誤算、伝染中 | ナノ
外側にこぼれる



朝7時半
そろそろ真澄も起きているだろうと思いながらも自分の部屋に入る。

ちなみに千歳も朝食べない派だった。食べてないのにあの身長。なんなの?むしろ食べないほうが身長伸びるわけ?お腹減ったから千歳のウイダー一本もらって飲んで来たけど、食欲なら誰にも負けてないと思う。なのに伸びない。


「真澄ー、起きてる?」


玄関には、きちんと揃えられた真澄のローファーがまだあった。まだ部屋を出る時間ではないからあって当たり前なんだけれど、さすがに起きてるよな?

そう思うけれど、俺の問いかけに答える声はなく。

え。

まさか、と思って室内に入ると誰もいなかった。洗面所にもいない。トイレにも。

うそっ、まだ寝てんのか。


「おい、真澄!起きなよ、遅刻するぞ」


俺も制服に着替えながら真澄の部屋のドアをノックする。

なんだよ、目覚ましくらいセットしとけよ。いつも俺の声で起きないでさあ


「…?」


何の返事もない。
え、なに?シカト?


昨日俺が出てったからシカト決め込んでんのこいつ?

イライラしながらガチャガチャとドアノブをうるさい音を立てて回す。鍵かかってるから開かないんだけど。は、まじでなんなの。


「真澄ー、拗ねてんの?てかあれじゃん、お前も悪いじゃん。いつまでも引きずんないでよ」


お前がそんな態度取るなら俺もシカト決めるけど。

そう思いながら諦めようとしたら、中から『ドスンッ!』という、何かが落ちた音がした。


なんだ今の。


「真澄ー?」


怪訝に思ってドアノブにもう一度触れようとしたら、ドアが開いた

…なんだよ、起きてんなら声くらいかけろよ。


「おい、はやく着替えないとちこくす…」


遅刻するぞ、という言葉は途中で切れてしまった。
唖然としながら目の前を見つめる

目の前にはまだ部屋着姿の真澄がいたのだけれど、

様子が、変


「ま、ますみ…?お前、かお…」


一番違和感を感じた顔色だった。

顔が、まじで、

真っ赤。



「…おはよ」



ひどく気だるげな声で真澄が俺に言ってきた。声だけじゃなく、目も力が入ってない。全体的に、ふらふらしている。


はっ!!?


「なにお前これ!!!なに!?熱!?」


風邪引いてんの!!?
つか、昨日も顔赤かったよな、あれまじで熱があったからだったの?そういう?

真澄の顔を手で挟み込みながら顔を伺う。熱い頬。ちょっとぶつかっただけでよろよろ後ろにいく足。

まじでやばいじゃん。


「い、いつから…?いや、その前に、ベッド戻ろ、」


真澄の腕を引いてベッドに押し戻す
相当つらいのか、真澄は一言も発さずベッドに横になった

その様子を見て余計呆然とする
ど、どうすればいいんだ…


「とりあえず熱計ろう、お前、昨日から熱あったんじゃないの?」


だから様子もなんか変だったとか。
だったらなんか、すっごく納得する。
だって、昨日の真澄は明らかに変だった


「きのう…身体は変だとは思ってたけど無視してお風呂入ったら、そのあと吐いて…」

「は、吐いたの?」


まじか、つか風呂入ったからだろそれ。

なんで熱があるって気づかないんだよ。普通気づくだろ


部屋に置いてある救急箱から体温計を取り出して真澄に渡す

汗ぐっしょりじゃん、なんか拭くもの持ってこないと…あと冷やすもの?


「体温計鳴ったら教えて。俺学校に連絡しとく」


真澄のおでこに張り付いた髪を指で流しながら真澄に伝えた

真澄はしんどそうに「…ん」と呟いて目を伏せる


こんな弱ってる真澄初めて見たからめっちゃ慌てる

とりあえず、学校に連絡して…
あんな真澄1人にできないから俺も休もう。担任に何か言われても無視だ無視。

学校の電話番号に電話をかけながら、濡れたタオルを準備する。あと氷嚢と、乾いたタオル。


電話をかけた時、2人して休むなんて言うもんだから仮病じゃないかと怪しまれるかと思ったが、そのうちの1人が真澄だったから何とか探られることはなかった。

やっぱ信用って大事だなあ…しみじみ。


「真澄、体温どう?」


俺の質問に無言で顔を手で覆いながら、俺に温度計を渡してくる真澄

どれどれ、とそれを手にとってみたらその数字にビビった

39.1…!?
死ぬんじゃない!?


「や、やばいやばい、とりあえず、これ、氷嚢、脇の下入れて」


高熱すぎる真澄の体温に慌てて氷嚢を渡す。うわー、看病の仕方なんてわかんない、ググろ!


ひいひいしながら携帯を出して『熱 対処』と打つ
吐き気もあるっぽいしなあ、病院行ったほうがいいかなあ、ご飯食べれないよね、うわあ。


「…涼、俺あと寝てるからいいよ。学校いってきな」

「はあ?この状態のお前残していけるかよ、もう休む連絡した」


携帯を眺めながら真澄の汗だくの首に濡らしたタオルをあてて汗を拭う。こんな汗もすごいのに1人にできるか。

俺の返答に「ごめん」と謝る真澄

やめろよ、謝られたくなんてねーんだけど。


「それは、昨日のことの謝罪?」


皮肉を込めながら、真澄に笑いかける。
ベッドに腰掛け真澄の顔を見下ろすと、真澄が顔を歪めた。

その顔に(あ、)と思う。


「…それも、ごめん」

「じ、冗談だよ、本気にするなって」


そんなつらそうな顔されるとは思ってなかった。なに、こいつこんな顔するほど思いつめてたのかな。


「昨日、熱があるって気付いてやればよかったね」


一応口には出してたけど本気じゃなかったし。
熱が出たきっかけはなんだろう。ストレスかな。それな気がする。

真澄、思い詰めるタイプだからなあ。


真澄のつらそうな顔を払拭しようとなるべく笑顔を浮かべたが、真澄の表情が戻ることはなかった。


「昨日はどうかしてた、ほんとうにごめん」


そう言ってギュッと俺の腕を握る真澄。
その弱々しい声にびっくりする

汗を額に浮かべながら俺を見上げる真澄。真澄にとって、昨日のことは相当だったらしい。


「…そんな顔するなよ。たかがキスだよ」


真澄のあつすぎる手を握る。
そうだよ、たかがキスだ。

なにも、そんな、
死にそうな顔しながら謝ることじゃない。ただでさえ熱で弱ってる奴に、この話をネタにした俺が馬鹿だった


「その、俺もごめん。昨日1人にさせて…それと、俺のためにあの男殴ってくれてありがとう」


まだ言えてなかった気がしたから今のうちにお礼を言っておく

少しでもさっきのつらそうな表情を戻せればいいと思ったんだけれど…
少しの気まずさを隠すように、にぎにぎと真澄の指を握った。


「…もしかしてこの熱って、普段やらないことしたからとか?」


今度こそ雰囲気を変えようと、ふふ、と微笑みながら真澄にたずねた。真っ赤な顔の真澄。横になってると少し子供っぽく見える。


「・・・。そうかもね」


俺の質問に、疲れ切った声で真澄が相槌を打った。幾分か、あの死にそうな顔ではなくなっていて少し安心する。


…真澄、俺に嫌われたかと思ったのかな。あんな必死な顔して謝ってくるなんて。
そんなことじゃ、真澄の事なんか絶対嫌いにならないのに。
真澄はそれを知らないんだろうか。








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bkm