18
「・・・。」
俺の顔を見て、千歳が少し驚いたようだった。
さっきまで険しかった目つきが、幾分か和らぐ
そして摘まんでいた指をパッと離して俺の目を覗きこんできた
「なに泣きそうになってんの」
「はあっ!?なってねえよ!!」
目をばって押さえた。
何勘違いしてんだこの野郎!
いやっ、まあ、確かに多少はビビったけど、
泣きそうになったわけではない!
泣きそうになったわけじゃないけど、
けどぉっ、
うぅっ
「そんな怒らなくたっていいじゃあ〜〜〜んっ」
「・・・泣いてんじゃねえか」
気づいたらボロボロ涙を流しながら千歳に向かって声を荒げていた。
仕方ねえじゃん、急にグワァッて感情が溢れだしちゃったんだから。ダムが決壊した、そんな感じ。
うえーって変な声を出しながら自分の膝小僧に顔を押し付ける
俺だってお前ごときに泣きたくなかったよお!!
「そんな怒ったつもりもねえんだけど」
頭をガシッて掴まれた
そのまま乱暴に顔をあげされて千歳の顔面が目の前に広がる。
歪んでよく見えないけど、俺の顔をじっと見てるらしい。
くそーーーっ、
「見んなあ!!」
えぐえぐと吃逆を上げながら目を瞑る。頭を下げたくても千歳の力が強すぎて下げられない。
どうにか俺の頭を掴む手を握るものの、やっぱり剥がせなかった。
力強すぎだろなんだこれ、ううっ、
むかつく〜〜〜っ
「俺だって、俺だって、」
「?」
「おれだって一応怖かったんだから、でも、ぅっ、ゆうくん、きてくれたし、ほられなかったし、だから、俺別にどうでもいいかなぁって、おもっうぇっ、あとで、おれで、しょりすればいいかなあ、って、おもっ、うぇえーーっ」
吃逆でぶつぶつ言葉を切っちゃいながら何とか言い訳を述べていく
その甘い考えの結果ああなっちゃったんだけど、
だってまさかあんな大事になるとは思わなかったんだもん
侑くんどころか、真澄までがあいつに手を出すとは。
俺のせいで、
俺のために?か。
「つ、つぎから、きをつけるから、そんなおこんないでよお〜〜っ!」
真澄と色々あって俺は相当疲れていたんだろう。
あと休みに来たのにまさかさらに追い打ちをかけられるとは思ってなかったってのがデカい。
気づいたら俺は、千歳の胸に思いっきりおでこをぶつけながらう゛ぇーーんと泣声をあげていた。
千歳の着ている部屋着をタオル代わりに涙を拭く
次は他の奴らに心配かけないように気を付けるし、自分の身だって守るようにすればいい話じゃん。それをなんでそんな怒ってくるかな、俺だって鋼のメンタルじゃねえんだぞ
「・・・涼、疲れてんの?」
そんな俺を見ての、千歳のふざけた一言。なんかちょっと呆気にとられた声してる。
俺の頭を優しく撫でて、その指先から微かな動揺が感じられた。
ああ、そうだよ、疲れてんだよ。
体力的にも精神面的にも。
千歳の言葉に、素直に頷く。
すると、千歳が驚きの声をあげた。
「相当だな。」
「うるせえ゛」
ズッと鼻を鳴らしながら、一応の反抗をする。
あー、頭痛い。余計疲れる、もう、最悪、こいつの前で大泣きなんて。
しかも説教で大泣きって、まじでガキかよ。
「…泣くなよ、悪かったって。」
よしよしと子供を慰めるように、千歳の手によって俺の背中をさすられた。
俺の体を引き寄せて、千歳の足の間に体が割り込む形になる。
でかい千歳の胸の中にすっぽり収まる俺。
・・・まんま子供じゃねーか。
「そんなに真澄に怒られたわけ」
「…いや、おこられた、…んー…、怒られもした、けど、なんか、よくわかんねえ」
泣き終わり独特のぐらぐらする頭で考える。
自覚が足りねえって怒られて、なんか煽られキスをして。
でもそれだけじゃねーんだよ。
それ以前に、俺は侑くんの問題があるんだよ、
侑くんにつけられたキスマークの意味。
俺は、それすらもよくわかってない。頭がパンクしそう。
本当、
わけがわかんない。
「なのにお前にも怒られるし、なんなんだよお…っ」
「あーうるせえ、泣くな。悪かったって、俺の配慮不足だった。」
お前が配慮したことなんて過去にあっただろうか。
そう思うが、泣くなと言われたのでどうにか唇を噛んで踏みとどまる。くそ、一回泣くと涙腺がヘボなんだよな。うぅっ、と呻きながらグリグリと千歳の胸に顔を擦りつけた。
「・・・最初からそういう可愛い反応しとけっつーの」
少し体を離して俺の顔を覗きこみながらそう言ってきた千歳。
はあ?なんだよそれ、さっきからガキ扱いしやがって。馬鹿にしてんのか。
「し゛ね゛」
「目真っ赤にしながら言われてもな」
暴言を吐く俺に千歳が笑った。
涙で顔に貼り付いた髪を丁寧に流してくれる千歳の指。
そのまま濡れた頬、目元と、暖かい指を滑らせて涙を拭ってくれた。
千歳にされるがまま目を瞑ってそれを受け入れる。
はあ・・・。
出来るならこのまま寝ちゃいたい。つかれた。
そんでもって、ついでに記憶を全部消してくれ。
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bkm