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それから数日して。
運動会の企画運営内容も着々と進み、試験の準備も各々取り組んでいた。…と言っても、地頭が良い人ばかりだから試験の事を口にする人はほとんどいない。生徒会でも運動会の話だけ。
そして、今日の生徒会で、
全校生徒の組分けを終わらせる予定。
終わらせるって言っても、大体は出来ているんだけど。千歳がやってくれたらしい。
決まってないのは、生徒会メンバーの組分け。
だから、生徒会の組み分けに関してはこれから決まる。
「なんかテンションあがるんだけどぉ〜、ねえ涼?俺涼と同じ組がいいなぁ」
俺らのネームプレートが貼られたホワイトボードを眺めながら俺にくっついてる有岡さん。俺の右腕に華奢な有岡さんの胸が当たる。有岡さんは早く運動会をやりたくてやりたくて仕方がないらしい。
ちなみに企画もこの人が担当してるから余計なんだと思う。
…まだ内容把握しきれてないけど、恐ろしい企画がありそうな気がするぞ…。
「どうしてですか?」
「そんなの、一緒の組の方がコスプレさせまくり易いからに決まってるじゃあん」
なにその、俺にコスプレさせる気満々な感じ。
確かにみんな好き勝手な格好して運動会に臨むけど…
去年も、変な格好させられたし。一緒の組だったから。
「今年は何着るぅ?JK?チャイナ?あ、アリスとかどお〜?」
「は…走りづらそうなので、普通のジャージがいいです…」
「どっちにしろ足遅いから関係ないってぇ」
さらっとディスりを入れられた。
そうだけど、そうだけど!着たくないよそんなの!
去年もなんだかんだで無理矢理着せられた。スカートは嫌だと言いまくったらチェシャ猫?だっけ、猫耳つけて縞々の服と短パンで走らされた。ただでさえ目立つのに実況者にも『ああっ、チェシャ猫くんが転んでしまいました!』とアナウンスされてすごく恥ずかしかったし。今年もそんな目に遭うのだろうか。
「俺、涼さんのJKコス見たいですね〜」
「小鳥遊もこういってる事だしぃ、お揃いしよっかあ。ブレザー派?セーラー派?」
「俺はセーラー派ですかねえ」
「・・・あの、勝手に話進めないでくれませんか」
つか小鳥遊てめえ、俺が有岡さんに強く言えないのを良いことにちゃっかりリクエスト言ってんじゃねーよ。そんな見たいならお前が着なよセーラー服。
そもそも一緒の組にすらまだ決まってないしね!
有岡さんと違う組になりますように!スカートなんて嫌で仕方ないです!
「組分け方法なんですけど、基本的に皆さん体育の成績は優れてるのでくじ引きとかでもいい気がしますがどうですか」
五月蠅い俺らを一瞥しながら真澄は会議を始めた。俺らも怒られる前に着席する。
基本的に、と言いながら俺のネームプレートがみんなのところか切り離された。俺だけ運動ダメなのわざわざ知らしめなくていいから。というか升谷も運動できるの?俺と同じ側じゃないの?
「千歳はチート人間だからぁ、涼と一緒で良いバランスな気がする〜」
「確かにそうかもね」
有岡さんの提案に紫乃さんが静かに頷いた。
チート人間…確かに千歳はそうだけれど、俺そんな千歳と一緒になってやっと俺のやばさを打ち消すことができるってこと?俺そんなレベル?
