誤算、伝染中 | ナノ
4

帰りに売店で必要なものを買ってから部屋に戻った。
真澄は相変わらず死んだように寝ていて、それでいてまたおでこが汗ばんでる。


「真澄、ごめん、起きて」


せっかく寝てる中申し訳ないけれど、経口補水液を飲ますために真澄の肩を揺する。
これ飲めば少しスッキリするはず。


「・・・ん・・・?」

「これ飲も?あと何か口に入れて欲しいんだけど…ゼリー食べれそう?桃缶もあるよ」


真澄の身体をゆっくり起こして、ベッドの淵に寄りかからせる。
今にも寝てしまいそうな真澄に慌てて桃缶とみかんゼリーを開けた。どっちなら食べれるかな!


「真澄、寝ないで!桃とみかん!どっちがいい?」

「・・・もも、」

「わかった、ほら、口開けて!あーん!」


無理矢理真澄を起こし、桃を一口サイズに切って真澄の口に持っていく。
微かに開いた口にそれを突っ込んでOS1を差しだした。頑張れ〜!

どうにか諸々飲み込んだ後顎に伝った水を指で掬い取りながら、倒れこむようにしてまたベッドに横になった真澄。


「明日もひどいようだったら病院行こうね」


もはや今日行かせてあげればよかったのかな。
でもこんなひどいのに動かすのも可哀そうだから…。
寮玄関から、学校の外までは距離あるし。


「…おやすみ、真澄」


疲れ切ってるのか、すぐに目を伏せてしまった真澄。その様子に胸が痛くなる。
せめて半分、お前の風邪貰ってあげればいいんだけど。

そうもいかないから、薬の力に頼るしかない。


今はだいたい11時。
次、真澄は何時ごろに起きれるんだろう。というか、ごはんは食べれるかな。


寝てしまった真澄のおでこに冷えピタを貼って、布団を掛け直す。
そうだ、早いけど今日は生徒会に行けないってこと連絡しておかないと。


「俺の携帯どこだっけー。」


立ち上がるついでに真澄の食べかけ桃かんとゼリーを片付ける。
昨日、帰ってきて…
俺のベッドの上だったかな。


記憶通り、存在を忘れていた携帯がポテン、とベッドの上に転がっていた。


電源切れっぱなし。
連絡するような仲の人なんて、身近にしかいないからあまり携帯で連絡がくることはない。いつも直接何か言われる。

から、今日も大して連絡入ってないだろう、と思ってたら、


めっちゃくちゃ連絡が来てた。



「え」



ラインの通知数を見てギョッとする。


あ、あれえ?
なんでこんな来てるの。


ラインを送ってきた人物を見てみると、


知らない人たち多数(たぶん昨日のイベント関係で俺のライン知ったやつら)
大丈夫ですか、とかなんか心配のラインがたっくさん。


えぇ…誰…?

わからないからとりあえず全員ブロックしていく。
あのグループラインのせいだな。もおー、すぐ退出だ。

つか大丈夫ってなに?
もしかしてレイプされかけのこと?それとも筋肉痛とかそっちの心配?
もし前者なら、やっぱり話広がるの早いなあ、とある意味感心する。でも面倒臭い。


「あ。」


下の方に遡っていくと、小鳥遊からも連絡があった。

小鳥遊…?

あ!!!そういえば侑くんの写真いっぱいくれる約束もしてたんだった!!

わあ〜〜〜〜!!
真澄が熱で寝込んでるのにこんな喜んじゃって申し訳ないけど喜んじゃう〜〜!!!


「わあ〜〜!」


思わず声に出しちゃいながら小鳥遊のラインを見る


けれど。


侑くんの顔を写真で見た瞬間、心臓がギュッてなった。同時にもわもわとした何かが胸の中に溜まっていく


う…、

なに、これ、


「あれえ…?」


いつもとは違う胸の苦しさに首を傾げる。

なんか、直視できないというか。
なんというか。

あれえ?おかしいな


昨日、あんなことがあったから、なんか変になってんのかな。俺の心臓。


首を摩りながら、侑くんの事を考える


「・・・」


でもすぐ考えるのをやめた。


しんどくなってきて、すぐに侑くんの写真を見るのもやめる。一応写真をくれた小鳥遊にはスタンプでお礼を言っておいた。


思い出しちゃいけないことなんだ
きっと、忘れたほうがいい。

写真を見ただけでこんな、普通じゃなくなっちゃうんだから。


侑くんからはもちろん、連絡はない。
いつも通り。
その事に、なんだか安心した。


「うぅっ、真澄〜〜」


堪らなくなってドタドタと足をもつらせながら真澄の部屋へと戻る。

勿論寝たままの真澄
侑くんのことになるといつも真澄に言ってたから習慣?的に真澄のとこに行っちゃう。


真澄をベッドの奥につめてその横に俺も転がった。

微かに呻く真澄。けれど起きることはなく俺が隣に来たのも気づいてないようだった。


「聞いてよ真澄…寝たままでいいからさあ」


携帯をいじくりながら、寝ている真澄に話しかける。
隣にいるだけで伝わってくる熱。
本当にあんな薬でこの熱を下がらせることが出来るのかと疑問に思うほど


「俺さあ…侑くんのこと、全然わかんなくなっちゃった。」


改めて口に出すと、つらい言葉。
けれど、俺の声はまるで他人事のように抜けきったものだった。

口に出さないだけで前から思っていたことだからだろうか。

前まであんなに近くにいた存在が気づいたら少しずつ溝ができていってしまっていた。少しずつ、少しずつ。その溝が侑くんの気持ちをわからなくさせる。

前までって言ってるけど、その『前』はいつだったか。


「侑くんっていつから俺を涼って呼び始めたんだろうね」


俺の独り言に、もちろん返事はない。


俺の目の前には真っ白な天井が広がっていて、俺はただただぼんやりとそれを眺めた


…さびしい。

なんだか、言葉に表せない虚無感が突然俺に襲いかかった。






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bkm