誤算、伝染中 | ナノ
14




「俺も思うよ。涼は可愛いって」


「えっ」



え?



予想外の言葉に、俺は見事に爆死しそうになる



真顔のままの真澄。
やっぱり、照れた様子なんてない。


なのに俺は全力で照れた。
馬鹿みたいに。



「〜〜〜〜っ!」



一体、

どうしたんだこいつは!!!?



声にならない叫びが俺の口から飛び出た。はくはくと口を開けては閉め、その上顔が真っ赤なんだから間抜けヅラになってるであろう俺

お前今まで俺を可愛いなんて一度も言ったことねーじゃん。

美形がどうのとかは言われたことあるけど、可愛いなんて、


そんなこと言う奴でもないじゃん


「どうしたの?」


動揺する俺を見て特に笑うこともなく、そんなふざけたことを聞いてきた真澄


ど、どうしたの、って

はあ!?


「っ、うそ、つくなよ…!おまえ、俺がこうなるってわかって、わざとそういってるだろ、」


真澄の反応にむかついてドン、と胸板を叩いた。何もしてないのに息が上がってる俺。

顔が、風邪の時みたいに熱い
しかもこの0距離
いつ唇がつくかわかんない

前はキスとか余裕にできた気がするけど、今は無理

なんか、無理


「嘘?…なんなら毎日言ってあげようか。そうすればお前も自覚から危機感を持つかもね」

「っ」


スリ、とおでこが擦れた。もはやまつげですらぶつかりそうな距離に勘弁してくれと、息が止まる

その危機感ってのは、男に襲われる危機感ってこと?そんなもん持ったことねーよ、一度も。
つか持つ方が頭おかしいだろ、自意識過剰じゃん


真澄が俺を可愛いって思ってるのも俄かに信じられねーし

こいつがそんなキャラじゃないの、知ってるし、

やっぱり、俺が恥ずかしがってるのを見て面白がってるようにも思える。



真澄の真意を探ろうと、ジィ、っと真澄の目の奥を覗きみた。
深淵のような綺麗な瞳。
そこからは、俺じゃ何も読みとることができない。


わ、

わかんねえ〜〜〜



「信じられないって?」



そんな俺を見て、ようやく真澄が笑みを漏らした。
俺は相当変な顔をしていたんだろうか、おかしそうに目元を綻ばせている。


「ば、馬鹿にしてるんだろ、俺の事」


こんなことに女みたいに恥ずかしがって、動揺して。
嫌になって顔を隠すようにして斜めに俯く。

仕方ないじゃん。
だって、こんな真澄初めてなんだから。


「馬鹿にはしてないよ。…可愛いとは、思うけど」


悔しくて、唇を噛んでいたら真澄が俺にそう呟いた。
その言葉に目を見開く。主に後ろ部分。


また変なこと言ってるし!



「・・・おまえさあ、冗談もいい加減に、」


「受け身になると生娘みたいになるところとかさ、すごく、」


可愛いよね、と俺の言葉を遮るように真澄が言葉をつづけた。




・・・・・へっ・・・・・?




真澄らしくない、甘い声。


その声と言葉に、
なんというか、

思考を全部持っていかれたような、言葉どころか呼吸ですら奪われた



その言葉に反論する間も無く、おでこにちゅ、と柔らかいものが当たる

俺のおでこに、唇の感触。



真澄が、俺のおでこに

キスをした。



「どうしたっっっ!!?」



我慢が出来なくなって叫んだ

今日変すぎない真澄!!!
変だよ!

どうした!!!!



「お前そんな奴じゃないだろ!!!き、キスとか、前に俺にされてブチ切れてたじゃん!!!」

「逆に聞くけど、俺にキスしたくせにされる側になるとどうしてそんなに照れてんの?」



うっ、


咄嗟におでこを抑えた手を剥がされて、満足げな顔をして俺を見つめる真澄と目があった。

あの時は、俺が興奮してたのもあったし、
違うって言うか、

いや、


「っ、別に、照れてない」


気づいたら虚勢を張っていた。
自分でも、馬鹿だろって笑ってしまうほど間抜けな虚勢だ。

顔を真っ赤にして、言葉を詰まらせといて照れてないとか、誰がどう見てもわかる嘘。

そんな俺に真澄は首を傾けながら、ふ、と笑った。


「そうなの?」

「キスぐらい、全然余裕だし、俺」


なんか、墓穴を掘っていってる気がする
千歳にキスされて暴れまくった俺がよく言うよな、って感じ。


そう思うが、口に出してしまったものはもうどうにもならなかった。


真澄に挑戦的な視線を向け、余裕だと吐き捨てた俺。
そんな精いっぱいの虚勢を張りながら、真澄の首の後ろに手を差し込む


元々顔の距離は近かったから、少し引き寄せるだけで簡単だった。


真澄の唇に、自分の唇をぶつけるのは。




・・・なんか俺、


馬鹿すぎない?






prev mokuji next
bkm