あの、蒼白く不健康そうな肌に、ゆっくりと歯を立ててみたいと思ったことがある。
それは、
一度や二度の気の迷いなどではない。
顔を合わせる度、
彼女が視界に入る度、
極自然に頭の中に浮かんでは意識のどこかにこびりつき、
そうして、頭から離れてなくなってしまうのだ。
いつまでも、いつまでも。
あの、柔らかそうな薄い皮膚や、伏せがちに目線を下げた瞬間の瞼や微笑まない口元、白い頬。
背を向けたままこちらを振り返りもしない憎たらしい反応を返すときの外耳に、それから、うなじ。
女と言うには年の割に未成熟にも思える風情の蝮の肌は、触れれば蛇のようにひやりと冷たいのではないだろうか、
そんなことを考えて、ゆっくりと頭に思い描き想像する。
その感触、その温度。
俺の腹に熱を灯す何かしらの不可思議な要因。
留まる事を知らない熱はおれの喉をゴクリと鳴らして、舐めるように向けた視線の先にある着物越しの細い肩や胸の膨らみは、おれの思考を容易く奪い去っていく。
それらを俺はどうしようもなくこの手で暴いてみたくて、
なのに、
そんな考えに囚われているおれの眼前では、馬鹿みたいに隙だらけな様で蝮が眠り込んでいるのだから、おれはもう、呆れのため息しか出て来ない。
だって、
顔を合わせれば口論になり、お互い年甲斐もなく術を使ってまで相手をねじ伏せようとして、
ついさっきまでは散々に人を詰り罵倒していたはずなのに、
なんだってこいつはこんなにも無防備になれるんだ?
おれは男で、
そうしてお前は女だというのに。
どうして、こんなにも安心しきった顔で、おれの目の前で眠りこけたりしてるんだ。
まるで、試されているような気分になる。
魔障の影響で疲れが出たのだとしたって、偶然にも二人きりになった途端にこれだなんて。
タイミングが悪すぎるだろうとしか突っ込めない。
いや、逆にタイミングが良すぎるとも言えそうな気はするが、
俺が理想とする女性像とは正反対であるはずの蝮の何かが牙を剥く、
ような、
そんな馬鹿げた錯覚に陥ってしまって、

(‥あーもう、アホか。一体どんな拷問なんや、これ)

嫌悪を抱かなければならないと、そう、刷り込まれていたはずの存在だというのに、
身体中に広がる苦々しい気分は酷くなる一方で。
据え膳食わぬは恥、などとふいに浮かんだそんな言葉をおれは苦笑い、蝮の頭へ手を伸ばす。
触れる髪。
ぱちん、
はじけるように、胸の浅い場所で音を立ててゆったりと広がる温かなもの。
穏やかな寝息をこぼす蝮の髪を梳きながら、おれは諦めたように目を閉じる。
傷みのない感触。
明瞭すぎる感情。
一度にいくつもの波紋を作るその、すべての要因を噛みしめる。
ため息を吐き出したおれは熱の残る瞼を静かに持ち上げて、
そっと蝮の頬に手を添えた。

「‥はよ目ぇ覚ませ、蝮」

悪態を吐くように呟いた声が二人きりの部屋に響いて、
ぱちん、
鮮明な何かは胸でまたはじけて、
広がる。
行き場のない感情を持て余しながらため息混じりに顔をしかめたおれは、
予想よりも温かく、けれど低体温な蝮の肌に、どうしようもない思いで顔をしかめた。
柔い指先の心地、
それを振り払うように手を離す。

「‥‥あー‥‥‥‥もう。ほんま、やっとれんわ、」

呟いて、滲む渋面をてのひらで覆えば、ふっと今度はまるで蝮の体温をそこに移したような気になって、しまう、
だとか、

「‥‥‥‥‥‥‥‥はあ。ほんま、やっとれんわコレ‥‥、」

わざわざ大事をとって休養しているはずなのに、
はてさて。
どっと疲れた気がするのは一体どうしてなのだろうか?
などと、僅かばかりも考えるまでもなく、答えはただただ明朗明白。
その原因たる存在を横目でちらりと盗み見たおれは、
けれどもそれを憎々しげに睨みつけることも出来ぬまま、
再び疲れたため息を吐き出すと、ふかくふかく、うなだれることしか出来なかった。
















知らないあの子は綺麗事


title:深爪





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