「ハルは優しくありません。自分のことしか考えていないんです。それにもしかすると、ハルは京子ちゃんを利用してるかもしれないんですよ?」
ねえ、それなのに、あなたは無防備な言葉を目の前にちらつかせる。口先に上らせる。あなたの感情はとても軽率だ。軽薄だとも感じる。
「ううん、そんなことない」
絶対、そんなわけないよ。ハルちゃんは今ちょっと悲観的になっちゃってるだけだよ。だから、大丈夫。
何をどう感じてあなたがそんな不思議な断定を成したのかは分からない。だけど、私は悲しかった。あなたが分からなくて怖かった。だって、私が欲しかったのは否定じゃなくて、それでもいいよ、甘受するだけで充たされる幸せな七文字のご都合呪文だったのだ。困ったようなあなたの笑顔を見るたび、思い知らされる。あなたは私を見てはいない。愛してなんかいない。なのに、それでも世界が終わるような絶望に襲われることはない。むしろ納得してしまう。それは、私もあなたを愛していないから。そして私があなたを見ていないことの裏付けだ。私は優しくないし、自分のことしか考えていない。それでもあなたは微笑んでくれるし、私はそんなあなたに笑い返してしまう。あなたに、大好きですよと言ってしまう。あなたを利用しながら満足するだけの行為を繰り返す。まるで、本当にそうなんじゃないかと思ってしまうような一時の錯覚を手に入れるために。私は苦い胸の内を抱えながら、あなたに今日もナルシシズムに充ちた嘘を吐き出してしまうのです、
(ねえ、京子ちゃん)
(ハルは京子ちゃんのことが、大好きですよ、)
シャドウワルツ