誤算、伝染中 | ナノ
06




「ねえ、真澄聞いてよお・・・」

「なに」


朝のSHR終わりが終わって真澄の席に移動する。毎回真澄のところに行くから真澄も慣れたもんだろう。小さく微笑んで俺を迎えてくれる。


「また侑介?」

「うん…。今日も置いてかれたよ…。」

「懲りないね、涼も」


その言葉にため息が漏れる。
そうだよな、毎回振られても懲りずに行くんだもんな俺。
でも一緒に登校したいじゃん。したいじゃん!

「代わりに有岡さんと会ったよ。今日は頭ピンクだった」

「えぇ?それはすごいね。今日放課後会うの楽しみ」

似合ってるのがすごいんだよなああの人。
生徒会室に見学しに来た一年驚きそうだな。

確かに校則的には問題ないけど、
だからってあの恰好はやばいだろ…。

「ねえ、涼。」

「んー?」

「たまにはさ、侑介をほっといてみたら?」

提案を出された。
侑君をほっとく?何を言ってるんだ真澄は
怪訝そうな顔をする俺に真澄が苦笑する


「押して駄目なら引いてみろ、ってことだよ。押してばかりじゃ侑介も嫌がるばかりだと思うけど。」


おお・・・なんか計画的だな。
なるほど、そういう考え方があるのかと頷く。

けど、俺は侑君を守る役目があるから


「無理だよ〜、会えない日があるなんて耐えられない!やっと侑くんが同じ高校に来てくれたんだからずっと一緒に居たいよ〜」

「…涼は我慢が出来ない子だからなぁ…」


よくわかってらっしゃる。俺我慢できない子だから。
出来るなら、侑くんに毎日ベッタリしてたいもん・・・。
高校の制服着た侑くんを初めて見た時感動で抱き付いたけど、一瞬で剥がされた。ベリィッて。ベッタリなんて、いつ以来してないのか。

代わりに真澄が俺にベッタリされてる。
ベッタリされててもノーリアクションな真澄。いつも俺をほっといて携帯眺めてたり生徒会の仕事したり、テレビ見たりしてる。頭はよく撫でてくれてるけど。


「んあー、真澄ぃ・・・」

「教室で抱き付くのはやめてね。」


抱き付こうとしたら拒否られた。
グスン。


ーーー


放課後。
生徒会室に行く前に職員室に鍵を取りに行く。
これ面倒くさいんだけど、いちいち取りに行ったり戻しに行ったりしなきゃいけないんだよね。もーやんなっちゃう。

実は合鍵あるんだけど、放課後は取りに行く振りしないと怪しまれるからね。律儀に取りに行ってます。


「真澄、お待たせ」

「ありがとう。」

「…なんか、すごい人だかりだね」


さすが真澄。
生徒会室の前にいるだけでこんなに囲まれるとは。

真澄のすごい所は、ピーピー騒がれていても気にせず携帯を見たりしてるとこ。
ファンをいないものとして扱ってる。
本当…。すごいよ、真澄・・・。


「合鍵使って中入ってればよかったのに…。」

「合鍵の場所バレたら良いように使われちゃうでしょ。今は無理だった」


やっと人混みから解放されてスッキリしたのか、ふぅ、と息を漏らす真澄。
生徒会室につくとさっそく荷物をドサッとおいて、椅子に腰かけた

「今日は面倒くさい日だな・・・」

憂いのある声で真澄がそう呟いた。なんか格好いいな今の。
というか真澄も愚痴をこぼすんだなあ。いがーい。


「今日一年生来るからね。でも俺別に役員勧誘しなくてもいいと思うんだけど」

「会長と紫乃先輩と有岡先輩がいるのは前期だけだから、空きは埋められるようにしとかないと。」


あの人たちいなくなると静かになるんだろうな…。なんか嫌だな。
俺らが先輩になるのも変な感じだけど。

休むのも束の間、真澄が立ち上がった。
黒板にゴチャゴチャ書いてある落書きを消していく。

あぁ…俺と紫乃さんと有岡さんの落書き集が・・・
容赦なく消されてく・・・


「活動時間開始前に掃除しとくよ。スタートしたら雪崩れるように一年生くるだろうから」

「えー。いいよ、ありのままの生徒会室みせよーよ」


某アニメ映画のメイン曲を口ずさみながら、黒板に再度落書きしていく。
雪だるまを書きます。今春だけど、レリゴーの歌のせいだね。

静かな真澄が気になって、視線を横に向けたら真顔でこっちを見てた。
気のせいか、目に影が落ちてる

「ごめんなさい。掃除します」

何か言われる前にサササッと落書きを消した。
危なかった。もう少しで何をされるかたまったもんじゃなかったね。


「その机の上の要らないプリント捨ててってね。歓迎会の時の企画案のボツとかは来年のために取っといて。」

「はい・・・。」


指示された机の上を見てみるとゴッチャァっていろんなものが乗っかっていた。もう!誰だよこうなるまで散らかしとく馬鹿は!たぶん俺だよ!

真澄からゴミ袋を受け取って、とにかくゴミらしきものを捨てていく。あ、でもこれは落書きの傑作品だから捨てられないな、あ、これも・・・うーん、捨てがたい。


「涼」

「はい、捨てます」


後ろから手元を覗かれて慌ててゴミ袋にいれた。
怖い。音もなく近づいてくるんだもん。
今声からして、めっちゃ近くにいたよね?


「それにしても先輩たち遅いね」

「出待ちされてんじゃない。」

「それだー。」


鬱陶しくなったのかネクタイを外し始める真澄。
ジャケットとカーディガンも脱いでシャツ一枚になってる。なんか急に色っぽい。

俺なんかは元々セーターとシャツだけだけど、真面目な格好してる真澄は暑いんだろうな

ちゃんと指定の制服着てるのとか、本当少人数だぞ。


「やっほー、お疲れぇ真澄と涼ぉ〜」


その声に顔を上げると、案の定ピンク頭の彼がいた。
手をヒラヒラさせて、相変わらず目を疑う恰好をしている。おかしいな朝見たのに。


「お疲れ様です、有岡先輩。お似合いですね」

「あは、ありがとぉ。俺もそう思う。今何してたの?掃除ぃ?」


俺の手に握られてるゴミ袋を指さす有岡さん。
「そうですよ」と真澄が答えると、ギュンッと眉に皺を寄せた

「俺汚れるのやだから、そっちいてもいい〜?」

「あっ、ずるいですよ!俺だってサボリたいんですから!」

「お前は後輩じゃぁん」

そ、それ言われたそうだけどさあ!
一緒に汚したんだから掃除しようやぁ


「汚れるの嫌なら俺のジャージ貸しますよ。ほら、有岡先輩、時間がないんですから」

「えぇ・・・?つかなんで急に掃除・・・。あ、今日からアレかぁ」


やれやれ、と有岡さんが首を横に振る。
ため息をつきながらジャケットを脱いだ。


「ジャージなら要らないからぁ。さっきのはただのサボリの口実〜・・・てか、紫乃と会長は?」

「そろそろ来ていいはずなんですけどね・・・。」


まあ有岡さん来たしな。
そろそろ来ていい頃合いだろ…。


そう思いながらふと、窓の外を見たら人がいてギョッとする


ラベンダーアッシュのふわふわパーマの美形男。
無表情だけれど、ヒラヒラとこちらに手を振っていた。
その目からは『窓開けて』という訴えが感じられる


入口から来いよ…。



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bkm