誤算、伝染中 | ナノ
6




はー、もう、
寝る前のこと引きずって、馬鹿みたいに辛気臭くなっちゃった。

だいたい真澄具合悪いのに、なんで俺の事ばっかり話しちゃったんだろう。真澄の身体より自分の話って。

俺って本当馬鹿だな。


真澄は、俺が途中で話を終わらせたのが納得いかないらしくてどこか心配そうな顔をしていた。

優しい真澄
その顔に見つめられると、つらい。
だから俺は逃げるようにしてキッチンに向かう。

あーもうだめだめ。暗いこと考えるのは俺らしくない。

つーかもう五時って!!!
なんだこの時間!

俺今日夜眠れないよ絶対!


「真澄、うどんとおかゆどっちがいい?」

「・・・おかゆ」


真澄の部屋の方から小さな返事が返ってきた。
おかゆか。
たまごがゆと、梅干しと、どっちがいいかな。

たまごがゆにしちゃお。
ねぎもたくさんいれないとね。


キッチンで一人用土鍋を二つだしたりして準備を進める。
そうしてたら真澄もリビングにやってきた。


やっぱり具合がまだ良くなりきってないのか、黙ったままの真澄。
カーテンを閉めて、電気をつけている


「…具合、やっぱり良くないよね?寝てる?」

「いやこれ以上寝れないからいいよ。何か手伝おうか。」

「病人が何言ってるんだよ!ソファで寝てて!」


キッチンに来ようとした真澄を全力で阻止する。顔はもう赤くないけれど、やっぱり疲れた顔してるし…!

真澄の腕を引っ張ってソファに案内した。部屋からタオルケットを持ってきて真澄にかける。


「今日は絶対安静、明日も!」


真澄は疲れてたんだよきっと。
その上イベントもあって余計疲労たまって、そして人を殴るという経験をしたからそれが爆発したんだ。

少し乱れてる真澄の髪を整えながら真澄にそう言う。けれど視線をそらす真澄

あっ、反抗的だ!


「明日は学校いくよ。反省文、提出しないと」

「だっ、だめです〜!たまにはゆっくり休まないと!!」

「今日十分休んだよ」


俺におとなしく頭を撫でられながらも、ため息をつく真澄。1日で疲れ取れるわけねーだろ


「でも…」

「俺は大丈夫なの。今日、栄養剤飲んで寝れば明日には疲れも無くなってるから。」


心配してくれてありがと、とお礼を言われ、何も言えなくなる。

もう一回反論しようと口を開こうとした時、

『ピンポン』と、
部屋の呼び鈴が鳴った。


「…?」


お互い顔を見合わせる。
あまり呼び鈴が鳴ることがないから、なんだろうと思ってしまう。


「俺でるよ」

「えっいやいやいや俺動くから!お願いだから、じっとしててよ…」


ソファから立ち上がろうとした真澄の肩を押さえつけて、ソファに座らせなおした

なんで真澄、今も力弱いくせに自分で何でもやろうとするんだ。たまには俺に全部任せてくれよ。


「寝ててね!」


真澄に釘を刺してから玄関へと急ぐ。
あっ、つか俺制服のままじゃん!忘れてた!


