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教室の中に入ると、廊下に比べて割と静かな空間が広がっていた。
席についてる人は結構いるけれど、各々何かしている。
ゲームをしてる人もいれば、寝てる人も。
俺の事をチラリと見ても誰も言葉を発さない。
完全に自分のペース。
それを見て俺は嬉しくなった。
わぁ〜、ネコ科っぽーい!
やっぱイヌ科はクソだなー!主にさっきのやつら!
尻尾がゆったりと揺れるのを感じながら自分の席を探すと一番後ろの席だった。
やった!
「君随分と小さいねえ」
「むっ!」
席に着いたところで突然誰かに声をかけられた。
俺のことか!?と思って右を見るとどうやら俺だったらしい。
机に突っ伏しながら、俺を下から上までじーっと興味深そうに見ている金髪の人。
髪と同じ金色の目が、ぱちぱちと俺を見上げている。
うわっ…
なんだこの失礼なイケメン…
「小さいとは失礼な…!一応猫属の中では大きい方なんだけど」
馬鹿にされたことにムッとしながらも、目の前の人物にドキドキする。
彼は俺にとっての第一クラスメート。
普通に緊張する。
彼は、俺の言葉に「ネコゾク?」と首を傾げた。
けれどすぐに合点がいったのか綺麗な目を丸くする。
「…あぁ!噂の猫ちゃんは君かあ、どうりでね。俺はトマね、豹だよーん。」
「お…俺はニコ…はじめまして…」
自己紹介をした俺に、トマくんはニコッと微笑んでくれた。
豹。
確かによく見ると、彼の髪も金の中に黒とプラチナの髪が混ざっている。
耳も同じく金色の毛並みで、そこに斑点マークが描かれていた。
…綺麗な毛並み。
「随分見てくるね?」
俺がガン見していた事に彼はへら、と目元を緩めた。金色の瞳をスイッと細めながら、袖口を口元に持ってきて顔を少し隠している。
あっ、
初対面なのにジロジロ見るなんて俺も失礼すぎじゃん!
「ご、ごめん、気を悪くしたなら謝る…」
「んーん、違うよ、そんな可愛い目でジッと見られるもんだから照れただけ〜。」
「気にしてないよ」と言ってくれるトマくんにホッとする。よ、良かった、すごく優しい人だ…さっきのイヌ科だったら何見てるんだよぶちころすぞくらいは言ってたきっと。
「ニコちゃんの目、綺麗な翠だね」
「にっ…?」
ニ、ニコちゃん、って…。
初っ端からフレンドリーに”ニコちゃん”と呼ばれたことに戸惑いながらも「そうかな…」と首を傾げる
俺の目は、ミントグリーン色。
制服が赤黒白なんだから、緑なんて合わない。おまけにタッセルピアスも赤色だし…
俺もグリーン系じゃなくてゴールド系の目が良かったなぁ、とキラキラ眩しいトマくんを見て思う。…顔の良さも関係してるか?
「ニコちゃんはいつ入寮したの?」
「えっと、一昨日…?」
「んじゃあ、まだ慣れてなくて大変だね」
「うん・・・。トマくんは?」
「俺は今日で一週間くらいかなぁ」
え、はや。
入寮してもうそんな経ってるの。
もしかして俺って遅すぎたのかな…。
「ニコちゃん人気者で大変でしょう?今日は普通に登校できて良かったね〜」
「に、人気者?人気者、っていうのかなこれ」
人気ものってもっと良い言葉なのでは?
めっちゃ馬鹿にされた目でみられたんだけど、主に狼属に。
ゆるせん。あいつらいつか痛い目見せる。
思い出せば思い出すほど腹が立ってきた。
「みんな俺が弱そうだからって馬鹿にして…」
そりゃあ体格差とか力では劣るかもしれないけれど、一応同じ学校に入れたんだよ?
そこまで下に見る必要なくない?
「んー。他の科はわかんないけど、少なくともネコ科は馬鹿にしないんじゃないかなぁ」
へらっ、とトマくんは微笑みながら俺にそう言ってくれた。
そうなのかな…。その言葉になんだかほっとする。
「そもそも俺たちって他にあんま興味ないし」
「そうだね…」
当たり前のように『他人どうでもいい』と言われたことに少しショックを受けるけどネコ科は基本そういう生き物だし…。単独行動多め。他人は他人、自分は自分。
トマくんも他人に興味ないタイプなのかな?と聞いてて少し不安になるが、トマくんは笑顔を浮かべてくれた。
「俺は超フレンドリーだから、これから仲良くしてね」
う、
眩しい・・・。
キラキラしたアイドルみたいな笑みを浮かべられて思わず目を細めた。
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bkm