手に入らないものをただひたすらに、地団駄を踏んで欲しがる彼女の様は何度見てもまるで子供のようにしか見えない。
けれど、彼女は大人だった。そうして一人の女でもあった。
やっていることは子供のようでもそれは不変の事実で、彼女はつまり何もかも分かった上である事象に関してはいつも子供のように怒り狂ってしまうのだ。
諦めながらも諦めきれず、諦めたいのに諦められない。
嫉妬や嫌悪だって隠しもしないで、その矛先へと真っ直ぐに曝け出す。
捻くれもので頭の回転も悪くないくせに、その辺り彼女が妙に不器用なのは、彼女が恋する乙女というものに一応は分類されるからなのだろうか。
悲鳴のような悪態を浴びせかけられながら、がくがくと揺すられる自分はのんびりとそんなことを考えながら、十数度目かのため息を吐いた。

「い、いか、げんに、はなして、くださいぃー」

「あーもう!!なんなのよなんなのよなんなのよ!!!あんなガキにやっぱり忠告なんかするんじゃなかった!見つめ合っちゃって!二人の世界なんか作っちゃって!!は、馬鹿じゃないの!!?利用されてるだけだってあたしちゃんと言ってやったってのに!!!」

激しい揺れのせいで途切れ途切れになった提案は、やはり彼女の耳には届いていないようだった。
さっきからずっと彼女はこの調子で、自分も同じくこの調子だ。
掴まれた肩が痛いわけではないが、必死に掴まれすぎて彼女の手を外すに外せない。
頭をシェイクされ続けて目の前はもうぐるぐると焦点を結んでいなかった。
それなのに、気が済むまで好きなだけやらせておいてもいいかな、などという考えに毎度毎度行き着いてしまう。
役得というやつかな、とまで思ってしまう始末だ。
つくづく甘いという自覚はあった。
彼女の長い爪先が皮膚に食い込もうが腹いせに足の脛を尖った靴の先で蹴り飛ばされようが、口で迷惑だ最悪だと言いながらも心から本気でそう思ったことは今まで一度もないのである。
可能性ゼロの思慕に見返りなんて期待していない。

(重症だなあ、)

そんな自嘲の笑みが零れても、やはり結局のところ自分はどのような形でも、彼女との関わりを少しでも持っていたかった。








あーあやんなっちゃう





title:深爪




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テーマ「人外ファンタジー」
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