誤算、伝染中 | ナノ
13



ゲームの結果的には、

1位千歳
2位真澄
3位紫乃さん
4位俺
5位有岡さん
だった。

1位が千歳なのは納得。千歳も特に喜びもせず、ふーんって感じだった。腹立たしい。

有岡さんが最下位だったのは有岡さんがふざけて千歳のとこにいったものの返り討ちにされたから、らしい。おかげで俺らが最下位にならずに済んだ。ありがたい。

でも正直今、ゲームの結果とかあんまり頭に入ってこない。


理由は真澄だ。


時間が経ったから怒りが大分収まってますように、と願いながら俺は今、部屋のソファで真澄の帰りを待っている。


なんか真澄は用事があるとかで、俺に先に部屋に戻ってるように言っていた。寄り道したら今後1人で歩けなくさせる足にするとも。
…怖すぎだろなんなのあいつ。サイコパスなんじゃない?


真澄が中々帰ってこないので風呂にも入った。あと真澄の怪我も気になるので消毒液とコットンも両手に装備してる。

とりあえず、よくわかんないけど真澄に謝ろう。どうせ俺が癪に触ること言ったんだろうし。よくわかんないけど。本当に。


それにしても真澄帰ってくるの遅いな、大丈夫かな、と心配し始めた時、

『ガチャ』と玄関のドアが開いた音がした


帰ってきた!!


「ま、真澄っ!」


ドタドタと玄関へと走りながら真澄の名前を呼ぶ。靴を脱いだところだったらしい真澄。

俺が慌てて走ってきたからビックリしたようだった


「…どうしたの」

「あっ、いや…なんかわかんないけど、怒らせたっぽいから…その…」


謝ろうと思って…、と消毒液をギュッと握った

今も怒ってるのかな、とおどおどしながら真澄を見上げてみる。

そんな俺を驚いた顔で見つめる真澄。
けれど、ふ、と微笑みを浮かべた

えっ


「うわっ!?」


真澄の表情に俺がビックリしていたら、真澄が倒れこむように俺を抱きしめてきた

壁にドンっとぶつかる背中
真澄が俺に体重をかけてきて重たい

えっ、な、
どうした真澄…!


「ずるい」


驚いてる俺の耳元で真澄がそう呟いた。

ず、ずるい…?


「真澄…?」


背中にそっと腕を回しながら、その様子に戸惑う。突然抱きしめてくるなんて、どうしたんだよ。疲れてるのか?


「…どうせ俺が何に怒ってるのかわかんないんでしょ?」

「…それは…うん…」


正直な俺の返答に、真澄は小さく笑った。俺から少し体を浮かせて、俺の顔をじっと覗き込む


「…泣いてたね」

「え?」

「動画、見たんだけど」


動画…

そう言われて、あの男の動画のことだとすぐに気付いた。


「見たのっ!?」

「ごめん。先生に報告する時に…」


まじかよ…。
改めて見たって言われると恥ずかしくなる。あの時は頭に血が上ってたから誰に見られても平気だと思ったんだけど、今はなんというか…

あれを見られたのね。

恥ずかしくて俯き気味になる俺の目元をそっと撫でる真澄


「あんな目に遭ったのに、平気だなんて思わないで。怖かったでしょ?」


真澄が俺にそう言った。
心配に揺れる真澄の瞳

その目と声色に、不思議と申し訳ない気持ちが出てくる
なに、滅茶苦茶心配してくれてたってこと?


「ご、ごめん…気をつける…」


あれかな、もっと自分を大切にしろって言ってくれてんのかな。
真澄の鎖骨らへんにおでこを埋めながら謝った。

優しい奴。


「でも今回はたまたまっていうか…」

「・・・」

「普段から俺みたいな奴を襲おうとする奴なんてあんまいないと思うし…だって俺だよ?」


「……は?」


俺の一言に真澄の雰囲気が一瞬で変わった。
な、なに。


「まだそんなこと言ってんの?一回襲われといて」


腹立たしげな真澄の声
グイッと顔を上げさせられ目をばっちり合わせられる


「で、でもさあ、」

「あの欲情まみれの男の顔忘れたの?」


男の顔って…
お前見れてないだろ。


「確かにキモかったけど、運が悪かっただけだよ。俺より魅力的なやつなんていっぱいいるんだし、その証拠に今回が初めてだよ、襲われたの」


1人でいることがあんまないって理由があるかもしんないけど…

でも俺を好き好んで襲う奴なんているのかあ?あの男も相当溜まってただけなんじゃないかな


「・・・」


俺の発言に、また真澄が苛立ちを露わにし始めた。

か、顔が怖い…!


「お前は自覚ないけど、綺麗なんだよ。同性の男が欲情しちゃうくらいには」


怖い顔で俺を見下ろしたままそう呟いた。おでこがつきそうな距離に真澄の顔があって余計に怖さが増す


「真澄だって、綺麗じゃん…」

「顔のタイプが違う。お前はそこらの女より綺麗だし性格も可愛いの、わかる?」

「……へっ、」


は!!?


突然の褒め言葉に顔がブワワ、と熱くなった。
真澄は全く照れた様子はないけど、お世辞だとも思えない。こいつはお世辞なんて絶対言わないやつだから

そう思ったら余計に恥ずかしくなった。


「い、いや、そんなの…」

「腹立つよね、本人に自覚がないと。」

「い゛っ」


ゴツン、と真澄のおでこがぶつかった。
相当苛ついてんのか、距離感もくそもない。真澄の吐息が唇に当たるほどの距離で、緊張のあまり暴れまくる俺の心臓

バクバク、と心臓が耳についてるかのようだった。


お、落ち着け俺、
真澄相手になに緊張してんの。

俺前に真澄の頬にキスしたじゃん、この距離くらいどうってことねーだろ、動揺するな。


「……真澄もそう思うわけ?俺が可愛いって」


一方的に言われるのも嫌で、煽るつもりで冗談を言ってみた。

これ以上褒められたら恥ずかしくて死にそうだったから。
真澄なら「俺はそう思わないけど」ってサラッて言ってくれそうだし。

そう言われることを期待しながら真澄の目を見た。睫毛が真っ直ぐな真澄の目。


けれど、真澄の口から出てきた言葉は期待を裏切ったものだった。





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bkm