誤算、伝染中 | ナノ
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ごめんなさい今着きます!



という松谷さんの連絡が入ってから、すぐにその車は来た。シルバー色の車体。
でも、助手席に誰か乗ってる。黒髪で眼鏡をかけている男性…あれ?松谷さんだ。


「うわ…」


するとなぜか、その車を見て侑くんが嫌そうな声をあげた。

…うわ?

どうしたのかと侑くんを見上げる。

というか、松谷さんが助手席にいるってことは誰が運転してるんだ?
俺が知らない間に、松谷さん結構昇進して運転手ついたってことかな。


「お前の大好きなやつが運転してるぞ」

「え?」


俺の大好きな人?って…
考えるより早く、バタン!と車のドアが閉まる音がしてそちらを見る。


すると、まさかの人物がいた。



「涼〜!侑介!」



俺らの名前を呼びながら駆け寄ってくる男性。

シャツにジーパンをはいている背の高いその人は、少し侑くんに似た顔立ちをしている。上手な歳の取り方をしている大人。
そして、まさかここに来るとは思っていなかった人物。


お、おと、


「お父さん!!!?」


嘘!!
えっ、本物!?


お父さんの姿に信じられなくて一瞬唖然とする
が、瞬きを5回くらいしてもお父さんの姿が変わらないから幻じゃないと知った。


「まさかお父さんが迎えに来てくれるなんて!」


嬉しさが爆発して、お父さんのところに抱き付きにいく。
そんな俺を笑いながら受け止めてくれるお父さん。


「はははっ、びっくりしたか?涼はいつも嬉しいリアクションをしてくれるなあ」

「すっごくびっくりしたよ!お父さんが運転してきたの?」

「そうだぞ、帰りも運転する。」

「やったー!!」


ああ嘘みたい!抱きついてるお父さんの服から香るタバコの匂いと、お父さんの匂いに嬉しくなる。うわ〜、何か月ぶりだろ〜!


「涼さらにイケメンになったんじゃないかあ〜?顔見せてみ?」


お父さんの腕の中でキャッキャとはしゃいでいたらお父さんにそう言われた。
そのままグイッと顔を掴まれて上を向かされる。

お父さんの顔。
やっぱりどこか侑くんに似ていて顔がにやける。目?あ、鼻もか。スッとしてる鼻。
んんん〜〜!お父さん、本当に格好いい!俺の自慢のお父さん!
世界で一番格好いい!


「どうお父さん?俺イケメンになった?」

「うんうん、やっぱりイケメンになってる。パパ譲りだな」

「ほんと!?嬉し…グェッ!」


お父さんが俺のおでこをおでこでグリグリするから笑っていたら、突然パーカーのフード部分を引っ張られた。首が詰まって変な声が出る。

なっ、なにっ、


「お前らいい加減にしろよ。何歳だと思ってんだ。」


ゲホゲホ咳が出る中、侑君が俺とお父さんにそう言った。
なんだか不機嫌そうな声。

あっ、俺がお父さんを独り占めにしちゃったから…!
ごめん侑くん!


「なんだよ侑介、お前もおでこコッツンして貰いてぇなら素直にそう言えよ。」

「はあ?誰が・・・・」

「はい、コッツン〜お前のせいで涼が咳しちゃってんじゃねーか」

「い゛ッッ!!!」


低いお父さんの声が聞こえたと思ったら、頭上からゴツンッ!と鈍い音がした。
えっ、なに!?何があったの今!

侑くんを見上げるとおでこを抑えていて、痛そうに悶えている。
お父さんはそれを見て満足げな顔をしていた。


「あれ?侑介、身長伸びた?」

「あ゛ぁ?知るかよ!」

「つかなんだこのピアス〜お前イキってんじゃねえよ。」


あっ、ピアス…!もっと言ってやってよお父さん!
なんか、いつの間にか軟骨のところにもあいてるし…い、痛くなかったのかな…?


「俺、千歳が原因なんじゃないかと思ってる…侑くんのピアス」

「千歳くん?あぁ〜彼そういうの似合うからね。元気にしてる彼?」

「…千歳じゃねーつってんだろ。つか早く車乗るぞ松谷さん困ってんだろうが!」


侑くんが怒ってしまった。
侑君の言葉によって松谷さんの存在を思い出す。あ、そういえばいたんだった。
車の横に突っ立って自分はどうしてようかとオロオロしてる彼。


「俺お父さんの隣がいい!助手席!」


先に手を上げて宣言した。
あっ、でもそうなると侑くんが松谷さんの隣に座ることになるのか…!
それも可哀そうだな、あっあっ、でもお父さんが運転してるところなんて滅多に見れない!どうしよう。


「いいぞー、でも涼が隣で見てると思うと緊張しちゃうなぁ」

「…デレデレしてんじゃねーよおっさん。」

「おっさんはやめろまじで。」

「事実だろ。…おい、涼。」


突然名前を呼ばれた。
笑顔を浮かべながら「なあに?」と聞こうとして顔をあげる


けれど、突然腰を引き寄せられて言葉が止まった。



「な、」



・・・・え?



言うつもりだった言葉の最初の一文字だけで固まってしまった俺


…侑君の手が、
俺の腰に。


そんな俺を気にせず、俺を引き寄せたまま車の方に足を進める侑くん
服越しにだけれど、侑くんの手の温もりが確かに感じられた。


えっ、
えっ?

なに、この手。

え?


突然の事態に、脳が追いつかなくてグラグラと眩暈がした。
急激に熱くなる顔。


そして、


「お前は俺の隣」


と、前を向いたままそう言った侑くんに、

頭が爆発しそうになった。






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bkm