空にオレンジ色が滲むくらいの時間なんかとっくに過ぎた、真っ暗な部活終わりの帰り道。
おれは重い体を引きずってずるずる歩く。
ずるずる、ずるずる、ずるりずるりと前に進む。
ああ、なんだか、身体中いたいような感じがしてるのは絶対絶対気のせいなんかじゃない。
それに横を歩いていたはずの奴の背中が、いつの間にやらおれの少し前の方ですたすた前進し続けてて、おれの口からはブルーなため息がおひとつポロリ。
だって、本当になんでもうこいつってば、こんなにアホみたいにタフなんだ?
おれは歩くのもしんどいのに。
ハードな練習もさすがに一年も続けてるから慣れたけど、それでも最近体を動かす度にバキバキとうるさく鳴ってて、それってだいたいこいつのせいだってゆうのに。
おかしい。
おれと同じ、いやそれ以上に体を動かしまくってるはずなのにこんなに軽やかに歩きやがって。
あー、なんかあれだよなあ、神様って、マジでかなりの不公平。
部活が終わった後おれは何故だかこいつに、ほとんど毎日といって良いほど晩飯と自主練に付き合わされてて。
今の部活のメニューも、予選に向けて前より更にハードになったっていうのに、更に更にの練習で。
しかも練習は練習でも相手は火神大我。
部活メニューだけでへとへとなおれに対して、火神はまだまだやり足りないってのをいつも顔に張りつけてさ、
そんでおれのとこにやって来るわけだよ。

「今日、食って帰んの‥や、帰るんすか?」

とかね。
もう、ホント一緒に帰るの決定事項なんですねって感じで、うん、そんなことをおれに言ってくれちゃうわけで。
もちろん肝っ玉の小さいおれが無駄に迫力満点な火神に「つか真っ直ぐ家に帰らせてくれよ」なんて言えるわけもなく、白目剥きそうな心地でかくかくと力なく頷くわけなんだけど。
あー、ちくしょうめ、全くなんでこんな関係になってしまったんだおれ。
全然、ぜんぜん、考えてもまるでおれには分からない。
確か二ヶ月くらい前、疲れてぐったり気味なおれを少し気遣うような態度を取ってくれた火神に、「これくらい平気平気、おれなんかもっとやらないとだめなくらいだしなあ」なんて格好つけて答えてしまった辺りから、ちょこちょこと火神が部活帰りに飯と練習に付き合ってくれと言い出したような気がするけど‥ん?もしやあれが原因か?え、でもなんでおれ?他にも練習に付き合わせられる奴って居ない?居ないか?黒子とか‥なんか、もっと連携取れりゃ試合の点に繋がるし、うん、おれよか黒子と練習やってた方が得るものが‥いや、まあでも二人だけじゃなく全体で連携が取れるようになりゃもっとスムーズになるし、バランスもよくなるし、

「‥小金井‥‥、さん?」

「っ、うわあ!?びびびっくりしたああ!な、なんだよ急に!!」

「いや、急にって言われても‥後ろ見たらすげー離れたところで立ち止まってるから」

「‥え、立ち止ま?あ、れ?おれ足止めてた‥‥みたい、です、ね?あー、うん、なんかごめん」

「や、まあ、てか別におれはいいっすけど‥なんか、大丈夫‥なんすか?」

「‥え、な、なんで?」

「なんかだるそうだし」

「あ、ああー‥まあ、うん」

「調子悪いとか」

「んや‥それは、別にないけど」

「‥っすか」


いまいち表情の読めない火神に、心配ないない、なんておれはまた格好つけて意地で歩き出す。
ずるずる、ずるずる、歩き方は格好悪いったらないだろうけど、そしたら火神も今度はおれに合わせてすたすた、すたすた、いや、違うか、なら、ずるずる?うーん、けどなんかそれも違うなあ、ゆらゆら、もたもた、とてとて、ぴこぴこ、ぴょこぴょこ、のしのし?

「‥あ、おお、これは‥のしのしだな」

「‥‥は?」

「え!?い、いや、なんでもないこっちの話」

「‥?ふうん、」

のしのし、のしのし、
ずるずる、ずるずる。
おれと火神が並んで歩くと漫画ならそんな効果音がついてそうだと思う。
もう目前のバスケットコート。
やっと目的地に到着、なんて喜ぶ間もなく火神はバスケットボールを取り出してさっそく練習の準備を始める。
で、おれは座る。
ベンチに。
どかっと腰かけて晩飯に食べたチーズバーガーとナゲットとポテトとサラダが、危うく口から飛び出てしまうようなことはないけれど、トォン、トォン、地面を打つボールの音がそこらじゅうに響き渡っておれは目を閉じる。
トォン、トォン、トォン、聞き慣れたリズムがおれたち以外いないコートに薄く遠く反響する。
なんだか、洗脳されてるような気分だ。
だるくてだるくて仕方ないはずなのに、練習の後の練習なんてごめんなはずなのに、これを聞いているとどうにも尻がむず痒くなってきてしまう。
しばらくは火神がシュートやダンクをする音に耳を傾けてぼんやりしてみるのだけど、次第にウズウズ、ざわざわ。
座っていられなくなって結局、「火神、きゅーけい終わった」なんて言って上着脱いじゃって。
ね。
うん、
で、しかも本当のことを言うと、火神はおれに晩飯と練習に付き合ってくれとは言ってくるけど、実はそれ、練習相手になれって意味とかじゃなくただ単に練習して帰るのに付き合ってくれ、なんて意味だったりしてさ。
だからぶっちゃけると、付き合わされてなんだかなあ、なんて思っても、火神の練習なんか一緒になってやらなきゃいい話なわけで。
自業自得的、ってゆうかね。
つかまあそれ以外にないんだけど。
でも、帰りを誘って来る火神は断れないし、火神は晩飯の後にいつもバスケットコートに来て練習しだすし、おれはそれ見ててなんかもう我慢出来なくなっちゃうし。
(‥うん、結局まあ、火神のせいにしてるけど自分が悪いっつーか悪いんだけど、なあ、)
なんて考えたりして、
トォン、トォン、ボールの音が黒に塗り替えられた空に吸い込まれていくみたいに高く伸びる。
トォン、トォン。
適いやしなくても、ちょっとどうにかして出し抜けないかななんて考えてる自分が居たりして、
あれだけ花のあるプレーをする奴が、なんでかほとんど毎日おれとこんなふうに二人で練習してんのが不思議だったり。
けど、目立たなくてもおれだってあいつらと同じで諦めが悪いもんだから、ね。

「‥っし!今日は抜かせない!」

シャツの袖を捲って、気合い入れて宣言なんかしちゃったりして。
そしたら、火神は笑うんだ。

「は、上等」

それは、ちょっと凶悪な感じ。
けどなんだか見慣れたからか、それが楽しそうに見えるからか、おれは偉そうに言うんじゃなかったかな、なんて内心で後悔しつつも火神の動きを追いかけて神経を尖らせる。
そうして真剣に、たまに気を抜いてふざけたことも交えながら。
あー、
また今日も火神のせいで体痛いままだなあとか責任転嫁して、だるくてしんどくて家に帰ったら風呂入ってベッドに直行な生活なんだけど、なんか、まあ悪くもないとか思ったりしちゃってる。
とか、そんな自分が居たりするもんだから、まったく参る。
ああ、
本当に、まったく見事に困ったもんだ。
だるくてしんどくて、試合だとか練習の後の練習なんて好きなんかじゃないってのに。
だけどどうにもこうにも、楽しくて、さ、































つまるところ全ては君と僕とあれのせいであるということ



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