何もかもを奪い去ろうとするように、あたしを掻き抱く腕が誰のモノか分からない。熱に浮かされた頭は靄がかかったみたいにはっきりしなくて、答えめいたそれが浮かんだ途端に霧散してしまうからなんだか少し厄介だった。触れている肌はあたしが発熱しているからか氷のようにひやりと冷たい。それを気持ちいいと感じているのだけは認識できたけれど、そこから先はいまいち明瞭な思考にまでは至らなかった。あたしを抱きしめるこの腕には、敵意や悪意は潜んでいないのだろうか。
「‥ねえ、マチ。死ぬのかい?」
穏やかな声に誘われてうっすらと目蓋を持ち上げれば、更に強く抱きしめられて苦しかった。どこかで見た髪の色と、皮肉にも鮮明に覚えのある薫りに、苦々しい味を思い出したような気がする。
「‥‥死ぬわけ、ないでしょ。勝手に、殺すな」
「マチ、起きたの?」
「‥たった今、あんたのせいでね」
「何、怒ったの?らしくないなぁ」
「‥‥黙ってよ、」
「ただの冗談じゃあないか」
くすくす、面白そうな声音がわざとらしくあたしの耳を擽って、緩められない腕は相変わらずの苦しさを保ったままだった。骨が軋むほどの拘束は、抱擁と呼ぶには不自然で、あたしには振りほどくような気力もない。
「‥ねえ、あつくるしいんだけど」
「そう?僕はちょうどいいくらいだよ」
「は。そりゃあ、アンタはね」
陽気な物言いに、いらりとしたあたしは可能な限り嫌味たらしく呟き返す。ああ、汗ばんだ身体が気持ち悪い。いい加減に早く飽きて、どこへなりとも行ってしまえばいいのに。そんなことを考えながら不快さに顔をしかめると、その表情なんか見えていないはずの不気味な男はそれでも甘やかすような声で、小さく笑ったようだった。
「ごめんね、マチ。離してなんかあげないよ、」


















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