誤算、伝染中 | ナノ
05



俺がわざわざトイレ行くのに10人ついてこられるのも嫌だったから10人で移動するという提案は全力で拒否した。
たぶん大丈夫だと思うけどなぁ…。敵がいるわけでもないし。

そんで一人は絶対ダメだという事で、小鳥遊もついてくることに。
二人でドアから顔を出してまず様子見をした。


「静かですね」

「そうだな」

「さっと行って、さっと帰って来い」


鬘と眼鏡をちゃんとセットしてから恐る恐る廊下に出る
トイレってここから一番逆端にあんだよね…。
まあ、さすがにトイレまで覗きにくる奴もいないと思うけど。


一番怖いのが、トイレ横の階段
あそこでバッタリ顔合わせになったら大変。


「インク飛び散ってるんで、滑らないように気を付けてくださいね」

「うん」


俺の前を走り始めた小鳥遊に俺もついていく。俺がついてこれるくらいのスピード
後ろを見ると升谷が心配そうにこちらを見送っていて少し罪悪感を感じた。うーん、やっぱり我慢するべきだったかな。でもちょっと力入れたら漏れそうなレベルだから怖いんだよね。


トイレに行くまで教室が4個分あって、そのあとに階段、一番奥にトイレ、といった感じ。
廊下はシーンとしていて、すごいドキドキする。

う、おお…
南棟が盛り上がってる分、こっちが静かなのかな、
俺ら北棟で良かった…。


「今頃侑くん何してるんだろ…怪我したり襲われたりしてないかな、大丈夫かな」

「まあ侑介ですし、少なくとも襲われはしないですねー。きっとまだ元気に他チームの奴らにボールぶつけてるんじゃないですか?」

「そ、そう…?」


元気にボールをぶつける侑くんを想像してみたけれど、想像できなかった。笑顔でぶつけてるってこと?そんな子じゃねーから!ふざけるなよ!

あー、もー、侑くん、今頃何してるの…!俺心配だよ!
どうしよう捕まって縛られたりしてたら!し、縛られて、その、アハーンな事とかされてたら、俺は、俺は…!!!!!!

侑くんのことで悶々としてたら3分もしないうちに何事も無く階段前の壁まで辿りついた。
小鳥遊が階段の方に身を乗り出してみるが、人は来てないらしくてオッケーってジェスチャーされる。


「誰もいなくてラッキーですね」

「そうだな、今追いかけられたら漏らすと思うもん俺」

「あは、それは大惨事ですね」


小さな声でクスクス笑いながら階段を横切った小鳥遊。俺もそれについていき、すぐにトイレ横の壁に張り付いた

ホッ


「やけに静かですね…」


小鳥遊がえらく真面目な顔でぼそっと呟いた。壁から身を乗り出して階段を見ている。

逆に怖いよな


「とりあえず俺ここにいるんでどうぞいってらっしゃい」

「ん」



間。


手を洗ってトイレを出ると、小鳥遊はまだ階段の方を見てるようだった。
結構真剣な横顔をしてる。
実は真面目かこいつ。金髪の癖に。


「たかなーー…」

「シッ、」


名前を呼ぼうとしたら口を塞がれた。
えっ、なに

ムググ、となりながら目を見開くと小鳥遊に階段の方を指さされる。


「?」


階段?



「話し声がするんです」



耳元でボソッ、と囁かれた。
は、話し声?
階段から?


やべえじゃん!!


「味方かもしれませんけどわからないのでとりあえず身を潜めておきましょう」


小鳥遊の提案に激しく頭を縦に振った。


えぇええ、嘘!!!このタイミングで!!!?
ある意味トイレ行っといて正解だったかもしれないけど!!!
いや、やっぱ失敗です!!でも、漏らすのは、漏らすのは…!

ドクドクと煩くなる心臓
チラ、と小鳥遊を見上げるとニコ、と微笑まれた。


「大丈夫ですよ。俺がいるんですから」


い、意外と頼りになるなこいつ…。
セリフくっせえけど


耳を澄ましていたら、確かに、かすかな話し声が聞こえてきた。
階段を登ってくる音か、降りてくる音か、わからないけれど足音も。

何人いるんだ
うわぁ、緊張で心臓が口から出てきそう

声を上げないように口を手で押さえていたら、肩をギュッと掴まれた。そのまま小鳥遊の身体に寄せられて小鳥遊の胸板にバスン、と顔がぶつかる。
なんだこれ、俺を安心させようとしてるのか

ウザくてその手を放そうと小鳥遊の手を握った時、


「めっちゃ静かだな」


という誰かの話し声が聞こえてきた。


ドキィッ!!!


「た、たかなし…」

「しー、静かに」


さっきよりも肩を掴む力が強くなった。
俺の耳に囁く声からも緊張が伝わってくる。


「つかおびき出すって何。おびき出そうとしてもどうせ5人ぐらいしかついてこねーだろ」

「なんか一回気を抜かせたところで一気に襲い行くのが目的だって」

「意味あんのそれ。」

「知らねー。相手は書記さんとこだしなんとかなんじゃね」

「まあ、確かに5人だけだと思ってたら次に30来たら動揺するわな」


話の内容的にも、敵だという事がわかった。今は5人いるという事も。

つか30で乗り込んでくんの?
やば!!

壁越しに、そいつらの気配が伝わってきて息を呑む
小鳥遊は携帯を出して、なにやら文字を打ってた。

覗いてみると、『会議室に敵行く、5人の次30人。できるなら4階のチームと連携して挟み込んで』とのこと。
あー、知らせてるのか。さすがだね。
俺携帯ないからできねーけど。


「とりあえず、あいつらがいなくなるまでここでやり過ごしましょう」


小鳥遊が俺にそう囁いた。
俺も頷きながらさっさと俺のチームにぶちのめされてくれ、と願っていたら、

敵の一人が頭おかしい事を言い始めた。



「俺ちょっとトイレ行ってきていい?」


・・・。

は?



その一言に、一瞬で殺意が湧く俺。
…ごめん、俺今溝内の気持ちすごいわかった。


我慢しろ馬鹿か!!!!
なんで今こいつそんな事言ってんだよ!!!!我慢しろよトイレくらい!!!!



「はあ?今?」

「だってこの後ダッシュだろ?無理無理我慢できない」

「んじゃさっさと行って来い。ほんと馬鹿だな」


仲間も止めろよ、なんで止めねーの、やめて
小鳥遊も顔を手で覆っている。声に出さずとも何を言いたいのかわかる。『ふざけんな』だ。
こちらに近づいてくる足音。


ど、


どうする…!!?






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bkm