みどりの旗をかかげよ! | ナノ
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…と思っていたけれど。

いざ、校内を歩いてみて気づいたことがある。

昇降口の方に行くにつれて、部活勧誘の嵐。
つまり、上の学年の先輩もたくさんいるし足止めを食らってる同学年の人たちもたくさんいる玄関口。

一年生が先輩たちから注目されるのは当たり前かもしれないけれど、
それにしても、


みんな俺の事、見すぎじゃない?

なにこの舐るような視線。


「ねえねえ君、○○部のマネージャーとかどう?」
「▲▲部なんだけど、興味とかないかな」


ビラを持って、俺に迫ってくる人、人、人。
目が細まっていて、なんだか腹立つ笑顔を浮かべている。

けれど、俺とその人たちの壁になるようにして手を伸ばす人が一人。


「あっ、この子はそういうのやらないんで〜」


そう言って、俺の代わりにやんわりと勧誘を拒否するトマくん。
俺の肩を掴んで、俺の前に手をかざして人の波を押し返してくれている。

勝手に。
俺が口を開く前に勝手に。

勝手に!!


「ねえ!なんで君が勝手に答えてるの!つかなにこの手!いらない!」

「どうせ勧誘たくさんありすぎて選べっこないよ〜詳しいことは明日対面式で部活紹介あるから別にいいじゃーん。」

「だっ、だからって、ビラくらい…!」

「あはは、ごめんごめん」


ぜったいごめんって思ってないだろこれ…!!
しかもまだ俺の肩掴んだままだし。顔がムギュ、ってトマくんの服に埋もれる。なんか柑橘系のいい匂いするのがまた腹立たしい。

正直人混みをかき分けてくれるのは嬉しいけど!
嬉しいけど完全にメス扱いじゃん!!


「うぎゃっ!」


そんな時、お尻に違和感があった。
円を描くようにさわさわ、と一瞬触れてきた何か

な、

なでられた・・・
誰かにお尻撫でられた・・・・!!

くそ!!なんでこんな目に!!!!


「?どうしたの?」

「なんでもないです…ちょっと、殺意が、わいただけで…」


プライド的に、『尻撫でられた』なんて言えなくて一人で落ち込む

俺、雄なのに
普通に貧相な、男の、尻なのに・・・。

ショックでかい
ころす


「ああ、セクハラでもされたの?」


急激に落ち込んだ俺を見下ろしながら、首を傾げるトマくん
なぜわかった。
つかわかったとしても口に出すなよ


「だから言ってるじゃーん。ニコちゃん狙われるって!」


俺の前歩く?と気を遣われたけれど、それはそれでトマくんが歩きづらそうになるから遠慮する。つか優しすぎない?そんなへらへらしてるのに優しいって。ずるいなあ。


「この人混みもニコちゃん効果だよねえ絶対」

「…トマくんがいるからな気がする」

「んなわけ。なんで俺に寄ってくるんだよ」


トマくんがふはっ、とおかしそうに笑った。

だってほら、背も高いし運動できそうだし、イケメンだし(関係ない)、部活勧誘側からしたらぜひ声をかけたい存在だ。
なのに当人は部活勧誘してくる人たちに1mmも興味を見せずに適当にあしらってる。むしろ自分に声がかかった時は無視だ。先輩相手に強すぎ。


「陸上の先輩に挨拶しなくてもいいの?」

「ん?むしろそれがダルいからわざと遠回りしてる〜」


え゛っ
どおりでなかなか校門出れないわけだ!!


「先輩ってどんな感じ・・・?」


青いタッセルピアスつけてるのが2年で、緑のタッセルピアスが3年。
部活勧誘を任されてるのが2年なのか、ほとんどが青いタッセルピアスをつけた人たち。にしても、すでに図体がでかいけど。


「んー、人によって違うと思うけどねぇ。俺暑苦しい人苦手なんだけど部長がそれなんだよ〜、まじ最悪」


トマくんがさっき教室で見せたような険しい表情になった。本当部活好きじゃないんだな。まだ始まったばかりなのに。


「ニコちゃんは前なにかやってたの?」

「俺?俺は…、サッカー…」

「えっ、なんか意外」


絶対言われると思った。
だからあんまり言いたくないんだよなぁ
馬鹿にしてきた奴の首をそのたびに絞めてきたけど。
トマくんも首を絞められる事になるだろうか、と顔をしかめる。

けれど、トマくんは思ったよりもずっと優しい人だった。


「そういえばさっき、サッカー部のやつらいたよねえ。先にそれ聞いておけばよかった。」


そう言って後ろを振り向くトマくん。
部活はオススメしないとかなんだかんだ言っておいて、俺の気持ちはちゃんと汲んでくれるらしい。まあ、そりゃあ俺が決める事だから当たり前なんだけど。

なんか、感動。
てっきり『その体格じゃ、この学校のサッカー部なんて無理だよ』とでも言うのかなと思ってたから。

トマくんめっちゃ良い人じゃーん!!!(今更)


「いや、サッカーはもうやらない」


サッカー部の集団を探してるのか、周りを見渡してるトマくんの制服を引っ張る。
きょとん、としながら俺を見下ろすトマくん。


「どうして?」


これは勘違いしないで欲しいんだけど、
決して自分の限界を感じてるからとか、馬鹿にされるのが嫌とかではない。

そんでもって、さっき部活勧誘にきた集団を見て改めて、俺はこの部活をやるのはやめよう、と思ったのだ。


何故なら


「イヌ科しかいなかったから」


朝、俺を馬鹿にしてきた狼と同種の人たちもきっと、あの中にいた。
あんなやつらとサッカーなんてぜったい楽しく出来るわけがない。なんならあいつらを転ばせる為に俺は一生懸命になるに違いない。

あまりにも馬鹿げた理由だったからか、予想外な返答だったからか、トマくんは瞬きを数回した後、


「相当、イヌ科が嫌いなんだねえ」


と笑いながら、俺も嫌いだよと言った。




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bkm