「このあいだ言ってたコンビニの噂なんですけど、」
「‥‥‥」
「噂の元は、三年前にご近所から姿を消した小学六年生の女の子みたいで」
「‥‥‥」
「で、その子がよくそこのコンビニを利用してたらしいんですよね」
「‥‥‥」
「それで‥‥、って、せんぱい?」
「‥‥なんだ?中島、」
「‥なんか、いつもと違くないですか?」
「変化のない人間なんざ居ない」
「‥何かあったんスか?」
「日々何もない人間も居ない」
「‥‥‥‥はあ、そうですか」

なんだか、せっかく調べた怪談話の噂を伝えるのが一気にどうでもよくなってきてしまってあたしはむすり、口をつぐんだ。
先輩は、ああ言ったけれど、この類の話題になった時はきもちわるいくらいにうれしそうな顔をして変な笑い方をしたりするくせに、なぜだか今日はご機嫌ななめだ。
いや、やっぱりそれもちょっとちがうかも。
ご機嫌ななめとゆうよりも、いつも以上に何を考えているのかわからない。
すましたような真面目な顔であたしを見つめて、ああ、そうだ、これじゃまるで普通の人みたい。

(でも、こわい話なんかしないで、いつもそうしててくれたらいいのになあ)

はからずも先輩とにらめっこをすることになったあたしは、眉間にむむむとしわを寄せて考える。
ソファーに前のめりに座って腕を組みながらあたしを見下ろす先輩、コンクリートの地面に正座して先輩を見上げるあたし。
黙々、沈黙。
怪談話を愉快げに語るときとはまるで違う、
さもありふれた男子学生を装ったような表情はまばたきをくりかえすだけ。
あたしを見つめて、瞳にはあたしが映っていて、そうして反対にあたしは先輩を。

「‥中島ァ」
「っ、な、なんスか、先輩」

にらめっこに夢中になって、先輩がいきなり口を開いたのにびくりとしてしまう。
先輩独特の、不思議と聞き入ってしまうような声。
それは、愉悦をにじませて日々あたしから悲鳴をひきずりだしてゆくだけのものだったのに、唐突に奇妙な違和感をもたらして、あたしをじわじわと不安な気分へ突き落としていく。

「‥せん、ぱい‥?」

名前を呼んだきり黙りこくる先輩に、恐る恐る声をかけると、先輩はため息混じりに顔を背けた。

「‥‥‥」
「‥せ、せんぱい、」
「‥‥こら。こっち見るな中島ァ」

素っ気なく言われて、慌ててあたしは先輩から視線を外した。
目の奥と胸の辺りがキュッと痛くなったような気がして、だんだん顔が強ばっていく。
怪談を聞かされている時とはまた違う、言い知れない恐怖に似たものを感じて、あたしはなんだか泣きそうになっていた。
何か、先輩の気に障ることをしてしまったのだろうか?
思い当たることもないし、考えたって、分からない。
変人の極みに居るような先輩の琴線なんて、そんなの分かるはずもない。
だからこっそり盗み見るようにして先輩に視線を送ると、絶対にそれに気づいているはずなのに、先輩は明後日の方向を向いたまま、それから暫らくはこちらを見ようとはしてくれなかった。



















君との距離感がわからないみたいだ



title:coupe





「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -