からからにかわいた喉から、
うめき声にも似た声を小さくもらしたおれは現状を把握するために二度、三度、四度とゆっくりゆっくりまばたいた。
ああ、ええと、なんだ、アレだ、なんつーかまあ、落ち着けおれ。
そうだ、とにもかくにも落ち着くのだ。
慌てるな。
騒ぐな。
そう言い聞かせておれが少し見下げた瞳の先には、いつものようにクソまじめな表情を浮かべる顔があって、
しかしそこにあるくちびるは、何かを堪えるみたいにきゅうと固く結ばれている。
かしこまった態度に口調、潔癖でプライドが高い、かわいい顔してかわいくない女。
なあんて、思っていた過去のおれは随分と前の機会からどこへやら。
今となってはこいつの一挙一動をつい目で追ってしまうような有様で、しかしまあ気づかれやしないだろう程度にと気を遣っていたつもりだったのだが、ああ、これは一体どうゆうことなのか。
ただの冗談かはたまた今日は四月一日であるか、とっくに気づかれていたが故の嫌がらせであるだとか?
もしくはどれも違って、単にいつの間にかお互い同じく惹かれ合っていた、だとか。なぁんて。いやいや、どこの少女漫画のナニだそれは。
まあ、ともかく。
彼女の性質と性格から考えれば前者二択は項目から外れることにして、後者二択であろうと思うが、いや、とゆうかそうであって欲しいのだが。

(に、したってなんだってこのタイミングでなんだ?)

とゆうのも、おれはちょうどファミレスのテーブルに、トイレから帰ってきてドカリと腰を落ち着けたところだったからだ。
いやもう本当に、正にファミレスの硬い椅子に尻が当たった瞬間だった。
一息吐く間もなく言われた台詞におれは体勢を整える前の妙な格好で固まっている。
正面には、メモ用紙とペンをバッチリ用意して背筋をまっすぐに伸ばしておれを見つめる彼女が座っているわけだが、
とりあえずおれはまずそれは夢ではないことを確認するために自分の腕をつねってみることにした。


(って)
(やっぱ、いてぇし)

(夢じゃねぇ、か)


つまり、先ほどの台詞が聞こえたのも夢ではないことになるわけであり、次に懸念されるのは聞き間違いではないかということだ。 
はっきりと鼓膜は彼女の言葉を拾いあげたように感じたが、おれの願望がそうねじ曲げておれの耳にお望みの台詞をすり替えたのかもしれない。
うだうだ考えていると、彼女は先程と変わらない調子で再び口を開いた。

「私とは、お付き合いできませんか?迷惑なら迷惑と言ってください」

あまり変わらない表情、その中に不安を滲ませて少し下げられた眉に、おれは軽く呆ける。
どうやら聞き間違いでもないらしい。
現実。
そう、理解した途端。
にやけそうになる口元を堪えて、馬鹿みたいにそこらじゅうを走り回りながら叫び倒したくなるような、阿呆な衝動に駆られるけれどそれもなんとか抑えつける。
やべぇ。
やばい。
やばすぎる。
待てをされた犬みたいに、
こちらを真面目にじっと見つめておれの返事を待つ彼女がどうにも可愛く思えてならないが、おれは努めて真面目な顔を保って咳払いをした。
なんて、まあ返す言葉なんておれにはひとつしかないんだが。
その、おれのひとつしかない答えってやつを聞いた瞬間、この不安そうな顔はどんな色に変わるんだろうか。
らしくもないと思いつつも、
おれは頭の中で少女漫画でよくありそうな、ふわふわ甘くて少年漫画じゃ使ったりしない乙女ちっくなトーンをちりばめたコマに、蒼樹紅が頬を染めて目を丸くする姿や微笑む様をイメージしてしまう。

(しかし、さてはて)
(現実はどうなることやら、だな)

大して驚きもせずに「そうですか」なんてクールな反応だって無きにしもあらずだ。
つらつらと考えながら、余裕ぶって「別に迷惑とかそんなのあるわけねぇだろ、」とやっと口を開いて答えだしたおれがそれから、彼女の反応に連られて赤面することになるのは、この30秒後のことである。














君が見てる

きみが見てる

きみがみてる





title:にやり





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