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ベイビーブルー色の空に、
桜の花びらがひらひら舞う外の景色。
俺は自室の窓からその風景を眺めながら尻尾をゆらゆら揺らしていた。
髪の毛と同じ、シナモン、アッシュローズ、黒色の三色の自慢の尻尾。毛繕いは欠かさないから、毛並みはつやつや。今日は特別に調子がいい。
良い天気だ。
絶好の入学日和。
思わず鼻歌を歌いそうになりながら、うっとりと窓枠に肘をつく。
少しずつ心臓がトクトクと速く脈打ち始めて「はぁ」と息を吐いた。
時計は7時45分を指している。
尻尾を何十往復させたときか、廊下ががちゃがちゃと騒がしくなった。
そろそろ登校の時間だからみんな部屋を出始めているのだろう。
誰かの話し声、
窓から流れ込む、少し冷たい土の香りがする風、
ピンク色の世界。
俺は今感じることができる全てに言葉に出来ない高揚で胸を膨らませながら、立ち上がった。
「よし!」
今日は待ちに待った登校初日。
俺の気合の入りぶりに、尻尾もピーンと伸びきっている。
心臓がバクバクする。
全てがキラキラと輝いて見える。
こんなにもワクワクして嬉しくて仕方ないのは、今日が俺のずっと行きたくて行きたくて仕方なかった学校の、入学式だから。
そう、つまり俺は、
無事に第一志望学校に合格できました。
頑張ったぞ俺!!!!
「うへへ、制服も似合ってる」
黒を基調としてるロングコート式の軍服のような制服。
腰の所でベルトをして、コート裏地とネクタイはガーネット色。
俺の耳にも、同じようなガーネット色のタッセルピアスがつけられてる。これは学年を識別するためのもの。
鏡で全身を確認してさらにだらしない顔つきになる俺。
でも仕方ないよね、死ぬほど渇望した入学なのだから。
俺が合格した時の同級生の顔ったら。唖然としていたのが忘れられない。
両親の幸せそうな笑顔も。
この学校は全寮制だから、両親に最後に会ったのは2日前。
ベッド一つと勉強机、クローゼットのみの狭い一人部屋は少し窮屈だけれど、文句は言えないからね。むしろ広すぎるよりは狭い方が安心するかな。
ちなみにこの寮に来て2日経ったけれど、まだ誰とも話せてない。
友達が出来たらいいんだけど…
望み薄かなあ。
「ああ、あいつか」
「まじで噂は本当かよ」
「ただの猫がこの学校に入学だなんてなあ」
大きな人たちは声を抑えることも出来ないのか。
めちゃくちゃ聞こえてるし
俺が生徒とすれ違うたびにみんな俺を見て何か言ってくる。
猫がいる、とか
信じらんねーとか。
別にいいけどさあ、ただの猫がここに入学したのは事実だし…。
ふん、と思いながら自分の教室へと向かう。でもやっぱり心細い。
俺のクラスはネコ科が多いクラスらしいからまだ平気、な、はず…。
「なんだあれ、ちんちくりんじゃねえか」
ち、
ちんくりんだって?
陰口の中に俺がカチンッとする言葉があった。
馬鹿にされるのは慣れてるけれど、チビという言葉だけは許せない。
ピタリ、と足を止めて声がした方を振り向く。
これまた大きい人たち。
すでに集団で固まっていて、俺を馬鹿にした顔で笑っていた。
「おい、なんかこっちみてるぞ」
「顔つきまで雌みてーじゃん」
完全に俺を馬鹿にしてる。
耳がびょこんてしてて、尻尾がバサバサ。・・・明らかにイヌ科っぽい。
ちょっと図体でかいからって調子に乗りやがってえ〜!!
俺がじっと睨んでるのが気に食わなかったのか、その集団の真ん中にいたグレーの髪の人が俺に視線を寄越してきた。
傲慢そうな態度で俺に視線を向けるその人。
「・・・あ?何見てんだよチビ」
そして、低い声で唸るように俺にそう呟いた。
いかにも俺が先に喧嘩を売ったみたいな言い方。
そ…、
そっちが先に俺の事言ってきたんだろうがぁ…!
喧嘩を売られたのは俺なのに、と歯をギリギリするけれど初日から何か色々あっても嫌なので大人しく無視することにする。俺は大人だからね。
めちゃくちゃむかつくけど。
納得も行かないけど、登校初日だし…。
無視した俺をビビったと思ったらしい。
後ろから「ビビってやんの」と笑い声。
あー、もう。
スタートからこれなの。
イヌ科は嫌い。
集団でしか行動できないのにイキがってるから。
さっきのはオオカミかなあ。
ほんと、いやなひとたち。
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bkm