みどりの旗をかかげよ! | ナノ
5


しばらくすると、俺らの教室の先生がやってきて朝礼が始まった。この学校初の朝礼で、俺は緊張で姿勢が自然と良くなったけれど他の人たちは相変わらずぼんやりしてた。トマくんなんて肘ついてたし。メンタルやばいな。


そして、今日のメインである入学式があるため教室を出ることに。


「動きたくないなあ」


と欠伸をしながら立ち上がるトマくん。
膝まであるロングコートをうざそうに手で払って、「ね、」と俺を見る


それを見て俺は呆然とした。


・・・背ぇ、

たか。


「と、トマくん…」

「ん〜?」

「背・・・・・大きいね・・・。」


今までずっと座っていたからわからなかったけれど。

まるでモデルのようにスラっとしてるトマくんの身体。
俺と同じ制服を着てると言うのに、俺の何倍も格好良く見える

・・・実は、も、モデル、とかじゃないよね・・・?
むしろそうであって欲しいレベルなのですがこれは。


「…まあ、ニコちゃんよりは?」


そう言って、トマくんは俺の頭の上に手を置いて俺の身長を計る仕草をした。
子供にするようなそれ。
俺の目線の先にはトマくんの胸があって、「ちいさーい」とトマくんが笑う。


いや。
いやいやいや。


「ば、ばばば、馬鹿にしてんのっ!?」

「えぇっ?なんでそうなるの」

「してるだろ!」


トマくんの胸倉をガッと掴んだ俺の形相に、トマくんはちょっと驚いたようだった。
くっ・・・!爪先立ちになっても同じ目線にならないなんて!!!

その身長俺に10cmくらいくれても大丈夫なんじゃない!?
寄越せよ!!


「ひ、豹の人たちって、そんな背高いっけ…!?」

「んーわかんないけど、平均よりは高いかもね」


その言葉に周りを見渡すと、みんな俺より背が高くてどれが豹属なのかわからない。
でも、トマくんほど背が高い人はいない。

トマくん、な、何センチなんだろ…
知りたくないけど…。


「ほら、そんなことより早くしないと置いてかれちゃうよー」


改めて身長の壁を感じてショックを受けていたら手を引かれた。そのまま廊下へと足を進めるトマくん。
スルリと俺の右手をナチュラルに取られて吃驚する。

そんなことより、ってのも腑に落ちないけど、


「なんで、手、握るの?」


じんわりと温かい、トマくんの指。


「んー?胸倉掴まれてて怖かったからぁ」

「あ、あぁ…ごめん…」

「ふは、冗談だけどね」


確かに急に胸倉掴んだのは良くなかったな。ついカッとなって…。
同じネコ科なのになぜこうも違うんだろ、顔立ちも格好良いし…。

トマくんに手を引かれたまま廊下に出るのは恥ずかしいので、出る前にパッと手を離したらトマくんが「あらあ」と残念がった声をあげた。

…なんだその声。
トマくん、俺をメスだと勘違いしたりしてないよね?

もしそうだったら、胸倉掴むどころじゃ済まないよ?



ーーー



さすが、国一番の軍学校だけあって入学式のクオリティもすごかった。
なんというか、豪華。
入場曲を演奏する管弦楽も生徒が弾いているのだけれど、とにかく上手い。素人だからそう聴こえるのかもしれないけど、プロの演奏にしか聞こえない。しかも、花やらなにやら装飾も華やか。お金がかかっている。

俺はただ歩くだけの生徒その1だというのに、緊張してただただ前を歩く人の背中をみていた。


ひ、ひえー…。
なんか呆気にとられるなぁ

第一体育館、めちゃくちゃ広いし、
なんだこれ。


歩いてる時にほんの少し余裕がでて、チラリと先輩たちが並ぶ列を見てみる。

1、2歳しか違わないのに何倍も大人っぽくみえる先輩たち。
俺のフィルターがかかってるせいかどの人たちもしっかりした体格をしてる。身長も、制服を着ててもわかる筋肉も。気怠そうに俺らに拍手をしてる彼ら。

けれど、気のせいか何なのか、何人かの先輩と目が合った気がして慌てて目線を逸らした。肉食動物独特の、鋭い目。

こうやって見ると、俺ってやっぱり、
悪い意味で目立っちゃうんだろうなぁ…。

トマくんの反応もそうだけど、廊下にいた奴らの感じからして俺は異端児だし。
たぶんこの学校には猫属は俺以外いない。

筋トレとかもっと、頑張らなきゃ…。
馬鹿にされるのは、身長だけにしたい




prev mokuji next
bkm