眩しいばかりの日差しの中で、それを反射して煌めくあの純粋さを装った真っ黒な瞳が放つ軽薄な愛の言葉が昔から大嫌いだった。
好きだ好きだと五月蝿くて仕様のない山本の大きな口は、ガムテープで塞いだところで余り意味を成さないのではないかと思えるほどに日々忙しなく動き、あたしに自分の思いや感情を事細かに伝えようとする懸命なそれはだけれど馬鹿馬鹿しくなる程にどこまでも自分勝手で、自由で、押しつけがましくも嬉々とした声でもって文武不相応なアイシテルを大人に成り切らない唇から何の責任感もなく吐き出している。どうせ、中身なんか伴っちゃいない陳腐な台詞ばかりだ。どれだけ目の前に羅列してみたところで、結局はただの自己満足でしかない。あたしの気持ちなんかお構い無しで、相互理解の余地も無くあたしを好きだと言うくせに、山本はあたしの答えなんかほんの少しだって求めてはいないのである。ただただ、あたしを好きだと、そのラインを越えることも遠ざかることもしないで、全てがそこで完結してしまっている。それ以上にもそれ以下にも成り得ない。どれだけあたしが山本を嫌いであったとしたって、どれだけ、あたしが山本を好きになってみたとしたって。好きだと言う、放たれる、その言葉はきっと嘘ではないと理解出来るのに、どこまでも独りよがりな山本の笑顔はいつだって無邪気で無知で無神経なものだった。手を握られても、抱き締められても、唇を合わせて、肌に肌を沿わせて、一部の隙もなくぴったりと重なり合っても、悲しいくらいにあたしと山本は子供地味た恋愛ごっこにすらなり得ないように出来ているのではないだろうか。

「アンタなんかキライよ」

あたしが常々口にするこの台詞の真意など知りもしない山本は、今日も今日とてあたしがその決まり文句を口にすると、少しだけ不服そうに唇を尖らせていた。しかしあたしは思う。何を今更、と。鼻で笑うのも堪えようとしないあたしに片眉を上げた山本は、何度か瞬くとあの煌めく純粋さを装った真っ黒な瞳にゆらゆらと浅慮な感情を浮かばせながら、口の端をゆっくりと持ち上げた。

「くろかわ、」
「イヤ」
「‥まだ何も言ってねーのに」
「何か言われる前からイヤなのよ」

余裕を忍ばせるような見え透いた笑みが気に食わなくて、あたしが顔をしかめると山本の愛想笑いはどこか苦々しい風情でくしゃりと歪んだ。

「なあ、なあって、くろかわ、」

ゆるやかに向けられた声に、あたしは返事をしない。無視を決め込む。絶対に反応などはしてやらない。頭の悪いふりを演じる山本は、理由も分からぬままに困惑と動揺と混乱に塗れてしまえばいいのである。そう考えながらも、しかしてこの男がこのような幼稚な策で迷走の渦に足を取られることはないのだろうとも理解していたあたしは、舌打ちをしたいのを堪えてミルクを加え過ぎたコーヒーを飲み干した。美味しくない。探るような眼差しを向けて来る山本にあたしは冷たい視線を返して、空になった紙のカップを無表情にトレイの上へ戻した。形だけの簡易な受け皿だ。今直ぐにでもダストボックスの中にそれを投棄してしまいたい衝動に駆られて、ぐしゃりと潰そうとしたけれど思い止まって息を吐き出す。山本は難しそうな顔であたしの様子を窺っているようで、くろかわ、この後に続く言葉を言い淀んだまま口を閉じていた。いつも、しおらしくそうしていればいいのにね。そう頭の隅に浮かぶ悪態は、けれど直ぐさま口にするのも億劫になって消えてしまう。早く家へ帰りたい。苛々と脳内に並べてゆく不満は増える一方だというのに、音にはならず、言葉として生産するような気にはなれなかった。と、言うよりも、そんなつもりなど本当は端から欠けらも持ち合わせてはいないのだ。随分と山本ばかりを悪く言ってはみたものの、性根も意地もまるで良いとは言い難いあたしは、山本とは違う意味で質が悪く、面倒で、結局はこの男を傍に置いておきたいだけなのである。この程度の冷遇では引き下がるような性分ではないと知っていて、試している。自分でも知らぬ間に、そうして、時にはしっかりと頭で理解しながら。山本がそれに気付いているのかどうか定かではないけれど、それでもまだ山本が離れてゆかない内は、甘んじてもいいのだと思っている。真実味のないアイシテルを耳にするだけならば、痛くも痒くもなく、重くもない。軽々しさに言いようのない腹立たしさは募るのだけれど、そこに意味を求めてしまえば一瞬でまっ逆さまに落ちていくしかないだろう。諦めていっそ潔く愛してしまえばと、そう考えてみたことも何度かある。しかしいざそのようにして秘めたる思いが溢れだしてしまったなら、この手の平の中にある紙のカップをなんとなくいつまでも捨てられないでいるような、そんなかわいらしいものではきっともう、あたしは済まなくなってしまうのだ。





































title:深爪




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