裸になった木の下を埋め尽くす枯葉が、
歩くたびにくしゃくしゃと乾いた声をあげていた。
陽が落ちてから吸い込む空気は、昼間とくらべると
なんだか鋭く肺の中を突き刺すようないたさだ。
とてもつめたい。
だから、俺はコートのポケットに突っ込んだ手を握りしめると、
ほんの少しばかり身をちぢめてそれにぎゅっとたえる姿勢をとった。
そうして、ため息を吐くように溜め込んだ二酸化炭素をはあと吐き出す。
ふわり、煙みたいな白息があらわれて、消えて。
さくり、さくり。
二人だけの足音が、
単調なリズムで耳に届く。

「はは、なんだかゴジラみたいだね」
「‥なんですか、その、ゴジラみたいって」
「いやぁ、だってなんか、息があんまりにもすごいからさぁ、」

おなじ速度、おなじ歩幅で隣を歩く人が
まねするようにはあ、と息を吐き出して、きょとりとした目を楽しげに細める。

「ほら、そんな感じに見えるでしょ?」

子供っぽい顔で足立さんがわらうと、またひとつ白い塊が視界に姿をあわらして掻き消えた。
小さな子がするみたいにまた何度もくりかえし、無害な白煙をつくってはよろこぶ横顔はほんのりと空にのこる橙にそまって赤い。
それだから、俺はただ静かにだまってそれを見つめて、
あと少しで終わってしまう二人きりの帰路をひっそりと名残惜しんでいた。
(時間よ、とまれ)
(それかこの一瞬が一生になってしまえばいい、)

ぼやぼやとした頭でそんなことを考えながら、ほんのちょっとだけ浅い呼吸をくりかえす。
気道を抜けて体中へひろがる冷気は容赦もなしに俺の体温をうばってゆくから、なんだか体がぶるりと震えた。

「ん、さむい?さむいなら僕のマフラー貸したげるよ?」
「や、大丈夫です」
「でもなんかさむそうだし、」
「んん、大丈夫ですよ。冬だからさむいのは仕方ないし」
「うん、けどやっぱさむそうだしさ」
「い、いや、でも足立さんのマフラー使っちゃうと足立さんがさむいじゃないですか」
「んーまあ、へいきへいき」

足をとめて自分の首にまいたマフラーをとる足立さんは、おいでおいでと手でゆらして微笑む。
つられて立ち止まって、だけどどうしようか考えていたら、少し経って足立さんが自分からゆっくりと近づいてきた。
そうして、ちょっとばかり格好をつけた顔でぐるりと俺の首にマフラーをまきつけると、満足げな顔でにっこりする。
ほんのりとあたたかい、それは、足立さんの温もりをまるでそのまま首に移したような、そんな錯覚をおぼえる、ような、

「かぜ、ひいたら大変だからね」
「‥別に、そんなの大丈夫なのに」
「でもほっぺもこんなに冷えてるじゃない」
「、だって、さむいし」
「うん。さむいね。じゃあ、素直に受けとっといてよ」

くしゃり、頭をなでられて、今日もやさしく子供あつかい。
足立さんの指先が何気なしにふれていった頬には、ただただ足立さんの温度ばかりが静かにのこっている、のに。
(足立、さん、)

もう、これ以上は近づいてゆけない予感がいつだってこの胸をしめていて、
それだから、大きなてのひらをとることも、跳ねのけることも、きっと、俺にはできやしないのに。
(あだち、さん)

(おねがいだ、)
(時間よ、とまってくれよ)


「わ、日が暮れるの早いね、もうまっくらになってきた」

すっと、言いながら頭にのせられていた手は当たり前に遠のいて。
ああ、そうだ、この手はいつも、いつもいつも、いつだって、どうしたって、俺の涙腺を上手に刺激してゆく、から。
きちんと、誤魔化さなくてはいけないんだ。

「わ、あ、ホント、ですね。早く、帰らなきゃ、」
「うん。あんまり遅いと菜々子ちゃんも心配するだろうしね」
「、はい」
「じゃあ、もうすぐそこだし。さ、帰ろっか」

ふわり、ふわふわ。
白い息を生産して、屈託のない笑みが向けられる。
それは、ゆるゆるとやわらなところに小さな傷をのこして、それでも、まだこの温もりを手放したくはなくて。
(あだちさん、)

ああ、ああ。
治るそばからついていく傷が、膿んで、いっそそれが隣り合わせの温もりとしてあってくれたなら。
(あだちさん)
本物のあたたかさじゃなくたって、いたみを伴うものだったって、それでも、手放したくなんかないのです。
(おねがいだ、)

風を切って前を行く、足立さんのえりあしが胸を焦がす。

(ね、それだから、)

(この一瞬よ、どうかあと少しだけ)
(温もりと鈍く擦り切れるようないたみを、ここに)






























届 か な い

え り あ し






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