15
引き摺られている途中、丁度アナウンス席の後ろを通りがかったら有岡さんに見つかってしまった。手招きをされてしまったので渋々そちらへ向かう
実況はいいのか、と思うがいいらしい。
「涼ぉ〜〜まだその服着てくれてたのぉ?超可愛い〜」
「い、色々…ありまして」
座りながらぎゅーっと俺に抱きついてきた有岡さん。そして俺の姿を確認するように上から下までじーっと見始めた。め…めっちゃ見るじゃん…
「色々ってぇ?」
「ジャージパクられまして…」
「なにそれぇ、あはは、ウケる」
ウケないでくれ。
俺はがっくりしながらため息をつく。あと少しだけだとしてもこの格好でいなきゃいけないなんて。恥ずかしくて堪んない。
すると、俺の後ろに千歳がいるのに気づいたらしく「まだイチャついてたのぉ?」と聞かれた
イチャついてないよ!
「会長随分と見せつけてきたよねぇ、大丈夫だった涼?」
「大丈夫じゃないです」
「…あのお題考えたの有岡だろーが」
千歳のその指摘に確かに!と思う。有岡さんが企んだんじゃん!
俺がいるグループだけやたら変なお題だったし
「まあね〜でも別にキスしろなんてこっちは言ってないしぃ」
俺の髪を撫でながら、俺の耳に髪をかける有岡さん。どうやら俺の髪型を整えているらしい。ピン留めされた。
有岡さんの指摘に、それもそうだと千歳を睨みつける。余計なことしやがってこの野郎…!
「涼、敵増えちゃったんじゃなぁい?可哀想ぉ〜」
「本当ですよ!」
俺千歳ファンに殺されるぞ!
特に過激なやつら。なにされるかわかんない。
げんなりしていたら有岡さんが俺の唇にリップを塗ってくれた。俺の顔をそっと包みながらにっこりと笑う有岡さん
「可愛いよ涼。毎日その格好でもいいのに」
いや…それは全力でお断りしたい…
俺はやわやわと首を横に振る。30分でもきついです。俺のその様子に有岡さんは「もったなぁい」と言った。もったいないなんて。素直に喜べる事でもない。
片方の髪をピンで留められ、色付きリップを塗られ。さっきよりおめかしした感じになって恥ずかしくなる。
はやく着替えてしまいたい。
スニーカーだけが唯一まともな装備品だった。
ーーー
「どうしたのその格好」
テントに戻ると案の定紫乃さんが驚いた様子で俺に聞いた
まあ…そりゃそうだよね
「ジャージ盗まれちゃったみたいで…」
「えぇっ?大丈夫なの?」
大丈夫じゃないです…
先輩方で唯一心配してくれたのは紫乃さんだけだった。他の2人が悪魔すぎた。
メイド服のおかげで視線がちらちらとうざったい。もしかしたら、千歳とのキスも原因の1つかもしれないけれど。
気を紛らわそうと、さっき貰ったペットボトルの水をゴクゴクと飲む。はぁ、生き返る。
「でもすごく可愛いよ。その花のピンも」
「あぁ…有岡さんがつけてくれたんです」
左の耳上につけられたピン。花だったのか。
ふと、水を3分の2くらい飲んだところで変な味がすることに気づく。なんか苦い。んん?
パッケージを見る限り普通の水っぽいけど、初めての味。
…なんか不味いぞ。
考えてみたら知らん人から手渡されたものがぶがぶ飲むのってあんま良くなかったな
そう思いながら顔を顰めていたら、ピストルの音がした
どうやら一年の借り物競争が始まったらしい
はっ!!!
侑くん!!!
「がんばれ侑くーん!」
侑くんに聞こえるわけがないだろうから、大きな声で侑くんを応援する
白組の小鳥遊を応援しないんかーいとツッコミが来そうなくらいには全力で。
ああ〜〜録画したい。
高画質なビデオカメラこの日のために買えば良かったかなぁ
侑くん小鳥遊、本当早いな。あっという間にカード引いて更衣室まで行ってしまった。
「あの2人どんな格好になっちゃうんだろうね」
紫乃さんがくすくす笑いながら俺に問いかける。
2年の時は有岡さんの策略のせいで全員メイドだったけれど、1年はどうなんだろう。一応小鳥遊と侑くんがいるけれど有岡さんは何かこだわってたりするのかな。
侑くんが女装のくじ引いちゃったらどうしよう…
それはそれで可愛いかもしれない。ぜひ見てみたい。
「侑くんならなんでも似合いますよ」
なんてったって顔がいいですから!
スタイルもずっと。どんな衣装になってもキャーキャーものだよ。
「涼もなんだって似合うよ。有岡、最後までどのタイプの女装にするか悩んでたし」
…どうして男装って選択肢はないのか。
まあ、俺が男装しても見栄えがよくなることはないけどさ。チビだし。
紫乃さんと一緒に、侑くん達が出てくるのを待つ。
すると、一番最初に個室の更衣室からでてきたのは金髪頭のやつだった。
小鳥遊!
『おやっ!一番最初に出てきたのは小鳥遊くんです!イケメンは何着てもイケメンですねえ』
実況の人の声とともに小鳥遊に注目が集まる。
紺色の衣装に何らかの帽子を被ってる小鳥遊
…警察のコスプレだ。
笑顔でこちらに手を振っている小鳥遊を見て思う。
なんでこっちに手振ってるんだあいつ。
アイドルかなんかのつもりかよ。
実際あちこちからピンク色の悲鳴が聞こえるから、アイドルのつもりなのかもしれない。
うぜえ
「小鳥遊くん警察だね」
「あんなダラしない警察官いないと思いますけど」
雰囲気が緩すぎる。
つか女装に当たんなかったのか、ッチ。
そうこうしてる間にも、次々と人が出てきた。
やはり女装くじは残っているらしく、ミニスカチャイナ服だったりの人が出てきて周りから「うげえ」などの苦い声が降り注ぐ。俺もこんな感じの反応だったのかな。
というか侑くんが出てこない。
そんな時間かかる衣装なんだろうか。
ハラハラしながら侑くんがいる更衣室を見ていたら、やっとカーテンが引かれた
そして侑くんが姿を現した時、全身の毛が逆立つ感覚に襲われる。
め…、
めちゃくちゃ、格好いいんですが
『執事だーーーー!!!!住吉弟、イケメン執事に扮しております!!!!』
唖然として言葉を失っている中、キーンと煩い声が俺の鼓膜を揺さぶった。
彼の言う通り、侑くんは燕尾服を着ていた。
白いシャツに黒い燕尾服。前髪がちょっと斜め上にあげられている。
スタイルが良い侑くんにはこれ以上なく似合っている仮装。
「わあ、侑介くんかっこいい。」
ね、と紫乃さんは俺に笑いかけた。
俺はコクコク、とひたすら頭を縦に揺らす。ほんと、その通りすぎて何も言えない。
周りの歓声の大きさが、侑くんの格好良さの度合いを表していた。
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bkm