「なあ、朴さんてな」
「うん」
「髪伸ばさへんの?」
「‥志摩くん、髪長いほうが好き?」
「や、そういうわけやないんやけど。なんや長いのも似合いそうやなぁ思て、」

頬杖をつきながら、頭になんとなく浮かんだことをそのまま朴さんにつらつらと呟いていく。
そうして、イメージ。
(‥うん、多分というか、朴さんは絶対に長い髪も似合う気がする、)
短いのも似合うけれど、アップにして、それで襟元から覗く項なんかはきっと視覚的にどうにもたまらないことだろう。
(あー‥‥絶対ええ、色っぽい)
(もし朴さんがそんな髪型してたら、後ろから抱き締めながら肩口に顔埋めて、項にちゅうでもして、驚いて振り向いてきたところを今度はそっちに、)

「‥‥‥志摩くん?」
「、んぇ?」
「‥‥‥‥なんか、ニヤニヤしてるけど」
「っ、え、‥えぇ!?いや、いやいやいや、そんなことあらへんよ!?別にやらしいこととか、全然、考えたりしてへんし!!」
「‥‥‥‥‥‥やらしいこと‥?」
「うっ‥‥い、いや‥‥あの、朴さん!や、やらしいこととか別にそんな‥なんか、ちょ、ちょっとしか考えてへんっていうか‥!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「、あ、の‥‥‥ぱ‥‥朴、さん‥‥?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

無言。
じっとりとした、眼差し。
疑わしそうに俺を見つめる朴さん。
片や墓穴を掘って汗がだらだらと止まらなくなる俺。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ス、ンマセン、正直に言いますやらしいこと考えました。髪くくった朴さん抱き締めて首にちゅうしたいとか思いました。嘘ついてスンマセン。全力で謝りますホンマごめんなさい許してください朴さん。‥いや、あの、せやからなんかもうホンマその顔すんの‥あの、堪忍してつかぁさい、お願いします‥‥‥俺、そんな顔で朴さんに見られてたら‥‥‥あ。アカン、なんや泣きそうになってきた‥‥‥‥」

いつもはふわふわ優しい瞳が、冷たく、今はちょっと軽蔑混じりに思えるだとか。いや、だって、そんな。それが気のせいだったらどれほど救われるだろうかと思えど、都合よくそんなはずもなくて、あ、やばい、マジでなんか段々視界がにじんできた。
しおしおと頭を下げてどうするべきか回らない頭で考えてみても、何も良い案は浮かばない。
絶望的な気分で血の気を引かせていると、ふいに朴さんは顔を逸らし、ふるふると肩を揺らしはじめた。

「‥ぱ、朴さん‥?」
「‥‥‥ぷっ!もう、だめ‥‥!」
「、へ?」
「ふ、あはははっ!志摩くん、ごめんね、そんな顔しないで、」

もう我慢できないとばかりに朴さんが噴き出し、俺はへにゃり、笑う朴さんに情けない顔で首を傾げた。
一体なんなんだろうか。
俺にはわけがわからない。
けれど朴さんはもう、さっきまでの責めるような表情をひそめて笑っている。
にこにこだ。
かわいい。
でも、なんだかいつも以上に楽しそうな笑みに思える。

「志摩くんが、なんだか心ここにあらずみたいだったから‥少し意地悪しちゃったの。ごめんね?」
「う‥‥そ、それは、その‥」
「うふふ、志摩くんビックリしちゃったよね」
「や、いや‥うん‥‥俺も、ごめんな。せっかくのデートやのに上の空になったりして‥」
「ううん、大丈夫だよ。私もちょっとやりすぎちゃったみたいだし‥」

苦笑って、じわりと涙目になりかけていた俺の目元に手を伸ばす朴さんがつぶやく。
触れる指先と、まんまるな瞳を細めた朴さんの顔がちょっとずつ近づいてきて、あれ、いや、ていうかなんや、近すぎる、気が。と、思った瞬間。
チュッ。
小さくてもそれだと分かる、あ、今の、リップ、音、

「、は‥‥‥‥?」

惚けた声を上げる間に、目を閉じた朴さんがゆっくりと瞼を持ち上げながら、離れていく。今、何か、口に柔らかいものがあたったような。ていうか、今のっ、て、

「‥‥‥‥‥‥‥あ。志摩くん、真っ赤っかだ」

ぼんっ、気づいた途端、顔から火を噴いて、そんな音がしそうなほどの勢いでその熱は身体中へと一気に広がっていく。クスクス、笑う朴さんはとてもご機嫌で、幸せそうで、やっぱり、かわいい。でも、その表情は俺の目には少しばかり意地が悪そうに映っている。ちょっと、悔しい。いや、ちょっとどころか結構悔しい。そう思っているはずなのに、しかし俺はそんな朴さんも嫌いではないようで、どうしようもないくらいに胸がバクバクとうるさかった。いやはや、俺はどんなどM体質なのかと。そう心の中で茶化してみても、身体を巡る熱は冷めるどころか増すばかりで、もはや俺に為す術はない。

「ねえ、志摩くん」
「な、なんですやろか朴さん‥」
「私ね、髪、伸ばしてみようかなって思って」
「‥え、?」

嬉しそうな声で言う朴さんに、俺は目を瞬かせる。
微笑む柔らかな眼差しは、甘えるようにふうわりとまた細められて、確かに、俺に向けられていた。
(っ、アカン、やばい、その顔は反則すぎる)
(う、わ、)
(どうしよう、なんや、頭くらくらしてきた、)

「‥あのね、志摩くん。私、志摩くんに後ろからギュッてされてみたいの」
「、ぱ、く、さん、」

なんて、思っていたら更にとどめの一撃、見事に俺の胸にクリーンヒット。
お見舞いされた渾身の右ストレートに、俺はゆっくり、遠い目で天を仰いだ。
なんなんだろう。
これってもしかして、さっきから全部わざとやってるんじゃないんだろうか。
深々、肺の奥から漏れるため息。
しかしどうにもこうにも、うなぎ登りにしかならない俺の残念すぎるテンション。

「‥なあ、朴さん。そんなん言われたら、おれ、髪が伸びるまで待ってられへんよ‥?」

咎める代わりに細い身体を抱き寄せて、白旗気分で俺はつぶやく。すると、すっぽりと腕の中に収まってしまう朴さんは、クスクスと笑いながらおれを柔らかく抱き締め返してきた。
(‥ああ、こらアカン、くそう、朴さんがかわいすぎて息が苦しい、)
だからか、もうこれがわざとだろうがなんだろうが、すでにどうでもよくなってきてしまっている自分が居て、苦笑いが漏れる。多分、これが世に言うメロメロというやつなのだ。朴さんに悪魔の尻尾が生えていようと、天使の羽が生えていようと、それは変わらないに違いない。
観念して俺は、犬が主人に顔を寄せるようにそろりと朴さんの頬へ肌を近づける。するとその擽ったさに笑みを零したのか、朴さんは俺の大好きな顔で目を細めて、再び俺の唇をそっと塞いだ。
ああ、柔らかい感触と温度だ。
髪が短くっても長くても、君はどうしたって世界で一番かわいいマイスウィート。
そんな臭い台詞を頭に浮かべながら小さな身体を抱き締めると、その華奢な肩、甘い柔らかさに胸は充ちて、めっちゃ好き、呟いた俺に朴さんは小さく頷くと、私もだよ、そう息だけで笑って、俺を優しく抱き締め返してくれた。














愛を求めて甘ったるい

20121106

title:にやり




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