誤算、伝染中 | ナノ
03

「馬鹿じゃねえのって言われたぁあああ」


自分の部屋にて。
ソファの上で丸くなり、さっき侑くんに吐き捨てられた言葉を嘆く

俺は本気なのに!

俺は本気で侑くんの貞操を心配してるのに!!



あんなゴミを見るような目を向けられるとは思わなかったよ俺!!




「それは侑介の言う通りだよ。」


丸まっている俺の隣に腰かけて、はっきりそう述べる相部屋の奴
侑くんの名を慣れ慣れしく呼んでいるが、こいつと俺の仲に免じて許している


「なんでっ、なんでだよ…!侑くんあんなに可愛いんだよ、危ないよ!ピアスまで開けちゃってさあ…!」

「可愛くはないでしょ、あの顔・・・」

「ぁああ゛っ!?」


ガバァッと起き上がって、相手の服を掴んだ
どうみたって侑くんは可愛いんだよ!!
あんな整った顔、一年であの子くらいしかいないのに!


服を掴まれたにも関わらず、冷静に俺を一瞥する相手・・・名前は真澄(ますみ)。
中性的な顔つきはかなり綺麗なもので、黒い瞳が彼の淡泊気味の性格を表している

そして、ゆっくりと彼の形の良い眉が寄せられた


「涼、」

「…はーい。」


条件反射でパッと手を離した。
わかればよろしい、と視線を手元に戻す真澄

視線の先には、分厚い資料。これはたぶん生徒会のもの。
真澄はこの学校の副会長をやっていてこの学校で二番目に忙しい。

ちなみに俺は生徒会書記。
生徒会に入っておけば、ある程度の地位が獲得でき色々便利だから書記になった。これも全ては侑くんのため。

それにしても部屋に持ち込んでまで仕事とは・・・。
・・・見なかったことにしよ。


「確かに、侑介は美形だと思うよ」

真澄が話をつづけた。
なんだよわかってんじゃん!


「だよねっ」

「お前と一緒で。」


突然のお褒めの言葉に軽く驚く。
俺と一緒で美形?
けれどおかしくて、ふふ、と笑ってしまった


「何言ってんだよ、侑くんは俺の何倍も素敵だよ。自慢の弟なんだからね」


一緒だなんて、同じ土俵に立てるほど俺の顔は整っちゃいない。
割とモテるけどね。
だからこそ、侑くんの身が危ない!


「…そうですか。」


小さな声で真澄が相槌を打った。
タンタン、と小刻みにペンで紙を叩く音が響く
興味なさそう。

なんでわかってくれないんだろう、侑君の身が危ないという事に。
侑君の可愛さに。

侑君・・・
うぅ…。

「確かにちょっと悪っぽくなってきたけどさあ…」

さっき見てしまった侑くんのピアスを思い出しながらそう呟いた
入学して早々ピアスとは…。
実家で絶対お母さんに怒られるんだろうな


「したいようにさせればいいでしょ。子供じゃないんだから」


相変わらず資料を見ながら俺にそう告げる真澄

子供じゃないかぁ・・・。
一歳しか離れてないとはいえ、やっぱりどうしても世話焼きになっちゃう。


「本当に、侑介が大好きだよね涼は。」


頭を優しく撫でられ、そのまままたソファに丸くなった
スルスルと俺を落ち着かせるように髪に指を通す真澄

俺も侑くんの事好きすぎだろって自分でも引くよ。
ブラコンの代表になれるレベルだわ。


でもどちらにせよ、


「野獣ホモ野郎から絶対侑くんを守らねば」

「・・・。」


数秒して頭上から聞こえてきた盛大なため息。
「もう・・・」と呆れた声も聞こえる。


侑君を不良受けにだけはさせないぞ!




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bkm