みどりの旗をかかげよ! | ナノ
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どうやら俺は、望み薄だった友達というものを得られたらしい。
トマくんからしたらただのクラスメートその1かもしれないけれど、それでも嬉しい。

無意識のうちに尻尾を揺らしていたらしく、「なに喜んでるの?」と笑われた。


「あの…不安だったんだ、友達できるか。」


この学校にいるってことは、すごい人たちばっかりだし…。
廊下の人たちみたいな人しかいなかったら、きっと俺はぼっちだった。


「そうなの?みんなニコちゃんと仲良しになりたいんじゃないかなぁ」

「何を根拠にそんな・・・」

「んー、下心ってやつ〜?」

「はあ?」


下心?
意味が分からなくて顔を顰めると「なんでもない」とはぐらかされた。
なんか下衆いこと言われた気が。


「てことは、俺がニコちゃんのオトモダチ第一号?」

「タメと喋ったのはトマくんが初めて」

「まじで?光栄だなぁ」


光栄だなんて、微塵もそんなこと思ってないように見えるトマくん
トマくんはすでに友達たくさんいそうだなぁ。俺は緊張してシャワーとご飯の時しか部屋の外に出れなかったから誰とも話せてない。

ご飯は共同のキッチンルームがあるからそこに作りに行ったんだけど、見事に誰もいなかった。みんな自炊する気ないのかな。


「昨日は何してたの?」

「部屋で…授業の予習してた」

「え、まじ?」


そんな引かなくても。


「認めたくないけど身体面はきっと差が出ちゃうだろうから、せめて頭の方で補おうと思って…」

「はー…努力家なんだね。」

「トマくんは何してたの?」


なんか恥ずかしくなって話を逸らす。
実は筋トレもしてた、っていうのはさすがに言えなかった。筋トレしてこれ?って笑われるのは目に見えてるから。やかましいわ。


「なんもー、寝てたあ。これから嫌でも地獄が待ってるから今のうち寝とこ〜って思って」

「ずっと?」

「ずっと。俺寝るの好きなんだよね」


ずっと寝てられるってのもまたすごい話だな…
というか地獄ってなんのことだろう?授業の事かな。


「だから俺にとってのトモダチ一号も、ニコちゃんだよ」

「えっ!」


そ、そうなんだ、お互い友達一号か。
嬉しい。


「わぁ、すごい」


嬉しさのあまりばたばたと暴れる尻尾を見て笑うトマくん。
俺はハッとして、自分の尻尾をガッ!と抑える。

また無意識のうちに!もう!!
恥ずかしいな!!!

トマくんの尻尾を見てみると、軽くゆらゆら揺れてるだけ。

お、俺ばっかり…


「この尻尾、ちょっと大げさなんだ…」


恥ずかしくて熱くなるおでこを手の甲で抑える。
言い訳までするなんて余計に子供っぽく思われるかもしれないけれど、本当に大袈裟だから。


「んふふ、怒った時すごい事になりそうだね。」


トマくんは馬鹿にしたりせずに笑ってくれた。
そして、髪と同じ金色ベースのヒョウ独特の柄をした尻尾で俺の尻尾に触れる。

スルリ、と優しく触れてきたそれ。


う、
うぁっ…?


「怒ると膨らむの?」


俺にそう聞きながら、下から上に、毛先を撫でつけるように動くトマくんの尻尾

トマくんは、表情を一切変えずに頬杖をつきながら俺を見ている。
尻尾だけ器用に動かしていた。


「んっ、んー、怒った時、は、そうだね。ブワァッてこれの3倍になる」

「随分と敏感みたいだしね」

「…や、め…」


そりゃあ獣人だったら尻尾なんてみんな敏感だろうに。

今みたいに、するする触られるのが特に弱い。
思わず背筋を伸ばしてしまいながら、手をギュッと丸くして甘い誘引に耐える。

お、俺、もしかして、セクハラされてない?


「かーわいー。」


トマくんは耐えてる俺の様子を見て面白がってるようだった。
俺をニヤニヤしながら見ているのに気づいて慌てて尻尾を払う

やっぱセクハラじゃん!


「やめろ!」

「わあ、怒った」


声を張り上げた俺を見て、ごめーん、と言いながらトマくんが尻尾を戻した。

謝り方までめちゃくちゃ緩いな。
何だこの人。



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bkm