誤算、伝染中 | ナノ
02



「つかいいだろ、ピアスくらい」

「だ、ダメだよ…!あのフワフワした耳たぶを傷つけるなんて!」

長らく触ってないけど、俺の記憶によるとすっげーふにふにしてた!
めっちゃ柔らかかった侑くんの耳たぶが!


「どうしてんな事まで言われなきゃいけねえんだよ」


苛立ちの籠った冷たい視線
子供の頃の、あのキラキラした目を俺に向けなくなったのはいつからだろうか。


どうしてって…


「お、お兄ちゃんは、侑くんの身体が大事だから…」

「たかが耳一つで大袈裟なんだよ。」

「耳二つ!!」

「・・・。」


俺のツッコミに「アホくさ・・・」、って顔された
ため息を深く吐いて、濡れた頭をガシガシする侑くん

そのまま俺に背を向けてジュースを買い始めてしまった


あっ、無視!



「そもそも髪ちゃんと乾かさないと風邪ひくよ!」

「つかなんでここにいんの」

「え゛っ」


ギクゥッ


気づかれたくないことを指摘されてしまった。
ガコンッと音を立てて自販機から出てきた炭酸ジュース
それを拾って、侑君がゆっくりと俺に近づいてきた


「よく俺が部屋から出たってわかったな」


ソファに倒れたままの俺に顔を寄せてきた侑くん
端整な顔が目の前に広がる


「う…」


言葉が詰まった俺に、ニコリと微笑む侑くん
久しぶりに見た侑くんの笑顔

かっ、

かわいいぃぃい・・・!!


「ゆ・・・!」

「携帯、見せろ」

「え」


実はずっと握っていたスマホ
その言葉に急いで隠そうと、さっと後ろにスマホを移動させるが、侑くんが覆いかぶさってきた

シャンプーの甘い匂い
近すぎる顔の距離に驚いていたら、スマホをいとも簡単に奪い取った侑くん


そして、


「また付けただろGPS」


俺のスマホの画面をさらされ、逃げられなくなる
『また』と言っていることから、初めてでもない。侑くんが入学してから3回くらいバレてる。

うわあ


「え、ぇえ・・・?んーと・・・」

「付けたよな?」

「は、はい・・・」


素直にそう頷いた。
前科がありますし、どう考えても言い逃れはできません。


「どこ。携帯?財布?」

「スニーカーの裏・・・」

「まじかよ」


覆いかぶさっていた侑くんが俺から身体を離し、ソファから降りた
スニーカーを脱いで、つけられた超小型式のGPSを外して捨てる侑くん

俺もムクッと起き上がる


「金の無駄遣いだと思わねえ?」

「貯金なら一杯あるし・・・」

「そういうことじゃねーよ」


ポスンッと頭を叩かれた
叩くというより、頭に手を置く、と言った感じ

ああ、またバレてしまった…。GPS。
これがあれば偶然を装って侑くんと会えるし、話せるのに…。



「侑くんが危ない目に遭うのが怖いんだよ」


この学校は、中高一貫の男子校。
高校から寮生活が始まり、みんな部活と勉学に打ち込む。

とはいえ、親元から離れた思春期真っ盛りの男子たちだ。
こんなやりたい放題の環境他にないと思う。

例え、男子しかいないと言えど関係ない。

なんでって、同性が恋愛対象になってしまっているんだから。
そう、つまり、
この学校は、ホモだらけだということ。


「俺が危ない目に遭うと思う?」

「思う。」

「俺小さくもねえし、か弱くもねえんだけど。見た目も真面目とは程遠いし」


確かにピアス開けちゃってるし、普段の姿もほぼ不良だけど…
でも、俺は知ってしまった。

恐ろしい事実を



「侑くん・・・この学校が野獣だらけのホモ学校だってこと、知ってるよね」

「まあな」

「顔と家柄が全てってのもわかるよね」

「・・・あぁ」


そう、この学校はほとんど金持ちの坊ちゃんが集合してる。
だから親の関係とか、今後のことを考えてレベルが上の家柄に媚びを売ってくる輩が多い。

ちなみに俺らは金持ち界でも結構上位の方。
そんでもって、侑くんのこの美貌だ。

男が寄ってこない訳がない。


「俺、この前ネットで知ったんだ…あるかっぷりんぐ、というヤツについて」

「カップリング?」


眉を寄せた侑くん
綺麗な茶色の目が、細く歪む


侑君の質問にコクリ、と小さくうなづいた。
俺は震えながら、ソファから立ち上がり侑君の腕を掴む


「ボーイズラブに、不良受けっていうのがあるんだよ!!!しかもかなり人気!!!!」


この前ホモについて調べてたらなんか知らないサイトに行ってそういうのを知ってしまった。
不良受け・・・その名の通り、普段ツンケンしてる不良が組み敷かれてアンアン言う側になるやつ・・・!

不良だからと言って、安心できるわけがない。
むしろ、その逆!!


ユサユサと侑くんの身体を揺さぶりながら、危険性を伝える


俺は必死だった。

どうにかして、侑くんをこの脅威から守らねばならないと。



必死だったのに、

侑くんの口から出た言葉はひどく冷たいものだった。



「馬鹿じゃねえの」


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bkm