誤算、伝染中 | ナノ
9




二人が部屋を出ていくとき、「真澄にお邪魔してごめんねって伝えて」と言われた。
真澄は二人が帰る前に声を掛けてと言っていたけれど、具合が悪いだろうからと、そのままにしといた。これも二人に言われたから。

俺が二人を見送ってる間、角を曲がるまで手を振ってくれていた有岡さん。紫乃さんも一緒になって手を振っていた。

こういう事してくれる二人が、俺は好き。



「真澄〜、おかゆ出来たよ」


二人が帰ってから、さっそくおかゆを作った。
食べて貰おうと、真澄の自室をノックする。
返事はない。


…あ、この流れ。

真澄、寝てるな。



どうやら鍵をかけていなかったらしく、ドアノブを回したらドアが開いた。
真っ暗な真澄の部屋。

電気をつけるのも申し訳ないから、リビングから洩れる光を頼りに真澄の部屋に入る。



「真澄。」

「・・・ん、」



そこまで深い眠りについてなかったらしい真澄は、俺の声にすぐ反応した。

寝返りを打つ気配。
俺もしゃがみこんで、真澄と同じ(であろう)目線になる。



「…二人、帰るって?」

「あ、二人はもう帰らせたよ。」

「え?」


寝起き独特な、力の抜けきった声。
帰る前に声かけてって、言ってたもんな真澄。


「二人が真澄のことそっとしておいてって言ってたから。あとお邪魔してごめんね、だって。」


電気つけていい?と真澄に訊ねると、うん、と返ってきたから電気をつけた。

電気をつけると、まぶしさに瞬きをしている真澄。



「わざわざ来てもらったのに、見送りしてないとか…」

「まあまあ。それで?具合はどう?」

「…平気だよ。」


そう言いながら真澄が上半身を起こした。
平気、と言っているけれど、薬が切れてきたのか少しまただるさが戻ってる気がする。



「おかゆ、出来たんだけど食べれそうかな。」



真澄のおでこに手を当てながら、確認を取る。
んー、やっぱり少し熱いな。あがる前に、また薬飲んでもらわないと。



「食べる。…ありがと」

「今持ってくるね。」



テーブルに置いといた真澄のおかゆを、真澄の部屋に持って行っておわんに盛りなおす。
んー、どんくらい食べれるかな。
普段からあんまり食べる方じゃないから…。


「これぐらいで足りる?おかわり欲しかったら言ってね」

「うん」


俺もお腹すいた。
お昼も食べてないから。

…真澄は一日何も食べてなかったのに、お腹すいてなかったのかなあ。



「おいしい。」



おかゆを一口食べた真澄が俺に言ってくれた。
その言葉に嬉しくなる。


「ほんと〜?俺も食べよーっと。」

「涼もおかゆにしたの?」

「うん。あとはゼリーとかプリン食べる予定。」


先輩たちいっぱいくれたしね。
あと真澄に買ってきたゼリーもあるから、冷蔵庫に五個は入ってる。


「あ、そういえば俺さっき知ったんだけどさ。」

「ん?」

「あの…新しい生徒会役員、三人。」


俺の言葉に「…あぁ、」と真澄が相槌を打った。


「知らなかったの?」

「千歳俺に言ってなかったから、俺知らなかった。」

「・・・きのう、何してたの?」


昨日?千歳のところでの話かな。
本当何してたんだっけな。

真澄の質問に首を傾げながらおかゆを食べる。



「本当に何もしてない。雑誌読んだり、パソコンでネットサーフィンしてたけど、あと寝てた。」


大方泣いてたけど。
泣いてたことは恥ずかしいから言いたくない。



「…そうなんだ。」

「ごめんね、真澄。俺が昨日お前の異変に気付いてやればお前に辛い思いさせなかったんだけど。お前が俺を口説いてる時点で色々おかしいとは思ってたけどまさか熱があるとは。」


俺が寝てる間、真澄は吐いたりしてたわけだ。
まじで申し訳ない。


「・・・。」


なんか無言になってる真澄。
おかゆを食べる手も止まっている。


「あ、別に謝ってほしいわけじゃないからね!つかさっき謝って貰ったし。昨日お前を一人にさせて悪かったってことを、俺はいいたくて…。」


・・・。
もしかして、真澄的に思い出したくないことなのかもしれない。
そりゃそうだ、親友とディープキスなんて思い出したくないよな。あ、この話しない方が良かったのか。



「大丈夫だって、俺、本気にしてないから。」



なるべく、真澄の傷を抉らないようにしながら笑いかける。
まあ色々ショックな部分はありましたけど、そんなこと別に大したことない!

本気にしてないとかいっといて、『可愛い』という言葉にガチ照れしていた俺もいましたけれど。



「…熱が出てないとき言ってたら、軽蔑してたのかな。」

「え?なに?」



真澄が小さい声で何か言った。


けれどよく聞こえなくて、聞き直す。
『〜たら、…たのかな、』みたいなこと言った気がするけど、なんて言ったんだろう。



「なんでもない。」



真澄は俺の聞き返しに答えてくれなかった。
微かに笑みを浮かべて、手元を見ている。

なんか、悲しげ。

なに、俺また何かしたの?




「ま、」


「涼、今日はありがとね。看病してくれて。」



話を遮られ、お礼を言われた。
なんでもない、の前が気になるのに、話を切られてしまってつなげようにも繋げられなくなる。



「・・・当たり前だろ。明日も看病してやるから。」


「明日は学校行くから平気。」


「・・・。」



この話に関しても、絶対真澄譲ってくれないな。
だから体調壊すんだよ、真澄のやつ。


明日無茶してまた体調崩したら、俺知らないからな!





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bkm