ふれたてのひらの温かな場所から、
ほろほろと失っていくものにはっとしたわたしはひっそり、ひっそりと息をのむ。
ねえ、だって。
ああ。
どうしてなのだろうか。
こんなにも冷たいものにふれたことは今までに一度だってなくて、なんだか、こわい、そう考えている間にもわたしの手からは温度がうばわれ、ヒヤリヒヤリと冷たくなっていく。
水よりも、剣よりも。
そういう類のものとはまるで違う熱はわたしの中のどこかから、そうして、確かに彼にふれている指先から、どんどんと熱を取りのぞいて何も残さなくしてしまうみたいにひどいくらいの冷たさで。
ぶるり。
わたしは、知らず知らずの内に身震いしてしまう、

「ナンナ。離してくれないか、」
「どうして、ですか」
「お前の手は温かいだろう?」
「そんなことはありません」
「いいや、とても温かいよ」

きらり、きらり、
まぶしいくらいの陽射しの中でそう笑った彼の微笑みは、じんわりと優しさを溶かしたような温かさでわたしに向けられたというのに、ふれているそこからはどうしてもわたしと同じ温度は生まれてくれなくて、
はなせなくて、
うしないそうで動けない。
ああ、だって、ね。
わたしの手が温かくて、あなたがこんなにも冷たいというのならば、それならば、ね。
あなたが温かくなるまでずっとずっと、わたしがあなたにふれていれば、いつか何かが変わるんじゃないかって、いつもそんな馬鹿げた想像が頭を過ってしまうのです。
なくしていく指先の温度に背筋がざわざわと寒くなっても、肌にふれている感触だけは規則正しすぎるほどに柔らかくて、人間らしい。
なんだかわたしは息が苦しかった、

「ナンナ、」
「いや、です」
「‥‥ナンナ。手を、離してくれ」
「っ、いやです、」
「‥どうしてそんな顔をするんだ」
「、」
「‥ナンナ?」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「ナンナ」
「わかり、ません、」
「‥ナンナ、」
「じぶんでも、ぜんぜん、わからないんです、」

決して、その手でわたしの手をどかそうとはしない、してはくれない、
そんな優しさはきっとまやかしで、
人の形を型取った無機質な何かをわたしが頭に思い浮かべてしまうのは、彼がわたしと同じ温度を持ち合わせていないからというだけの単純な話ではないはずで。
(ああ、ほら、)
(こんなにも重ならないわたしたちのすべて)
近づくほどに開くばかりの距離の埋め方なんてわからなくて、けれども、だから、とわたしが手を伸ばせば彼は曖昧に微笑んで、いつだって躱そうとはしない。
やんわりと遠ざかる素振りを見せるだけで、また、そうやって、そうやってあなたは、

「‥ナンナ、」

そんな、ふうに、
目を細めながらわたしの名前を低く静かに撫でていって、
困ったようにわたしを覗き込む。
ふれあうのは、わたしの指先が留まる頬の浅い場所だけなのに。
冷たくて、なんだか体のどこかが今にも泣きだしそうにいたくなる。
わたしは、ふるえる手を誤魔化すためにぎゅう、とかたく目を閉じた。
その寸前に見えたあなたは、微かに目元をくしゃりとさせながら、慈しむような眼差しで微笑んで、いて。
(ね え、)
(本当に、どうしてあなたはそうなのでしょうか、)
こんなにも、あなたが温かく思えるのに。
そこに熱は存在しない。
あなたがやさしすぎる笑顔を滲ませている世界は、誰にも崩すことができない。
訪れることのない救い、
隣り合うことの適わない体温、
それらにわたしが絶望していることにも気付いてしまっているのだろうあなたは、
それでも、きっとどうしようもなく柔らかな表情で、何度だってわたしに笑いかけてしまうのでしょう、?

「ナンナ、目を、開けてくれ」

静かに、呼ばれてゆっくりと目を開ければ。
ほうら、
やっぱり。
あなたは困ったように微笑んでいる、
(だけれど、あなたに熱が灯ることはない。)
わたしがふれてもあなたは決して振り払わず、
あなたは、わたしにふれてこない。
それがあなたのやさしさなのだと、わたしは確かに知っていて、
でも、だからこそ、あなたが浮かべるその口元の笑みに、いつか見せかけだけではない確かな温度が宿ればいいと、そう思う。
せめて、わたしがふれる場所だけでも、あなたが温かいと言ってくれたわたしのそれが、体のどこかへ移ってしまえばいいのだと。
そう、思う。
どうしたって、祈るんです。
その熱がたった一瞬の、幻に似たものでしかなくとも。
わたしは、願わずにはいられない。
ただただあなたに幸あれと。
(わたしは、今日も、それを願わずにはいられないのです、)

























微 温 接 触






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