誤算、伝染中 | ナノ
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「ま、真澄っ!?」


な、
何やってんだこいつ!!!


まさかの真澄の行動に、思わず叫んだ
周りも一斉に騒がしくなる。そりゃそうだ、こんなにたくさん人がいる中で堂々と生徒を殴ったんだから。

慌てて真澄の腕を引っ張って、真澄を立たせる。
動揺しすぎて、なんて言えばいいかわかんないけど、とにかく移動しなきゃ…!

モブ男も鼻を押さえながらどっかに逃げてった。たぶん二度目の保健室。

つか、なんで真澄までこんなこと!!!


「お前、何してんだよ!お前まであんなことする必要ないのに!」


体育館の端まで真澄を連れてって、真澄の両腕をつかみながら顔を見上げた。
今まで一度も問題を起こしたことがない真澄が流血沙汰とか…!真澄の評価に影響しちゃうじゃん!


「別に反省文くらいなんてことないよ」

「でも、お前、お父さん…!」


理事長なのに…
俺を思って殴ってくれたのかもしれないけど、それで真澄の評価に傷がついたら、俺、


「俺のことなんかどうでもいいんだよ」


真澄が怖い顔をしながらそう呟いた。
な、なんでそんな怖い顔すんだよ…なんか怒ってんのか?


「どうでもいいわけないだろ。俺嫌だよ、お前に迷惑かけるの」


今更だけどさあ!
なんつーの、そういう、お家の事で真澄には迷惑かけたくない。せめて。


「手だって、お前…血…」

「…平気だって。ねえ、涼、お前の方が酷い目に遭ってるってわかんないの?」


真澄の右手に触れていたら解かれた。やっぱり怒ってる。

つか酷い目って、確かにあの時は怖かったし気持ち悪かったけれど結局未然に終わったし…真澄まで巻き込まれる必要は無かった。


「俺は今なんともないもん。掘られてもねーし…キスマとお触りと暴力で済むなら安いわ」


なんかムッとした。
真澄が怒ってる理由もわかんないし、まるで子ども扱いだ。

俺が注意を受けたにも関わらずレイプされかけたから怒ってるのか?

俺の言葉に、真澄が黙った
静かな目つきで俺を見下ろす真澄

な、なんだよ…
気まずくて目線を下にズラす。

だって、本当のことだし…。
なんか変なこと言ったかな。


「…それ、本気で言ってんの?」


真澄の口から出てきた冷たすぎる声色にビックリした。
思わず目線を元に戻す。

目の前には、忌々しそうな目で俺を見下ろす真澄がいて。

えっ


「…とりあえず、この話は後で。今は閉会式終わらせないと」


真澄の言葉にハッとすると、有岡さんの「生徒会書記と生徒会副会長はいますぐ来なさーい」というアナウンスが聞こえてきた

真澄はもう俺に背を向けていて、いまどんな顔してるのかわからない。でも、

マジ切れしてた…

ドッドッド、と謎の焦りで心臓が早くなる。真澄のマジ切れは過去に何回か見てるがあれは完全に俺がふざけすぎてあいつのプッツンを招いていた。自覚はある。

でも、今回のは理由がわかんない

え、そんな怒ること?


「お前らどこ行ってたのぉ〜?こっちだって早く終わらせたいのにぃ」

「うわっ、有岡さん…!」


役員の所に行くと有岡さんのTシャツが真っ赤に染まっていた。他2人は真っ白なまま。

赤、って事は千歳か…


「なあに。涼、なんか言いたいことでもあんの〜?」

「…なんでもないです…」


千歳にやられたのか…。
有岡さんが聞くんじゃねーよって雰囲気出してるから黙っておく

真澄をちらりと見てみたけど、いつも通り冷静な真澄に戻っていた。けれど、右指の付け根の所が切れたみたいで、血が出てる

うわあ…人殴るって痛いって聞くけど、あんななるの?真澄なにやってんだよ…

つかもしかして侑くんもこうなってたのかな。気づかなかった、心配。真澄にも絆創膏あげたいけど、俺持ってないし…

そもそもなんで真澄怒ってたの〜全部わかんないよー。
今日の俺厄日すぎー。

ハア、とため息をついてうんざりしていたら有岡さんの顔が急にどアップで出てきた

うわっ


「なんかお前頬腫れてない?」

「えっ」


その一言に左頬をパッと抑えた。
た、確かに熱もってるし痛いけど…別にそこまでひどくはない、はず


「え…わかりますか?」

「自覚あんの?」

「え、えぇ…ぶつけたんで」


いつもの間延びした喋り方じゃない事に違和感を感じながらも頷いた

殴られたとか今言ったら色々面倒臭い事になりそうだし…そのうちバレるだろうけど今日は黙っておこうち思う


「ぶつけたあ?大丈夫なわけ?つか首の絆創膏も気になるし」

「これは、き、切りました」

「…なんかお前怪しいな」


詰め寄られてドキッとした。
なんだよ、別にいいじゃん怪我くらい。前捻挫した時はダッセーって言ってたのに。


「保健室、行ってきた?」


紫乃さんにまで心配そうな顔をされた。あー、もー、みんな心配性っつーか…


「大丈夫です!あとで冷やしときます!」


部屋に湿布の余りあるし。
これ以上心配されるのも嫌なので有岡さんのとこから逃げた。さっきから無反応な千歳の横に並ぶ

俺の事をチラッと見てきた千歳だったけどなにも言わずに前を向きなおす千歳。…あー、こいつのこういうところ割と気に入ってんだよね。詮索されたくない時してこないとこ。
わかってんのか俺に興味ねーのかわかんないけど。

真澄は司会進行してて、さっきから喋りっぱなし。横顔しか見えない。

このあと千歳が壇上にあがって、体育委員会から渡された結果を読み上げてわーってなって終わりなんだけど、


俺、この後真澄になに言われんだろ…



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bkm