「はい、誰ですか」

「俺だよぉ〜〜」

「うわあっっっ」


玄関開けた瞬間、すごい力でドアをガバッと開けられた。

ビビる俺にニッコリ可愛らしい笑顔を浮かべてる目の前の相手。

ウィッグを変えてるから一瞬誰だかわかんなかった。


「あ、有岡さん…!紫乃さんまで!どうしました?というか、髪型また変えたんですね」


いつものピンクアッシュベージュの髪色だけど、髪が伸びてる。胸下まであるロングが緩く巻かれていてふわふわした髪型になっていた。

ピンクは今お気に入りの色なのかな…


「そう、髪型変えたぁ、似合う?」

「え、えぇ…もちろん…」


可愛い顔してるから、似合わない髪型がない。

俺の返答に満足気な笑みを浮かべた有岡さん。一体なんなんだ、と思っていたら隣で黙っていた紫乃さんが、俺の頭に手を伸ばしてきた

えっ、


「………昨日、つらかったね。」


優しい声でそう言って、俺の頭を撫でてくれた紫乃さん。その優しい声と指先に驚く。

あっ、えと、ああ…
二人に知られてないわけがないよな。


「えっと、別に大したことないです…」

「ねえ紫乃ぉ、俺が言おうとしてこと言うなよぉ〜」

「何しにきたのか忘れかけてたでしょ、有岡」

「今から言うところだったのぉ」


俺の頭から紫乃さんの手を剥がして俺に抱きついてきた有岡さん。甘くていい匂いがフワリと俺を包み込む。


いや、そんなことより、


「あの…おふたりとも、生徒会は?」


まだ5時過ぎ。
いつももっと時間がかかる。
千歳はいないけど…


「真澄も風邪ひいてるんでしょ〜?お見舞い行ってやれって会長も言ってくれたしぃ、先に抜けてきたぁ。…つかこの首のやつ目障りなんだけど」

「…そんな怖い声出さないでくださいよ…」


抱きつきながら俺の首筋に指を這わす有岡さん。たぶんキスマ?噛み跡?のこと言ってる。絆創膏つけるのすっかり忘れてた。


「ほんっと、所有欲持つ男って勝手だよねえ。涼の首にこんなのつけてさあ。」

「…ん、んー、そう、ですね」


侑くんがつけた跡でもあるから何とも言えない。俺の微妙な反応に訝しげな表情を浮かべる有岡さん。

「なにその反応」と聞かれる前に慌てて話をそらした。


「あっ、もしよかったら、中入ってきませんか?風邪移ったら大変なので、マスクしてもらいますけど…」

「…んー、じゃあお邪魔しよっかなぁ」

「ごめんね、涼」

「いえ、むしろ来てくださってありがとうございます」


俺にピッタリくっついたままの有岡さんが今度は俺の背中にのしかかってきた。華奢だから別に重くはないけど、動きづらい…


「真澄、有岡さんと紫乃さんがお見舞い来てくれたよ」

「元気ぃ真澄〜?珍しいねぇお前が風邪なんて」

「お疲れ様です」


いつの間にかマスクをしていた真澄。
有岡さんと紫乃さんを見てペコリと頭を下げた。


「すみません、わざわざ来ていただいて」

「俺らが来たくて来てるだけぇ、すぐ帰るよ〜。あはは、しんどそうな顔してるねぇ、熱は大丈夫なのぉ?」

「…涼が、世話してくれたおかげで大分良くなりました」


マスクを着けているからよくわからないけれど、微笑んだらしい。でもやっぱりだれが見ても疲れきった顔をしてるんだろう。

かわいそ〜、と有岡さんが同情を口にしながらテーブルの椅子に腰かけた。

二人にマスクを渡そうとしたけど「真澄がしてるからいいでしょ」と断られ、しぶしぶ引き下がる。…大丈夫かなあ。しっかり消毒してもらわないと。


「でも逆にラッキーだったんじゃなぁい?涼に甲斐甲斐しく世話して貰えたんでしょお?」


テーブルに肘をついて、手の甲に顎をのせながら微笑む有岡さん。

…そりゃあ、いつも俺が真澄に世話して貰ってる側だけど、ラッキーだったとはいえない具合の悪さだったぞ。今も無理してないか心配だし…。


「涼、これよかったら」


真澄と有岡さんが話している間、紫乃さんにビニール袋を渡された。
中を覗いてみるといろいろ入っている。ゼリー、プリン、チョコ、クッキー、ポカリ、C1000…
わあ、たくさんある!


「いいんですか?ありがとうございます!」

「涼も食べてね」

「えっ、嬉しいです!ぜひ頂きます〜」


やった!
ぜひプリンを頂戴しよう。

うれしくてニコニコしながら紫乃さんを見上げる。
俺の様子を見て、紫乃さんも笑いかけてくれた。目を細めて優しい微笑み。


「お茶出すんで、紫乃さんも座ってください」

「長居すると真澄かわいそうだからぁ、すぐ帰るよ〜。」

「いや、俺のことは気にしないでください。お二人にうつすと悪いから部屋に戻ってるんで」


立ち上がろうとした有岡さんに真澄が制止の声をかけた。ソファから立ち上がって、真澄の部屋へと向かう


「ゆっくりしていってくださいね」

「真澄がそう言うなら甘えるけどさあ…ほんとに大丈夫なわけぇ?」

「えぇ、明日は学校に行きますし。」

「だからだめだってば真澄!明日はおやすみしろって!」


さっきのやり取りをもう一回繰り返すことになった。も〜本当に頑固だなあ!!


「だから、大丈夫なの。」

「大丈夫じゃない!」

「なにぃ?夫婦喧嘩〜?俺らやっぱり帰るよぉ」


いや、夫婦じゃないし!
あと帰ってもらうほどじゃないし!


「いや、せめてお茶だけでも飲んでってください。…俺部屋にいるんで涼をお願いしますね。」

「はぁい、ゆっくり休んでねぇ」

真澄が自分の部屋に戻った。
パタン、とドアを閉められまた真澄に逃げられる羽目に。

もう!


「どう思います?あいつ無理しすぎだと思いませんか?」

「本人の好きにさせればいいじゃあん」


ぐっ…
そう言われると俺何も言えなくなんじゃん…!

もしかして俺もおせっかいかけすぎてんのかな?

紫乃さんはどう思うんだろう、と視線を紫乃さんに送る。
俺と目があって微笑む紫乃さん。


「涼は真澄のこと大好きだから、心配なんだよね」


紫乃さんにそう言われて、なんだか恥ずかしくなった。

だ、大好き…って
いや、間違ってはないけどさあ…





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bkm