らないだろ。」
だから俺はこいつが嫌いだ。
どんなに身代わりになって傷ついても、涼に慕われてるこいつが。
お前の過ちを涼は一身に背負っているというのに。
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bkm