誤算、伝染中 | ナノ
10


升谷の出現によって、一気に現実に戻された俺

唖然としてたら升谷が俺のところに走ってきて「大丈夫ですか!」って聞いてきた

っだ、
大丈夫かと言われたら色々大丈夫じゃないけど、


「まだ誰にもぶつけられてないよ」


升谷が聞きたかった内容を答えるとホッとしたようだった。
チラッと侑くんを見てみると、なんか髪の毛をグシャグシャしてる。何かにうんざりしてる顔。


「う…えっと、侑介くん、ごめんね、」


気まずそうに升谷が侑くんに謝った。それに苦笑を浮かべる侑くん


「…何に謝ってんの、当たり前のことしただけだろ」

「いや、でも…」


ぐっしょり黄色のインクで汚れた侑くんのTシャツ。升谷の気持ちもわからなくない、罪悪感が出てしまうのも。ルームメイトだし…俺も真澄に当てられる気がしないもん。

侑くんがカラーボールを当てられたのを見て、侑くんは本当にただ俺を助けに来てくれただけなのだと思った。俺のことなんて、いつでも当てられたのにその素振りすら見せなかったんだから。


「・・・」


首をゴシッと擦ってみる。
確かに、俺はさっき侑くんに首にキスをされていた。あの瞬間は夢じゃなかった、はず。あの悲しい表情だって…

どうしよう
侑くんに、なんて、声をかければ…


「侑く…」


升谷と何か話している侑くんに駆け寄ろうとしたら顔をフイッと背けられた。

えっ。

目も一瞬しか合っていない。唖然とする俺を置いて、そのまま出口へ向かってしまう侑くん

う…うそ。
まさかのスルー


「…升谷、こいつ頼むわ」

「えっ、うん」

「??、???」


突然の素っ気なさに頭が混乱した。
え、え?俺、やっぱり夢でも見てたの?
夢だとしても見ていいものじゃないけど、え、えっと


「ゆっ、侑くん…!」

「…なに」


うっ…

いつものあの冷たい目にたじろいだ。
特に話すことはない

けど、温度差に不安になった

さっき、あんなにつらそうな顔をしていたのに。また、何か俺に隠してる事があるんじゃないの?

そう思ったけれど聞けなかった
首のこともあって、なんか、……気まずい。


「な、なんでもない…」


自分でもわかるくらいシュンってなった。首に残る違和感を手でゴシゴシする。まだ、熱が残ってる。


「・・・」


そんな俺を一瞥した侑くんだったけど、結局何も言わずに行ってしまった。
バタン、というドアが閉まる音をただ呆然としながら聞く。

おれ、何か間違っちゃったかな。


「住吉さま…?」


入り口をぼんやり眺めていた俺を心配してか升谷が俺の顔を覗いてきた

あ、そうか
はやく移動しなきゃだ…


「…迎えに来てくれてありがと。みんなどうしてる?」

「あっ、今なら会議室に戻っても安全です。さっきまで敵がたくさん来ててんやわんやで…残ってる北棟の人達が合流したからなんとかなったんですけど、」

「そう…」


他のメンバーもボチボチ減ってきてんだろうな。そういや小鳥遊はどうしたんだろう。
さすがにもうやられたんだろうか。


「小鳥遊は?」

「…残念ながらぶつけられちゃったみたいです。連絡がきました」


まあ4人に追いかけられればな。
あとで一応御礼を言っておかねーと。


「はあ…」


なんか、一気に疲れが。まだゲーム終わってないけど。

頭が疲れた
あと頬っぺた痛い


「何かありましたか?」


ため息をついた俺に升谷が心配そうな顔を向けた。その表情に思わず笑う


「そう見える?」

「えっ、えと、なんだか…お二人の様子がいつもと違ったように見えて…」


えっ、嘘
そんなのわかんのこの子

…まあ俺のことずっとガン見する子だけどさ…


「それに…、その、あの…」


急に升谷が顔を赤らめながらもじもじし始めた。…なんだよ、気持ち悪いな。

升谷の目線を追うと、俺の顔の下らへんを見てる

つまり、首


「あぁ…これ?」


どこに鬱血痕があるかわかんないから首筋をスッとなぞった。それに無言でこくこく頷く升谷

めっちゃ顔真っ赤じゃん


「…まあ、色々あったんだよね。そうだ、升谷くん、絆創膏とか持ってない?」


鏡を見てみると、さっきよりも鬱血痕が広がったようだった。少しズレてるけど二つ重なっているキスマーク。

侑くんは、嫉妬だって言っていた。
あの男に対してだろうか

でも、それじゃあ俺、色々自惚れちゃう。きっと俺の勘違いだ。


「も、持ってます!一枚でよろしいですか?」

「本当?ありがと、助かる」


渡された絆創膏を受け取りながら升谷に微笑むと、泣きそうな顔をされた。

…そんな、泣きそうになるくらい喜ばれてもなあ…

俺の何がこの子をそんなにさせてるんだろう。この子に優しくした記憶なんて俺、全くないのに。

首のところに絆創膏を貼って、この痕が見えないようにした。

よし…そろそろ切り替えてゲームに戻りますか。

そう思って振り返ると、升谷が床のある一点をじっと見ていて。



その視線を追うと、携帯が落ちてる。
あ…あいつの携帯じゃん


「ラッキー」


証拠ゲット。
嬉々としてそれを拾う俺に升谷が首を傾げた


「それは、住吉さまのですか…?」

「ん?んーん。違う。」


トイレの床に落ちたもの拾うのもやなのでトイレットペーパーにめっちゃ巻きつけた。


あいつ携帯の存在忘れてんのか




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bkm