誤算、伝染中 | ナノ
12



・・・と、思ってたんだけど。


思いのほか、破壊力があった。
侑くんの、敬語。



「住吉先輩、この資料内容確認して貰えますか。」

「えっ」



一瞬、その喋り方のせいで誰だかわからなくて時が止まった。顔を上げてから、やっぱり侑くんだったと認識する

侑くんの声なのに、侑君の話し方じゃない。
素っ気なくて、荒々しい侑君じゃない。

そのせいで勢いよくペンがガリガリガリ、とプリントからはみ出して机にまで達した。

それを見て「うわ」と呟く紫乃さん。



す、住吉、

先輩・・・?



「ゆ、侑くんも住吉じゃ…?」



いやっ!
そんなことはどうでもいいんだよ!

でも動揺しすぎてこんな下らない事言っちゃった!俺の馬鹿!



「じゃあ何て呼べばいいんですか?」

「あ、え、えと…」


何て呼べばいいか?

その質問に何故か、顔が熱くなった。
侑くんが、侑くんじゃないみたいで。

話し方ひとつで、こんなに変わるもんなの?



「り、涼先輩…とか…」

「涼先輩?」


「・・・・・。」



まさか、侑くんに先輩付けで名前を呼ばれる日が来るとは思ってなくて、頭を鈍器で殴られたかのような衝撃が走った。

この、破壊力。
いや、殺傷力?

無理。



「…やっぱ、住吉でいいです…」



ノートに額をつけそうになりながら、小さな声で呟いた。


こんなの、本当に、
ただの先輩後輩じゃん!!



侑くんがどんな目をして俺を見てるのか見たくなくて、俺はただただ至近距離でノートを見つめた。


すると、そんな俺らをずっと見てたのか俺らに声をかけてきた有岡さん。
「なんかさあ、」とシャーペンをクルクルしながら口を開く


「…今日涼大人しくなぁい?侑介と一緒になるから俺もっとすごいことになるのかと思ってたのにぃ〜」


・・・。
はっ?



助け船かと思いきや、一番触れてほしくないことを言われてしまった。
「ねえ、紫乃?」と紫乃さんにも確認を取る有岡さん



「確かに涼、侑介君と一緒に居るのにいつもより静かかもね。どうしたの?」

「い、いえいえ、全然そんなことないですよ!ただ、その、さっきの話を意識してるだけで…上下関係の掟みたいなやつ」



やめて、深堀りしないで、と焦りながら全力で首を横に振る
えってか俺いつもそんな煩いの?

確かに侑くんのことになると興奮して早口になったりしてたかもしれないけど…。


侑君をチラリと盗み見してみる。いつの間にか自分の席に戻ってる侑くん
俺らの話を聞いてるのか、ただただ無関心なのか表情を変えない。


おれ、他人に指摘されちゃうくらい変なのかな。


ああ、良くない…。
ほんとうに、良くない。


これ以上勘ぐられたらまずいとおもって、侑くんに渡された資料を一生懸命読むフリをする。
と言っても、侑くんがまとめた内容はほぼ完璧で読みやすいし簡潔にまとめられている。

…侑くん…今日初めてのお仕事なのに完璧すぎだよぉ…



よし、これは話すチャンスだ!と思って侑くんに話しかけに行こうと立ち上がる


が、


ポケットに入れている携帯がブーブー震えてるのに気づいて動きが止まった。


・・・?
誰かが、俺にメッセージをくれたらしい。



「誰か俺にメッセージかなんか送りました?」

「何で目の前にいるのに送るんだよ。」



千歳のツッコミに、そうだよな、と思う。

あぁ〜?じゃあまた知らない人からのやつか?
生徒会メンバ以外で俺に連絡をくれる人って、それしかいないもんね…。


座り直して、一応携帯を見てみた。
どうやらさっきのはメールだったらしく、新着をしらされている。


余計誰だかわかんなかった。
だって、ラインじゃなく、メールって。


俺のメアド知ってる人なんて、人数限られて・・・。



「あっ!!!???」



メールの送り主を見た瞬間、俺は大声を発してしまった。
バッ、と口を押えるも、時すでに遅しで全員がこっちを見てきょとんとしている。



「…涼。」

「あっ、ご、ごめんなさい、ちょっと、びっくりしちゃって…。」



真澄に名前を呼ばれてビクッとなりながらも謝る。
謝りながらも、目線は携帯の画面。


震える指でメールの内容を見るが、

喜びのあまり『ゴンッ!』とノートに額を打ち付ける羽目に。



「え・・・こわいんだけどなに。」



そんな俺に有岡さんがドン引きしてる声をあげた。
けれど、俺はそれどころじゃない。


メールの内容は、


『久しぶり〜('ω')ノ元気か?
ゴールデンウィーク、日本に帰れそうだから皆でご飯でも行こうと思って連絡しました。
5月5日、家に戻ってこれそう?(´・ω・`)』


といったもの。



「ま、まま、真澄、」

「どうしたの」



ガクガクする俺に、本気で心配した顔を浮かべてる真澄。マスクをしていてもわかる。

今、たぶん、生徒会室にいる皆の視線が俺に集まってるんだろうな。
でも羞恥なんてゼロ。

俺はそのくらい、気持ちが高揚していた。



「お父さんから、メールがきた」



メールの一番下には『パパより』の一言。



送り主は、俺ら兄弟の父親でもあり、


俺の、大好きな人だった。






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