誤算、伝染中 | ナノ
11

侑くんを追いかけようと、急いで生徒会室に戻ると小鳥遊と升谷がすでにいた。
今ちょうど来たばかりなのか、鞄を肩に掛けたままの二人。俺が扉を開けたところでばっちりと目が合う。

一年生組はやいな…。

そんなことを思っていたら、二人が俺の姿を見て目を見開いた。
えっ?



「涼さんっ」

「な、なに…」



俺を呼ぶ小鳥遊の声がいつもと違っていてちょっとビビる。
侑くんと話したかったんだけれど、スルーできる雰囲気でもない。


なんだよ二人して…。
俺なんかしたっけか?


ちょっと引きがちになりながら二人の顔を見る。
が、その心配そうな顔を見て言いたいことはすぐにわかった。


あぁ・・・。
この子達も、あれね。



「強姦未遂のこと?それについては心配しなくて平気。それと、今日からよろしく」



今日一日、さんざん言われたことを先に伝えておく。
未遂って言ってるのに、本当みんな大袈裟なんだから


「で、ですが、住吉様…、」

「本当に大丈夫だよ。俺より真澄の風邪を心配してあげてよ、升谷くん。」


言葉で言ってもだめだ、と思ったから升谷の頭を撫でて話を逸らすことにした。
見た目通り、さらさらしている升谷の黒髪。


升谷は何故か熱烈に俺を慕ってるからなぁ…。
控えめそうに見えるのに、わざわざ生徒会にも入ってくるし…。


そう思いながら升谷の毛先を弄っていたら、案の定升谷が顔をぶわわっと赤くした。
魚みたいに口をぱくぱくして、言葉を失ってる。


本当この子すごいな…、と升谷を見て思っていたら、小鳥遊も俺を無言で見つめているのに気づいた。いつもヘラヘラニコニコしてるのに、今日は複雑そうな、真面目な顔をしている。


お前もか…



「小鳥遊、面倒くさいからやめてよね。」

「・・・俺の、せいでもあるじゃないですか」

「ええ?」

「あの時、あなたを一人にしなければ…」

「もー、小鳥遊も悪くないって!皆すぐそうやって『俺のせいで』みたいな感じになるけど悪くないから!悪いのは全部あの男!」


新メンバーで生徒会活動始める前から俺声荒げてるよ、まったく。
そんなことより、俺は侑くんのことでいっぱいいっぱいだから、本当に大丈夫なのに!


そう思いながらチラリと小鳥遊を見てみたら、シュン、と落ち込んだ犬みたいな顔をしていた。


う、うわあ…
これもまた面倒くさいやつだあ…


「た、小鳥遊やめてよ…升谷くんぐらい単純でいてくれよ…」

「じゃあ俺も撫でてくださいよ」

「何言ってんのお前」


心配して損した。
イラッと来て頭をパシッと軽く叩く。

怒られたことに苦笑を浮かべる小鳥遊。
その笑顔を見て、やっぱり元気がないんだなと思う。


…なんで、俺こんなに後輩に気に入られてんの。
過去にこんなことあったっけ。


あ、そもそも俺何もやってなかったから後輩なんていなかったんだ。



侑くんは、と思って侑くんの姿を探すと真澄と何か話しているようだった。
う、真澄、俺にこの子達押し付けて侑くんと話すなんて…俺の方が、話したいのに。

というかお前は風邪、本当に大丈夫なのか。



「やっほぉ〜、あれ、後輩ズは全員集合〜?」



モヤモヤしながらも仕方なく小鳥遊の頭も撫でてやっていたら、有岡さんがやってきた。
小鳥遊は有岡さんよりも撫でられたことに驚いてるらしくて「えっ」とか言って固まってる。



「お疲れ様です有岡さん。昨日はありがとうございました」

「ん、お疲れぇ…てかその二人なぁに?飼いならしてるのぉ?」

「あぁ…そんなもんです…」


有岡さんの質問に曖昧に笑う。

考えてみたら二人とも犬みたいだもんね。
小型犬と大型犬…。

馬鹿らしくなったので、指摘された時点で二人の頭から手をどける。

俺はそもそもこういうキャラじゃないから。



ーーー・・・



15分くらいした時に、全員が集まった。
各々席について、何話すんだろ〜と思いながら千歳を見る。

自己紹介とかかな?

とか思ってたら、俺の考えを読んだのか偶然か、千歳が「自己紹介は省略」と言ってきた。



「え、省略?」

「お互いもう知ってるだろ」



まじで。
そういうの大事なんじゃないの。

と思うが、三年は昨日会ってるし、真澄もこの三人知ってるし、俺も知ってるから問題ないなとも思う。

でも俺小鳥遊の下の名前も、升谷の下の名前も覚えてないぞ。
書記ノートになんて書けばいいんだ。

…書かなくていっか〜。


千歳が怠そうに色々話してる間に俺もノートにペンを走らせるが、有岡さんも暇なのかノートの端に小さく落書きを始めた。

ふて腐れている顔の白黒ブチの猫を描いてる有岡さん
それに矢印で『真澄』とかいていた。

似てる。
それにお互いクスクスして、ふと顔をあげたら真澄が俺を冷めた目で見てた。

一瞬で笑うのをやめる。
マスクをしてて、目だけしか見えないから通常の3倍は怖い。



「で、侑介」

「…はい。」



千歳が突然侑くんの名前を呼んだから、ドキッとした。
手が滑ってグシャッとなる、今開いてるページ。

そんな俺に「なにしてるのぉ」と有岡さんが小さく注意してきて、俺も何してるんだ、と思った。
侑くんの名前に動揺するって、本当、なに。



「真澄から聞いたか?」

「はい。」

「じゃあいいか。涼」

「えっ、あ、はい?」


今度は俺が呼ばれて、いったい何だと思った。
侑くんをチラリ、と見てみるけど、侑くんがこちらを見る気配はない。

え…本当、なんだろ…。



「生徒会入った時、上下関係ははっきりさせるつったの覚えてるだろ」

「ああ…、うん…。あ、はい。」


だから、生徒会の時は、千歳を『会長』って呼ぶようにしてるし、敬語もなるべく使うようにしてる。使わないとデコピン食らうから。

それが何?と首を傾げるけれど、最初に侑くんを呼んだ理由がわかった。


え、もしかして。



「侑くんと俺も先輩後輩の扱いをさせるの?」



まさかの内容に吃驚して真澄を見る。
そんな俺に、頷く真澄。

兄弟なのに?
えー、厳しすぎない?



「そういう決まりなのぉ〜、なんか前にも兄弟同士の人らがいたらしいんだけどぉ、もうその二人仲本当悪くてぇ…すぐに喧嘩するからぁ、そういう決まり作ったらしい。それが恋人同士でも同じぃ。公私混同はさせませーんって。」


ああ・・・なるほど。
年上と年下の区別をはっきりさせるようにしたのね。

でも俺ら別に喧嘩なんてしないし…

内心そう思うけれど、ここで俺が色々言って生徒会の決め事を破るわけにもいかない。
今までそうしてきたのだから、俺がああだこうだ言ったらただの我儘になるから…。


「わ…わかりました。」


渋々承諾する。
俺、生徒会の時侑くんに敬語使われるって事?


なんか、他人行儀で嫌だなあ。





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bkm