泣いて、泣いて、あとどれほどに泣いてしまうのだろうかと思いかけた矢先、冷めたティーカップに口をつけた骸をハルは睫毛の端を濡らした目で、何を思ったのかふと見やった。自然目が合うのは予想し得たことであったのに、驚く様子もなくにこりと笑ってみせたオッドアイにすこしの恐れを感じて、ハルはわずかに視線を逸らし、再び元の位置へ向けなおす。自分のハンカチだけでは追い付かず、差し出されたハンカチまでも使って拭いすぎた目元は腫れていたからいつものように視界ははっきりとしてはいなかったが、ゆるゆるとやさしく彼が微笑むのは不思議とようくきれいに見えていた。
「‥むくろさんは、」
「はい、なんですか」
「どうして、いつも、笑ってるんですか」
「くふふ、では、逆に聞いてもいいですか?どうして君は今、泣いてるんですか、と」
「っだってそれは、」
「それは?」
「‥かなしい、からですよ」
「そう、かなしいから、泣く。それなら笑うのはなぜか、どんな時か、わかりますか?」
「‥‥うれしかったり、たのしかったりする、とき、とか」
「ふふ、三浦ハル。じゃあ答えはもうわかりますよね、」
「なっ、そんなの答えになってないです!」
「明朗な答えでなければ納得できないと?ああ、それは困りましたね」
「‥な、なんでこまるんですか」
「困りますとも。僕は君が思うよりも、君のことが好きなんですだとか、そうゆう類の告白をしなくてはならなくなるからですよ、と、でも言っておきましょうか」
「は‥‥‥な、なに言ってるんですか、骸さん!」
「なに、とは。おかしなことを言いますね、三浦ハル。僕は、今君が聞いた言葉の通りのことを言ったつもりなんですが」
わかりませんか?崩されない笑みですべて覆い隠すように、整ったその顔は知れりといったふうに延々と滑らかな口調で言葉をそうこぼす。置かれてからまだ一度も手をつけられていないハルの眼前のティーカップには、きっと頼んでもいないのに甘く甘くするためのシュガースティック三本分の砂糖が染みだしているにちがいないとハルはまとまらない頭の中で全く関係のないことを考えていたが、始終注がれる視線に、泣きたいような羞恥心が芽生えてだんだんと顔を隠してしまいたい衝動に駆られた。
骸はそれに気付かないような素振りで、笑みを絶やすことなくまばたいてハルを見つめる。
「‥からかわれるのは、嫌いです」
「からかってなんかいませんよ」
「‥そんなの、うそに決まってます」
「くふふ、うそ、ですか。まあ、そう考えた方が君には都合がいいのでしょうけれど」
「、そんな言い方」
「しないで欲しい、ですか?そんな言い方、とゆうものをさせる君もいけないと思いますよ」
「‥‥‥むくろさんなんて、嫌いです」
「くふふ、だけど残念ながら、僕は君が好きですよ。何度目になるのかもわからないほどに今まで見て来た、君がフラれて泣く姿は、僕にはうれしくたのしいもの、だったりしますからね」
開けにくい瞼の隙間から侵略するように目を細めた骸の指の白さに見とれながらやっと手をかけたティーカップは、冷たさをひやりと指先に伝う。
一段と笑みを深くしてそう紡がれた言葉が本当なのかうそなのかをハルは見分けることはできそうにない気がしたが、戯れにしろ本気であるにしろ、やはり彼が嫌いだと思う部分はどうしたって変えられそうにないな、とハルは心底思った。
敷き詰めたのは
甘くない口説き文句