でも千歳と一緒の組なら千歳がなんでもかんでもやってくれるからなあ…それも悪くない。
なんて思いながら、千歳をチラ、と見る。眠そうにしてる千歳。
というか、あれから千歳から侑くん関係の話聞かないけど、どうなったんだろう。侑くんとも上手くコミュニケーション取れてないからわからない。千歳に聞くのもしつこいと思われそうだし、侑くんになんて絶対聞けないし。
…考えてみれば、生徒会の時以外、侑くんと全然話せてない気がする。
自分の態度の取り方が悪いんだけど、
それはそれで、寂しい。
ーーー…
会議の結果。
バランスを考え、こうなった。
紅組
千歳、紫乃さん、俺、小鳥遊
白組
有岡さん、真澄、侑くん、升谷
白組の大将は有岡さんになるらしい。有岡さん、人まとめるの上手だし…よく人間従えて歩いてるし…
有岡さんは俺と離れたことが少し不服そうだったけれど、俺としてはちょっとホッとしてる。でも安心できないのは離れててもコスチュームを渡してきそうなとこ。うまく回避したい。
「涼さんと一緒の組で嬉しいです」
「あ、そう」
「すげえ塩対応」
小鳥遊とは前のオリエンテーションでも一緒だったからな。今回は紫乃さんと千歳も一緒か。正直心強い。
真澄は白組。
侑くんも、白組。
…侑くんは升谷と一緒かあ…
俺はホワイトボードをぼんやりと眺める。
別にいいんだけどね、全然。
最近俺の方から避けてるようなもんだし。一緒のチームになっても俺どんな顔していいかわかんないし。侑くんだって升谷の方が気が楽だろう
今も升谷と侑くんが仲良さそうに話してる。けど、別に、別に何とも思わないよ。
侑くんと別の誰かが仲良さそうにしてても、
別に、何ともおも、
おも…っ
「ゆ、侑くんと一緒がいいッッ…!」
気づけば絞り出すような声で子供みたいな事を言っていた。
自分でもびっくりした。たぶん禁断症状かなんかが出たんだと思う。
一瞬の間を置いて、小鳥遊が俺の我儘に苦笑いした。「まあまあ」と背中を撫でてくる小鳥遊。
でも、正直嫌だった。だってただでさえ今俺らには距離があるのに、いつも一緒にいれる升谷が侑くんと一緒の組になって運動会も一緒に頑張るなんて。俺が距離とってるようなもんだけど。それでも寂しいもんは寂しい。
「俺有岡さんチーム行く。真澄か升谷くん交換しよ」
「えっ、ええ?」
俺の突拍子もない案に升谷は眼を丸くした。なんだよその可愛い顔。侑くんは毎日この顔を見てるのか、むかつくな。
「涼」
真澄にも声をかけられた。
我儘言わない、って顔をされる。
たっ、確かに、我儘でしかないけど…!う、う…
侑くんに視線をおずおずと向ける。
侑くんは特に表情を変えることなく手元のプリントを眺めてる。我関せず、って感じ。なんか、余計に悲しい。
「俺と侑介、組交換します?」
俺の落ち込みようを哀れに思ったのか、小鳥遊が千歳に聞いてくれた。…お前いい奴すぎかよ。つか俺も後輩に気を使わせてまじで園児以下。
「…だるいから却下」
しかし千歳はその提案を簡単に跳ね除け、俺をがっくりさせる羽目に。いや、当然だよ。ここではいどうぞ、ってなってたらここは俺のお守り部ですかってなっちゃうよな。
「…はあい」
俺は渋々それを承諾。
それに真澄は少し驚いたようだった。普通なら「やだやだ侑くんと一緒ー!」って喚き続けるからね。うわあ、考えれば考えるほど俺ひどすぎ。
大人しく自分の席に座りなおす。俺はいつの間にか立ってしまっていたらしい。
今日の生徒会の内容を纏めようとペンを持つ。なんて書こう。住吉、我儘を言うも跳ね除けられる…とか?冗談だけど。
その時ふと、視線を感じて目線を上げた。左斜め前の所から。
ちなみにそこは侑くんの席であって。
右掌で口元を隠すようにして肘をついている侑くん。
口元は見えないけど、その目は楽しそうに細まっていて確かに俺を見ていた。
俺はその視線に貫かれ硬直する。
その微笑みは一体。
なんでちょっと楽しそうなの。
俺が我儘を言ったことを笑ってるんだろうか。
数秒の間、侑くんは俺を見ていたし俺も侑くんを見ていた。俺がこれ以上侑くんと目を合わせてられない、と思った時に先に侑くんが視線を逸らす。あの笑みは消えて手元を見下ろした侑くん。
俺は侑くんと目が合わなくなってからもドキドキしっ放しで。
ぼーっと侑くんを眺めてからノートに目をやるとぐちゃぐちゃと黒くて細いミミズのような文字がグニャグニャと描かれてた。
う、
うわ…
やってしまった。
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bkm