「ねえ、なん、で?なんで、そんなこと、言うの?」

なじるように、茫然とその場に落ちた言葉はひくり、あたしの喉を震わせた。
ああ、だけど違う、違うの。
あたしはそんなことを言いたいんじゃない。

「っ、なんで、ねえ、どうしてやめるの?‥あたしが、イヤになった?あたし、何か、気に入らないことした?」

頭では、必死に今すぐやめなくちゃ、このうるさい口をふさがなくちゃと思っているのに、止まらない。
思考と感情が噛み合わなかった。
直に心臓に爪を立てられたならばどうにか止められそうな気がするのに、だけどそんなこと現実には出来るはずもなくて、あたしは、悲鳴じみた声を震わせる。

「‥ふ、あは、ははは、は。ああ、やっぱり、あたしが、変だから?他の子みたいに、マトモじゃないから?ね、そうなんでしょ?」
「‥出雲ちゃん、」
「はっきり、言いなさいよ。あたしのこと、好きって、あんたは言ったけど。結局、みんなそうよ。うそばっかり。もういや。きらい、だいっきらい」
「出雲ちゃん」
「さいてい、」

口先だけ、なんて。
ぼろぼろと、零れだす涙も構わずに顔を歪めて吐き出した言葉に、あたしの喉の奥は痛いくらいに乾いて張りついていく。
困惑したようにあたしを見つめていた朴は、何故だか少しずつ怖い顔になって、だけど悲しそうに目を細めた。
(あ あ、)
違う、違うの。
あたしは、こんなことが言いたいんじゃない。
あんたにこんな顔をさせたいわけじゃあない。
あたしはただ、

あたしは、ただ、


「‥‥‥‥出雲ちゃん。ねえ、お願いだから、泣かないで」
「っ、うるさい、わね、あたしの勝手でしょ、」
「‥勝手でも、なんでも。そうされると、僕、どうしたらいいのか分からなくなるよ」
「そんなの、しらない」
「‥出雲ちゃん」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥あのね」
「‥‥‥‥」
「‥僕、好きだよ。ずっと。今も、馬鹿みたいに出雲ちゃんのことが」
「っ、」

囁くような、朴の台詞。
それにあたしは、反射的に抗おうとした。
だけれど、あたしのくちびるや喉元を覆い隠すようにして、伏し目がちな朴はあたしの体を常とは違い強引な力でぎゅっと腕の中に抱き寄せてしまう。
朴の肩口に顔を埋める形になってしまったあたしは、視界から外れる寸前まで見えていた朴の辛そうな顔が、頭に焼き付いて離れない。

「‥‥好きだよ、出雲ちゃん。口先だけの冗談でも、嘘でもない」

言い聞かせるように耳元で呟く朴の声は何かを押し殺すように少しだけ低くて、いつもよりもひどくやさしくあたしの鼓膜を震わせる。

「‥でもね、僕、やっぱり塾はやめようと思う」
「‥‥なんで、」
「‥授業も、ついていけてないし。僕には皆みたいに、戦えるようなチカラはないと思うんだ」
「っ、朴は、あたしが、」
「‥‥出雲ちゃん」

何度も、何度も口にしてきたあたしの陳腐な常套句。
それを遮るようにして、朴はあたしの名前を諭すような声音で呼んだ。

「‥ありがとう。けど、もう、決めたんだ」
「朴、」
「‥‥うん」
「‥嫌。あたし、嫌よ」

抱きしめられているせいで上手く出来ないけれど、駄々っ子のように首を振れば、宥めるような手つきで頭を撫でられた。
どこかゆっくりと、繰り返し子供にするように。

「‥ねえ、出雲ちゃん。塾をやめるからって、出雲ちゃんを嫌いになるわけじゃないし、もう二度と会えなくなるわけでもないんだよ?」
「‥だって、朴、」
「‥‥出雲ちゃんは、僕が信じられない?」
「っ、そんな、こと‥!」

弾かれたように、顔をあげる。
すると、あたしを見つめていたらしい朴の瞳と目が合って、ふんわり、甘やかすみたいに微笑まれた。
なんだか、胸が苦しい。
思わずあたしは息を詰めてしまう。

「‥ふふ。よかった、」
「‥‥な、何が、よかったのよ‥?」
「だって、出雲ちゃんもう泣いてないから」
「‥‥‥‥」
「‥なんて、ね。まだちょっと、泣きそうな顔はしてるけどさ」
「な‥!うっ、うるさいわね!」

恥ずかしさに、目尻がかっと熱くなったあたしは睨むようにして朴を見つめた。
けれど、きっとそんなものは見慣れてしまっているのだろう朴にはまるで通じてくれなくて、向けられる笑みは柔らかく、あたしの体のどこかをじわじわと音を立てながら溶かしていく。

「‥やっと、いつもの出雲ちゃんだね」

あたしの両頬を少し大きめな手の平が挟み込んで、確かめるように額と額がこつん、小さく音を立てて触れ合った。

「‥‥っ、あたし、は。‥いつだって、あたしよ、」

素っ気ない言い回しに、ああまた、とあたしは苦い気分で顔をしかめてしまいそうになる。
だけどそれでも、瞳の中に映り込む朴のやわらかな色をした光彩は、あたしを見つめながら瞬いて、静かに笑っていた。

「‥うん、そうだね、」

呟きながら、頬に残る濡れた跡を指先で拭い去って、ふわり、。
朴はあたしを柔らかく抱き締めると、どんな出雲ちゃんでもだいすきだよ、そう言いながら、あたしの目尻にキスを落として、だけどもう泣かないで、そう、困ったように微笑んだ。













ドントクライ

ベイビー、





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