「おはようシュラ、いい朝だな!」

溌剌とした声が高らかに響いて、泥の中に浸かるようにして眠っていたあたしは、望まずして唐突に覚醒をうながされた。
ずきずき、ガンガン、頭がいたい。
まぶしい朝日が差し込んで、小鳥がさえずる爽やかな早朝に、男の声はピタリとハマるほどすずやかだ。
(けれど、今のあたしには、それは苛立ちと頭痛を助長するだけの要因でしかない、)

「‥は。どっこがいい朝だっつーの。どっちかって言えば最悪だよ、サ、イ、ア、ク」

体を起こして、アタシが頭を押さえながらうめくように言うと、男は腰に手をあてて微笑んだ。

「どうせまた、朝方まで飲んでたんだろう」
「‥で?だったらなんなんですかぁー?アタシ眠くて死にそうなんですけどぉー?」
「そうか、わかった。今から出かけよう」
「いや、人の話聞けよ。てか脈絡なさすぎだろ」
「十分以内に支度をするように」
「っだから、マジでアタシねむいんだってば」
「シュラ。オレはお前の上司なわけだが?」
「はあ?だからなんだっての」
「十分以内に、用意をするように」
「フン。やなこった」
「分かったな?」
「やだ。ねむい」

端的に言い捨てて、がばり、あたしは頭から布団を被った。
ざわ、。
しかしすぐさま、何か不穏な気配を察知して、いやいやながらもあたしはもぞりと顔を外に突き出してみる。

「ふうん‥。シュラ、そんなにねむいのか?」
「‥あのさぁ、だからさっきからそう言ってんじゃん」
「そうか」
「‥‥え、いや、で、なに。ちょっと、なんで両手広げながらこっちにやって来てるわけ?」
「うん?なら、オレが一緒に寝てやろうかと思ってな」
「、っ、はあぁあ!?いやいや、まったくもってアタシあんたの言ってる意味がわかんないんだけどさぁ、」

呟いて、ますます頭が痛くなるような発言に、あたしは男の顔を力なく半眼でにらみつけた。
けれどそうしている間にも、男はご自慢の長い足であたしの前までやって来て、更にはベッドの奥へ詰めろと言わんばかりの笑顔をあたしに向けてくる。

「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」

無言、無言、無言。
続くばかりの沈黙がどうにもこうにもいたすぎる。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、‥‥‥はあぁああ‥‥‥‥。もう、分かったよ。用意すりゃあいいんでしょ?」

顔をしかめたまま、疲れ切った内心を見せつけるようにあたしは眉間にシワを寄せた。
今までの経験からして、この男はきっと本気で一緒に寝る気なのは間違いないし、それを拒否したところであたしを布団から引き剥がそうとするのをやめるつもりもないはずだ。
それに、こんなに早い時間から人の部屋に押し入って、あたしに出かける用意をしろとうるさいのは、どうせあたしの日頃の習慣を叩き直してやろうとでも善意で思いついたからに決まっている。
まったく、なんとも面倒くさい男だ。
それに上司で、しかも聖騎士。
考えながらのっそりと重い体を起こすあたしに、男は満足げな笑みをこぼしてくる。

「十分だぞ、シュラ」

そう言って、乙女に用意をうながすくせにその場をまるで離れようともしないのは、何かの意図があってなのか、はたまたいつもの純粋培養が成せる業なのか。

「‥五分でじゅーぶんだよ、バァカ」

不機嫌をさらすように、あたしは気怠い口調で言い捨てた。
そうして眠い目を擦って伸びをすると、布団から這い出るようにして地に足をつける。
無垢を装った男はにこにこと食えない笑みを浮かべていて、だけれど、どうせ頭の中じゃあきっちりと五分を計っているに違いない。
そうして、一秒でも過ぎればこの男は、あたしが素っ裸だろうがなんだろうが、きっと問答無用で連れて行く気なのだろう。

(ああもう、今日は最低最悪な一日になりそうだ!)

思ったあたしは、手早く着替えを済ませてこの聖人面に何かを言わせてしまう前にと、男の目も気にせずに寝巻を脱ぎ捨てる。

「シュラ、あと四分だ」

どこか平坦な声で呟いた男に、あたしは小さく舌打ちを漏らした。
すると何がおかしいのか、男はくつくつと喉を鳴らして笑いだす。

「‥つーか、いい加減に外でてけっつーの」

ぼそりと呟いたあたしの低い声は、それでも男の耳へと確かに届いたはずだろう。
それなのに、あたしを見つめる男は何も聞こえていないようなお綺麗な微笑を浮かべて、口をへの字に曲げた半裸のあたしを今か今かと待つばかりだった。










バッドモーニング






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